第242話 少女の実力 後編

「さあ、次は?」


俺は少女を挑発するようにそう言う。


「…硬くなれ!アースバインド!」


「お?」


少女は俺の片脚を地面から伸びた土で巻き付ける。


「吹き荒れろ!ウィンドアロー!」


動けない俺に風の矢を5本放ってくる。さっき避けられたから威力を弱めてでも数を増やして確実に当てる気だな。本当に上手く戦えている。普通に即戦力だ。

俺は地面から伸びた魔法を大鎌で斬り壊すと、矢を3本避け、避けるのが難しい残りの2本を大鎌で斬って散らした。


「うーん」


俺は少女に聞こえないように声を出す。少女の戦い方は上手い。だが、もう1、2手足りない。魔法を2発放ったら一旦、魔法の手を止まっている。あれからさらに追撃したらチャンスはもっと広がると思うのに。


「次は?」


「くっ…!」


その後も少女は火、水、風、土の魔法を使って俺を狙っていた。奴隷商人による購入した時の情報では、少女の魔法はその4つのみで、どれもレベル4だった。奇才で授かった魔法をどれも1レベル上げたらしい。才能で言ったら賢者の職業と近いが、少女の職業は魔法士だった。

でもそれ以降も頑なに2回の魔法の後は追撃をしない。



「そろそろか」


5分弱ほど戦って少女の魔法や戦い方はあらかた見ることができた。もう、防戦一方は十分だろう。俺は少女の方に進み始める。


「ふ、吹き荒れろ!ウィンドスピア!」


俺が近付くと、少女は焦ったように魔法を使ってくる。狙いも少し雑になっている。

しかし、その焦りようは普通ではなく、血気迫るものがある。


「吹き荒れろ!ウィンドボール!」


魔法の中でも風魔法を使うことが最も多いのは、単純に魔法のスピードが速いからだろうか?

それからも近付く俺に少女は風魔法を放ち続ける。

今回の模擬戦はこのまま近付き、少女の首付近に大鎌をおいて終わりかと思ったときだった。



「輝け!ライトランス!」


「っ!?」


俺の危険感知がこの模擬戦で初めて反応した。慌てて顔を横に動かし、魔法から避ける。それでも魔法が速くて避けきれず、頬にかすり傷ができて血が垂れる。さっきまでの魔法と威力も違う。特別魔力を込めたりしてなければスキルレベル5はありそうだ。


「あっ……」


少女は我に返ってやってしまったといった顔をしている。

少女は速い魔法を好んで使っていたが、風魔法よりも速い魔法は2つある。それは雷魔法と光魔法である。今回はその中の光魔法だな。今までは光魔法の代わりに風魔法を使っていたな。



「おいおい……」


奴隷商人相手にステータスを隠すことは不可能なはずだ。そもそも売られる時にステータスは全て開示させられるらしいしな。さすがに今この瞬間に光魔法を取得したとは考えられない。

つまり、この少女は何らかの手段でその強制から逃れたのだろう。それこそ俺の隠蔽のようなスキルか魔導具かの力だろう。


問題はその強制から逃れた力が、奴隷という支配からも逃れられるのかどうかだ。まあ、それは考えても分からないので、一旦置いておく。



(ちょうどいいか)


今の少女は軽い放心状態にある。今ならもう少しボロが出るかもしれない。俺は身体強化を強めると、少女に一気に迫る。


「はあっ!!」


「っ!?」


わざと大きな声を出して大鎌を振り上げる。少女の放心状態が治ったのを確認してから俺は大鎌を振り下ろす。もちろん、当てる気はなく、途中で大鎌は止めるつもりだった。

しかし、少女はそれを大きく飛び退いて躱した。大鎌がそのまま振り下ろされても躱せたくらい速いスピードでだ。それは【敏捷】のステータスが無いと到底不可能な動きだった。しかも、少女は白く輝くオーラを纏っている。きっとあれは光魔法の身体属性強化だよな?

この時点で奴隷商人の話す普通の魔法職というのが偽りなのも確定だな。



「さて、色々聞きたいことがあるが、話してくれるよな?」


「………」


俺はあえて奴隷への命令が発動するような命令口調にならないように少女へと問いかけた。

それに対して、少女は俯いて少し考えると、杖を放り捨てた。


「…本気を出せって言ったのはお前だ。別に殺しはしないのじゃ。でも、先に謝っておくが、少し痛い目にはあってもらうのじゃ。それこそ、余に逆らえなくなるくらいにはな」


「あー、確かに本気を出せと言ったのは俺だな」


奴隷としては既に失格な行動や言動が多数だが、現状では俺の言ったことを破ってはいない。少女の行動は俺に言われた通りに本気を出そうとしているだけとも取れる。


俺はマジックポーチから色んな種類の武器を放り投げる。安物だが、少年達の特訓用に買ったのが少しある。まあ、最初から教えている少年らの武器は特殊な物ばかりだったことで使われなかった武器達だ。



「……何のつもりじゃ?」


「ん?本気を出したいんだろ?お望みの武器があったら拾えばいい」


実際、この俺の行動はそこまで深く考えてたものではない。好奇心として、少女の本気が見たいと思っただけだった。

少女は警戒しながらも1つの武器を拾う。


「よりによってそれか…」


「ちょいと長いが、問題ないのじゃ」


拾ったのは俺の使っている大刀だった。確かに投げた武器の中では1番良い武器だが、それを選ぶか。

それにしても、普通に武器を手に取ったな。


「さあ、来い」


俺の言葉を合図に、少女は大刀の鞘を捨て、俺に向かって走り出した。

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