第244話 少女の正体

「がほっ!かほっ!」


さっき首を掴んでいたこともあり、少女は座りながら咳き込む。


「さて、聞きたいことが多くてどれから聞けばいいか分からんな」


少女には聞きたいことが多過ぎる。何から聞こうかと考えた時、最初に知っておいた方がいいことを思い浮かぶ。


「ルシファ、奴隷としての命令や契約は効いているのか?」


このように何か言う前に奴隷の名前を言うことで命令ということになる。少女の名前は奴隷商人から聞いている。

まず、俺は命令に効果があるかもそうだが、どこまで奴隷としての契約に効果があるのかは知っておかなければならない。例えば、奴隷はさっきの俺のように攻撃しろという命令がない限りは、主人に攻撃できない。また、奴隷は主人から隣町ほどの距離も離れられない。ある程度離れると、奴隷紋が反応して心臓が苦しくなる。それは離れるほど効果は強まり、最終的には心臓が止まってしまう。


「……命令は聞かなければならないなって思うくらいには効くのじゃ。だから強い意志を持って拒絶しない限りは命令は効果を発揮する。

それから契約も弱ってるけどちゃんと効いてる。だから寝込みを襲うこともできない。それに期間は伸びるけど、主人が居なくなって後に新しい主人が出来なければ死ぬのも同じじゃ」


「なるほど」


基本的に命令や契約は効いているということだ。ただ、命令の強制力や契約の効果が弱まっているということになるのか。

まあ、少女が本当のことを言っていればの話だが。もし、そもそも命令が全く聞いてないなら、俺の命令した質問の答えは全く意味をなさない。


「ルシファ、お前は何で物理攻撃と魔法攻撃をどちらとも使えるんだ?」


「………言いたくないのじゃ」


少女は俺の命令にそう反論した。ただ、顔を背け、手で口を押えて少し苦しそうにしている。命令がある程度効いているというのは嘘では無いっぽいな。


「ルシファ、闘力は使えないのか?」


何度か同じ命令をしたら根負けして答えそうだが、時間がかかりそうなので次の命令をする。

ただ、この命令で少女の態度が変わる。


「使える訳がないのじゃ!そもそも魔力と闘力を2つとも持つ者は魔族にもいないのじゃ!だからお主は何者じゃ!我々に伝わる伝承でもその2つを持っておられたのは魔族の始祖様だけじゃ!」


少女は捲し立てるようにそう言う。神官が言っていた神祖の次は始祖か。両方持つ者が祖という考えは変わっていないな。まあ、それはそれとしてだ。


「何で魔族が魔力と闘力を使えないと知っている?それにどちらも持つものが魔族の始祖なんて伝承は聞いたことがないぞ」


「あっ…」


少女は顔を青くして黙る。まだ言い訳しようと思えばできたと思うが、分かりやすくて助かる。ただ、確固たる証明は欲しいな。


「ルシファ、お前は魔族か?」


「……!」


少女はさっきと同じように口を押えて横を向く。


「ルシファ、お前が魔族なら首を縦に何度か振れ」


俺は別方向の命令をした。何も答えさせる方法は口頭以外にもあるのだ。


こくっ…


「魔族なんだな」


「くそ……」


少女は首を縦に1度振った。それからは堪えたのか、振らなかった。しかし、これで少女は魔族ということが明かされた。それと同時に命令は備えて強く抵抗されなければ効くというのも分かった。



「……もういい。何でも聞け」


少女は投げやりになってそう言う。今の少女の目は奴隷オークションの壇上で何度も見た目に似ている。これはダメだ。


パチンっ!


「痛っ!急に何をするのじゃ!」


軽く少女にデコピンをする。少女は文句を言ってくるが、とりあえず目の色は元に戻ったな。


「まず、お前はどうしようもない事情があって奴隷になった。そして、お前が奴隷にならざるを得ないほどの問題を解決したい。違うか?」


「…合ってるのじゃ」


少女がステータスから魔族とバレず、命令にもある程度背けるようにし、更には強くなれる可能性が高い戦闘奴隷として売られていたことを考えると、かなりの準備をされてから奴隷になったのは分かる。そこまでしてでも奴隷に堕ちなければならない理由があるのも察せる。


「でも、今のお前じゃそれを解決するだけの力は無いんじゃないか?」


「……そうじゃ!」


少女は悔しそうに地面に拳を叩き付けて俺の問いに同意する。少女は確かに強いが、でも無敵や最強とは到底言えない。俺のように勝てない相手は沢山いるだろう。


「それなら俺の奴隷の間に強くなったらどうだ?」


「……は?」


急な話に少女は困惑した表情をする。


「奴隷でいなければならないなら、このまま俺の奴隷で居ればいい。俺の目的は自由に冒険者をしながら強くなることだ。魔族のお前から見ても特殊な俺と入れば強くなる機会はきっと沢山あるぞ」


「…………」


少女は俺の提案に少し考え込む。

そして、少ししてから俺の方に手を伸ばす。


「あくまで目的が同じお主を利用するだけじゃからな。くれぐれも調子には乗るなよ!」


「分かったよ」


俺は少女の手を取り、引っ張って立たせる。


「それと、余の名前はルシファではなく、ルシエルだ。これからは間違えるなよ」


「そこも違うのかよ」


これで、ルシファ改め、ルシエルが俺の仲間となった。

というか、命令が上手く効かないのは名前が違ったからじゃないのか?いや、でも奴隷として登録したのはルシファだから大丈夫なのか?分からんな。

まあ、今後命令する機会はほぼ無いと思うから問題ないか。

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