第247話 ルシエルの質問
「さて、他に質問はあるか?」
結局、俺がルシエルのステータスを見て質問をしてしまって、ルシエルからの質問はまだほぼない気がする。
「お主が奴隷のオークションに参加した目的は何じゃ?」
「ああ、言ってなかったか」
そういえば、ルシエルをどのような目的で購入したかは話していなかったな。
「折られた大鎌に変わる新しい大鎌の素材を採掘するために鉱山の奥に行かないといけないんだ。だけど、鉱山の奥は強い魔物が多いらしく、鉱石を判別して掘る役のドワーフを俺1人じゃ守りきれないから、最低でも時間稼ぎくらいはできる戦闘奴隷が欲しかったんだ」
「なるほど……ん?折られた大鎌?」
最初は納得したふうだったルシエルだが、最後に疑問が生まれたようだ。そういえば、ルシエルとの模擬戦では前に使っていた大鎌を使っていたな。
「ルシエルと戦った時のはもうダメになった大鎌で、折られたのはこの大鎌だ」
俺は分かりやすいようにルシエルに折られた大鎌を取り出して見せる。
「…こんなスパッと折られるなんて何と戦っておったのじゃ?」
「海竜」
「海竜……りゅ、竜!?」
俺が海竜と言うと、ルシエルは竜に過剰に反応して少し顔色を悪くした。それだけでなく、過呼吸のようになり、上手く呼吸ができていないようだ。
「大丈夫か?」
「だ、大丈夫なのじゃ…」
その様子は心配してしまうほどであった。気分が悪そうなので背中をさすろうとしたが、ルシエルはそれを手を向けて制止する。
ルシエルは何度か深呼吸をすると、落ち着きを取り戻す。
「…よくお主は生きておったのう」
「生き残ったというよりは見逃してもらったっていう感じだけどな」
ちなみに、海竜にしか分からないことだが、実際は闇魔法によって鱗が侵食されていることに気付いて鱗を剥がした海竜は、目的の獲物も取れたのに不気味な魔法を使う餌にもならない奴を相手する必要も無いと思って帰ったのが真相だ。
「お主はその海竜とやらにいつかは勝てると思うか?」
「勝てる」
俺はルシエルの問いに即答する。
「俺は何にも妨げられず、好きに冒険者をするために誰よりも強くなるのが目標なんだ。だから今は無理でもいつかは海竜すらにも勝てるようになる」
今すぐに海竜と再戦しても結果は変わらないが、いつかは勝てるようになるつもりだ。
「…お主の望みは叶わんぞ。なぜなら、余がいる時点で誰よりも強くなるのは不可能じゃからな」
「あ?俺より強くなってから言えよ」
「今にお主よりも強くなってやるから待っておれ」
「気長に待っておくよ」
こうして時々別の話題にそれながらも、ルシエルからの質問は続いた。ルシエルからの質問のほとんどがこれまでの冒険者での活動内容だった。俺はそれをできるだけ誇張せずに話した。両親から誇張して自分語りをする冒険者ほど滑稽な者は居ないと言われていたので、細心の注意を払った。
活動の話をする中でラウレーナという今は別行動している俺よりも1つ年上の女獣人が居るのも話しておいた。
「これが最後の質問じゃ」
長く続いた質問もこれで最後のようだ。昼食休憩も挟んだことで、もう夕方くらいにはなっている。
「もし、魔族が現れて余を奴隷から解放して渡せと言ってきたらお主はどうするのじゃ?」
ルシエルの最後の質問はこれだった。今日何個も質問されたが、これが本命だということがルシエルの真剣な顔でわかる。
「ルシエルの望み次第かな?」
「ん?望み次第?」
俺の返答が単純な「はい」、「いいえ」ではなかったためか、ルシエルは聞き返してくる。
「ルシエルが俺らと別れてその魔族と一緒に行きたいって言うなら解放するからその魔族と一緒に行けばいい。
もし、ルシエルがその魔族と一緒に行くくらいなら俺らとこのまま居たいっていうなら解放しない」
俺の答えは単純だ。そんなぽっとでの魔族のことではなく、ルシエルの判断に任せる。正直、パッと見では魔族かどうかすら俺には分からんしな。
とはいえ、ルシエルとも昨日今日の関係だけどね。
「も、もし、その魔族がお主よりも強くて、言うことを聞かないと殺すと脅してきたら?」
「ルシエルがその魔族と一緒は嫌だっていうなら、どうにか抵抗するしかないだろ」
そもそも俺は何かに縛られたくないから冒険者をやっているんだ。そうやって無理やり言うことを聞かせようとする奴は大嫌いだ。そんな奴とは徹底抗戦で迎え撃つ。俺よりも相手が強いからって勝てない訳ではないしな。
「全く…無茶な奴じゃな」
ルシエルはそう言うと、くすくすと笑う。俺もそれにつられて笑ってしまう。2人で笑い終わったら一緒に夕飯の準備をし、夕飯を食べた。その後はテントに入って少し早めに床についた。
ルシエルは昨日と違い、寝袋に入ってすぐ眠りについた。俺もルシエルと同じようにすぐ眠った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます