第240話 購入

「最初の犯罪奴隷は複数回の窃盗で捕まった少女です!」


犯罪奴隷の紹介にはさっきまでのステータスなどの情報の他に犯罪奴隷となった経緯まで話されていた。

また、借金奴隷は奴隷から解放することができるが、犯罪奴隷は死ぬまで奴隷のままらしい。まあ、普通は自分が買った奴隷を解放する物好きはなかなかいないけどな。だが、まれに解放してくれたら結婚すると騙して解放されて逃げる奴隷もいるそうだ。奴隷とは結婚できないのを上手く使った手だな。



「では、大銅貨1枚からスタートします!」


食堂などで昼飯を食べたら、ちょうど大銅貨1枚程になる。最低金額とはいえ、それで人が売られるとはな。

その後も借金奴隷の流れと同じようにどんどんとオークションは進んで行くが、借金奴隷と少し違う点もある。



「おい!俺が誰だか知っててやってんのか!お前ら全員ぶっ殺すぞ!!」


強姦や殺人や強盗などの大きな犯罪を犯した者は、壇上に連れてこられても騒いでいることが多いのだ。


「この通り、この犯罪奴隷は活きがいいです!」


「「「はははっ!」」」


客は自分よりも下の立場の無駄に威勢のいい奴隷を見て嘲笑っている。犯罪奴隷は生意気な時に躾と銘打った多少の体罰は認められているそうだ。わざと生意気なまま売ることで、そういうことをしたい層に需要があるのだろう。


それからもぼーっとオークションを見ていたが、再び札を上げることなく終わった。



「これにて、オークションを終了します!落札したお客様は忘れずに奴隷を貰ってご帰宅ください!」


つまり、落札した奴はちゃんと金を払って出て行けということだな。


「では、お客様。こちらへどうぞ」


「凄い高待遇だな…」


ドワーフがボソッと呟く気持ちも分かる。今、俺達は来た時と違って5人のスタッフに部屋まで案内されている。

まあ、俺からしたら金を払えない者の逃亡を阻止するための人員に見えてしまうけどな。



「では、こちらでお待ちください」


案内された部屋は来た時の5倍の広さはあった。何ならベッドまで完備している。また、比較的高価な砂糖がたっぷり使われた甘い菓子までテーブルに並んでいる。


「うわっ」


普通に座ったソファに身体の半分ほど埋まって驚いた。柔らかいってレベルじゃないぞ。


「初めての奴隷のオークションはどうだった?」


俺の横に座ったドワーフがそう聞いてくる。まだ部屋にスタッフが2人居るが、話が聞こえない程度には離れている。それなら本音を言っていいだろう。


「もう2度と奴隷のオークションはおろか、奴隷を売ってる店にも行かんな」


「はは、そうか」


正直、欲望剥き出しの買う者も暗い表情の売られる者もどちらも見たくない。そのどっち側にもなる可能性があると考えたら気分が悪くなる。

まあ、今日の俺は周りから見たら前者の一員みたいなものだけどな。


「次は物のオークションに連れて行ってやろうか?」


「当分オークション自体を遠慮する」


今日のことがフラッシュバックするからしばらくはオークションにも参加したくないな。まあ、物のオークションは少し気になるけどな。良い魔導具とか出品されそうだしな。



「お待たせしました」


何て話していると、壇上でオークションの司会進行をしていた男が部屋に入ってきた。


「改めまして、オークション支配人のダシャクンと申します。本日1番高額の落札をしてくれたお客様の元には支配人である私が自ら出向いているんです」


まあ、今日の2番目の金額ですら大金貨いくか、いかないかだったので、今日は俺が圧倒的1番だろうな。


「奴隷を購入する前にこちらを閲覧し、サインをしてください」


俺は差し出された書類の中身を細部までよく読む。不都合があることが書かれていたらまずいからな。

特にこれといった問題は無いが、最初に気になったのは俺が死んだ場合の奴隷の扱いだ。

俺が死んだ場合、奴隷は首下にある奴隷紋という奴隷のマークを最初に触った人の物になる。また、俺が死んで5日間誰にも奴隷紋を触れられず、新しい主人が見つからなかった場合にはその奴隷は死ぬそうだ。

だから俺が死んだ場合には奴隷は急いで誰か探さないといけない。

それと、もう1つ気になったのは奴隷を解放する方法だ。解放するには金貨1枚を払って奴隷商人という職業の者にやってもらわないといけないらしい。例えば、俺が死ぬ寸前で奴隷を解放とかはできないらしい。



「では、支払いをお願いします」


「はいよ」


書類にサインをし、それから黒貨1枚を渡す。


「黒貨1枚、確かに受け取りました。では、購入された奴隷を連れて参ります」


それから支配人はもう一度部屋から出ていき、少女を連れてやってきた。



「……コレからヨロシクお願いシマス。ごシュジンサマ」


その少女は俺の前に来ると心が籠っていない様子のカタコトで挨拶をして頭を下げた。その様子に支配人の顔色も悪くなった。

支配人は太客を逃してしまうなどと考えているのかもな。まあ、もうここに来ないから関係ないぞ。



「ふふっ…。ああ、よろしくな。期待してるぞ」


奴隷らしからぬ素直過ぎる少女の態度がおかしくて少し笑いながら、俺も少女に挨拶をする。

そして、俺とドワーフは少女を連れて建物から出て、あの地下へと向かった。


ちなみに、外に出た時に競り合った3番がまでいて、少女を連れた俺を見て睨んでいたが、無視した。もし、少女を手に入れるために俺を殺そうとしてきたら、その時は返り討ちにしてやる。

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