第243話 少女の真の実力

ガキンッ!


「速いなっ!」


少女が走って来て、振ってきた大刀を俺は大鎌で受け止めながら、そう独り言を呟く。光魔法の身体属性強化はスピードが大きく上がるのか、少女はかなり速い。

また、少女の攻撃はそれなりに重かったので、【攻撃】のステータスはあるのは確かだ。さっきの俺の頬を傷付けた魔法で【魔攻】があるのは確認している。つまり、少女はラウレーナのように普通とは違う種類のステータスを持っているのではなく、俺のように普通よりもステータスを多く持っているな。


「しっ!」


それから少女は大刀で連撃を繰り出してくるが、それを身体強化を最大近くまでして受ける。この時点でも少女の方が俺よりも速い。レベル差が10もあるにも関わらずだ。

少女はこのままでは埒が明かないと思ったのか、一旦俺から離れる。俺はその隙に闘装をやっておく。


「燃え尽きろ!」


「げっ!」


少女は再び近寄ってきながら魔法の詠唱を始めた。


「ファイアボム!」


「くっ…!」


炎の爆弾は俺の脚を狙って放たれた。俺はそれを飛び退いて避けるが、後ろにはそれを見越して少女が先回りしていた。


「輝け!」


「やばっ!」


少女は俺の後ろから大刀を振りながら光魔法の詠唱を始める。気配感知と危険感知で大刀は大鎌で受け止められたが、そこから更に速い光魔法はまずい。


「サンダーランス!」


「ぐぅっ!」


俺は光魔法を危険感知を頼りに大鎌で受け止める。


ビキッ!


「あっ!」


その瞬間に大鎌から嫌な音が鳴る。元々この大鎌はかなり消耗していてもうあまり使える状況でない。それなのに、咄嗟に前までの大鎌と同じように扱ってしまった。

俺は後ろに飛ぶことで、無様に転がって大鎌へのダメージを軽減させた。



「はあ…」


何とか転がるのを止めて立ち上がりながらため息を吐く。少女の魔法が2発で終わるのは身体属性強化にも使う魔力を温存する目的と、普通の相手なら2発で十分だからか。

今回も少女が転がった俺を追ってきていたら危なかった。何故か、少女がその場に留まってくれていることに感謝だ。



「ラウレーナの気持ちがよく分かるな……」


また、闘力のみで、俺のように物理攻撃も魔法攻撃を使う奴と戦うのがどんなに大変か実感した。似たようなことを俺に対して当たり前のようにやっていて、更に勝つんだからラウレーナはやっぱり凄いよな。



「まあ、今回に限ってはできなくはないけど……」


レベル差もあるので、このまま闘力のみで少女に勝つのはそこまで難しくない。だが、その時には俺も多少怪我をするし、少女にはそれなりの怪我をさせてしまうかもしれない。ここには道場のように回復魔法を使える者が居ない。それなのに、そんな怪我をさせるわけにはいかない。だから魔力を使うしかないか。



「はあっ!」


「ちっ!」


考えを纏め終えようとしていたところで、正面から向かってきた少女が大刀を突き出してきた。俺はそれを半身になって避ける。


「硬くなれ!アースウォール!」


「ん?」


俺の左右と後ろに1m程の高さの薄い土の壁ができた。こんな薄い壁くらい簡単に壊せるのに、何で作ったんだ。


「やっ!」


少女は避けられた大刀の刃を俺の方に向けて横に振る。それを俺はジャンプして避ける。ついでに土の壁も飛び越えるつもりだった。しかし、この悪手によって、この日1番の危険感知が反応する。


「光れ!」


「っ!」


少女は俺に向かって光魔法を詠唱なく放ってきた。色々疑問ではあるが、今はそれどころでは無い。何の準備もなく空中で光魔法は避けられない。大鎌で防ごうにも、きっと大鎌が持たない。


「闇れ!」


俺は咄嗟に闇魔法のストックを光魔法に向かって放つ。ただ、まっすぐ放つと、光魔法を突破して少女に当たるから斜めに放つ。

俺のストックのダークランスは少女のライトランスと思われる光魔法に当たると容易に突破し、少女の横を通って地面にぶつかる。スキルレベルもだが、込められた魔力量が違ったな。



ドゴンッ!


「わっ!」


俺の闇魔法が床にぶつかった時の衝撃で少女は土の壁を破って転がる。俺は地面に着地する前に雷身体強化と闇魔装を行う。


「な、何で!?」


立ち上がった少女は困惑している様子だが、困惑したいのは俺も同じだ。とりあえず、少女の強さも十分見れたし、この模擬戦を終わらせる。俺は少女に向かって走る。


「ぃやっ!」


そんな俺に大刀を振るが、雷身体強化をしたことで俺の方が速くなった。その大刀が当たる前に少女により近付くことで大刀の範囲の内側に入る。そのついでに下から大刀目掛けて、大鎌を振って闇の斬撃を大刀に当てることで少女の手から大刀を手放させる。


「かはっ…」


そして、大鎌を持っていない左手で少女の首を掴むと、俺はまた走り出す。


ガンッ!


「がほっ……」


壁に近付くと、俺は左手に持った少女を壁に叩きつけた。


「これで俺の勝ちだな?」


「ぐぅ…」


少女は手足をバタバタ動かすが、それだけでは俺から逃れられない。また、首を掴むことで詠唱をしようとした時には一瞬強く締めてそれを遮る。

さっきのように詠唱無しに光魔法を放たれたらキツいが、あれがなら今はできないはずだ。


「な、何で…魔法も…それに…今のは鬼才の……」


「質問をする前にやることがあるんじゃないか?」


少女は抵抗をやめて俺に魔法を使ったことについて聞こうとする。聞きたいことがあるのは俺も一緒だが、それよりも少女は先にしければいけないことがある。

それが何か伝わったのか、少女は光魔法の身体属性強化を解く。


「……参った」


「それでよろしい」


聞きたいことが聞けたので、闘装と魔装を解いてから少女の首から手を離した。ただ、身体強化は弱めただけで維持したままだ。少しでも身体強化をしていれば異常事態時に身体強化を強めるのは簡単からな。

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