第248話 仮装備

「よう、そろそろ採掘に行こうぜ」


ルシエルからの質問に答えた次の日の朝、俺はルシエルと共にドワーフのもとを訪ねてそう言った。


「俺もそろっと採掘に行こうと言いたいところだが……」


「ん?」


途中で言葉を止めたドワーフは俺とルシエルを交互に見る。


「お前らどっちも武器がないじゃねぇか。しかも少女の方は防具すらないだろ」


「あっ」


俺はまだサブの大刀があるから良しとしても、ルシエルの武器と防具はない。今のルシエルの服装も安そうな白のワンピースに白い靴を履いてるだけで、魔物と戦える格好では無い。というか、奴隷として買ってから服を新しく与えていない。もちろん、ルシエルの生活魔法で綺麗な状態は保っている。


「お前ら少し付いてこい」


ドワーフはそう言うと、部屋の奥へと向かっていく。俺らもドワーフを見失わないように後を追う。



「ここだ」


「うわっ、凄いな」


案内された部屋には武器が大量に保管してあった。壁にかけるだけでは足りず、棚が置いてあり、その棚の中にも武器がある。また、樽のようなものに無造作に突っ込んであるものすらもある。もしかして、この全ての武器がドワーフの手で作られたものか?


「お前の武器は大鎌って分かってたから大鎌はここから出しておいたが、この少女の使う武器は分からん。だからここから自分に合うのを見つけて…」


「余は刀が良い。全体で1m弱の刀が欲しいのじゃ」


「……それを出しておくから、お前らはここを出て左の部屋に行っておけ。そこにお前の使えそうな大鎌も置いてある」


「よし、行くか!」


ルシエルの刀を探すドワーフを置いて、俺とルシエルは隣の部屋へと向かう。



「おおっ!!」


隣の部屋には大鎌が6本も置いてあった。こんなに並んだ大鎌を見るのは初めてだ。ほとんど作ったことが無いと言っておきながら、6本もあるじゃないか。

俺は我慢できず、早速1本手に取る。


「ほうほう!」


最初に手に取った大鎌の手応えは悪くなかった。むしろ、この街で売り物で握ったどの大鎌よりも優れているとすら思える。ただ、折られた大鎌よりは性能は低いな。

あ、もしかしてこの大鎌を握った瞬間に善し悪しが細かく分かるのはレベル4の特殊能力なのか?


「まあ、次」


とりあえず、今の持ってるやつを手放して次を握る。


「あんま変わんないな」


正直、最初と違いはほとんどない。若干今の方が使ったものが少し良かったから性能がいいくらいだ。


「次は……これもあんま変わんないな」


また次の大鎌を掴むが、あまり変化は無い。むしろ、素材の関係で3つの中で現状最下位である。



「ん?おおっ!」


3連続で性能があんまり変わらなかったから期待せずに次を手に取ったが、それは今までよりも頭1つ飛び出て良かった。これなら折れた大鎌に次ぐくらいの性能はある。


「これも…いいな」


その次へと手を伸ばすが、それもなかなかの出来栄えだった。そして、最後の1本に手を伸ばす。


「え?これは……前の奴よりもいいぞ?」


最後の1本は少しだが、折られた大鎌よりも性能が良い。


「そりゃあ、そうだろ。それは昨日出来たばかりで1番手応えがあったからなっと!」


そう言いながら、刀が何本も入った樽を持ちながらドワーフがこの部屋に入ってきた。持ってくるのが早かったが、どこに何があるのか把握しているのか?

刀達を見て、すぐに移動して樽の中の刀を吟味し始めたルシエルを横目に見てからドワーフは俺の近くまでやってくる。


「この3本はお前が来てから作ったものだ。やっぱり武器は実際に使う奴を具体的に思い浮かべながら作るに限るな。出来が全然違うだろ?」


「そうだな」


最初に手に取った3本と後の3本ではかなり出来が違う。素材はそこまで変わっていないのにだ。しかし、俺が来てからもう3本も大鎌という難しい武器を作りあげたのかよ。


「これでも全然満足はしてないからな?」


「この程度で満足されたら困るぞ」


俺が求めているのは海竜の鱗の武器だ。今程度の性能で満足されては困ってしまう。


「今日はお前と少女の武器と防具合わせで使うぞ。今日のうちに慣れてもらって、明日は試しに鉱山に行ってみるぞ」


「おう、わかった。ルシエル!今日一日で新しい武器と装備に慣れれるよな?!」


「問題ないのじゃ!」


一応武器を選んでいるルシエルに確認するが、問題ないらしい。

その後、数本の刀を候補として決めたルシエルにドワーフがおすすめする防具を付けてもらって何度か魔法抜きの軽い模擬戦をする。その模擬戦でルシエルにはメインの刀とサブの刀と防具を決めてもらった。また、ルシエルの丈夫なシャツ、ズボン、インナー、靴やグローブなども全て揃えてくれていて助かった。それらの代金をドワーフは受け取ろうとしなかったが、無理やり金貨1枚を押し付けた。


ちなみに、俺は大鎌の時点でそれはどんなものでも使いこなせるから慣れるという感覚は無い。


武器と防具が揃ったので、明日は初の鉱山へ3人で向かう。

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