第239話 競り合い

『さらに細かいステータスは……』


それから少女のステータスのほぼ全てが話されていくが、俺はそれのほとんどが頭に入ってこなかった。それほど他の奴隷とは違う少女の姿を見るのに夢中となっていた。



『戦闘奴隷ではありますが、値段は金貨1枚からスタートします!!』


色々な説明が終わり、ついにこの少女のオークションが始まった。借金奴隷の最後の目玉だからか、最初から今までよりも桁が数個違う。


「大金貨1枚」

『おおっ!43番様!いきなり大金貨1枚です!』


「金…え!?」

「き……大金貨?!」


「お、おい?!」


いきなり金貨を上げた俺に会場の札を上げようとしていた者達ほぼ全員が俺の方を見た。そして、ゆっくりと上げかけた札を下ろす。金額を10倍に上げることで何人もの心を折れたぞ。

また、横のドワーフも急に札を上げてオークションに参加してきた俺を見て驚いていた。

ちなみに、俺の番号は43番だ。



「大金貨2枚」

『3番様!大金貨2枚です!』


「大金貨3枚」

『43番様!大金貨3枚です!』


今まで全般奴隷の少女を買っていた奴が金額を上げたが、俺はすぐにそれよりも高い金額を上げた。


「大金貨4枚」

『3番様!大金貨4枚です!』


「大金貨6枚」

『43番様!大金貨6枚です!』


再び3番が金額を上げてきたが、間髪入れずに俺も札を上げて負けじと金額を上げる。もうこの少女のオークションは一騎打ちのようになっているな。

3番が振り返ってかなり後ろに座る俺を睨みつける。


「その体型なら戦闘奴隷必要ないだろ」


「ぷっ…」


俺は小声でそう呟き、それが聞こえたドワーフは吹き出す。3番はでっぷりと太っていてろくに動けるようには見えず、歳も行ってるのか頭もてっぺんが禿げている。どう考えても戦闘奴隷を欲するような生き方をしているとは思えない。大方家とこの街周辺を馬車で移動しているだけだろう。


「…戦闘奴隷を不意な事故に見せかけて戦闘をできなくすれば全般奴隷にすることは可能だ」


「クズが…」


ドワーフが3番の目的であろうことを耳打ちで教えてくれる。戦闘奴隷が欠損などの理由で戦闘できなくなったら、奴隷としてできることが無くなる。そういった場合のみ、奴隷商人によって奴隷の区分の変更ができるそうだ。

普通はそういう場合には過去に購入した奴隷の情報や、今回の怪我の経緯とかをしっかり調べられるらしいが、金の力でそんなのは無しにできてしまう。


「あらら…」


その俺を睨む3番の後ろから奴隷の少女が3番のことを蔑むような目で見ていた。少女からしても3番の目的が戦闘では無いのは察せるのだろうか?しかし、目的が違うだけで同じ奴隷の購入を3番と競い合ってると考えると、何か俺まであれと同列な気がして少し病んでしまうな。

俺を睨み終えた3番は奴隷の少女を見つめ何度か頭を抱えてから札を上げる。いや、さっきまでならオークションを終わらせた時間が経ってるんだからオークションを止めろよな。まだ値段が上がりそうだからって待ち過ぎだぞ。


「うぅ………大金貨8枚」

『3番様!大金貨8枚です!』


「黒貨1枚」

『43番様!黒貨1枚です!なんと、黒貨が出ました!!』


何とか3番が捻り出すように金額を上げたが、俺はさっとそれの更に上を行く。

心を折るためにわざと黒貨にしたが、正解だったようだ。3番は肩を落として俯く。


「あ、あんな奴が黒貨を払えるわけが無い!」


「どんだけ欲しいんだよ…」


急に3番は短い足で立ち上がって俺の方を指を指しながらそう怒鳴る。別に応戦する必要は無いから俺は座ったままでいる。

それからすぐにオークションのスタッフの数人が3番の元に行き、何か話すと3番は落ち着きを取り戻して座る。あの満足そうな様子は俺の金が無くて買えなかったら3番に売るとでも言ってそうだな。


ちなみに、オークションで落札したのに金が足りず払えない場合は、落札金額の半額を払えたら色々な書類を書いたのち、奴隷保留3日だけは待ってくれるらしい。しかし、その場合は残りの金額が1.5倍になる。それでも最終的に払えないと逆に自分が犯罪奴隷として奴隷の仲間入りだ。頑張れば逃げることも可能だが、落札金額の半分は払ったのに奴隷は買えずに終わる。



『…他にはいませんね?では、43番様の黒貨1枚で落札です!!』


「ふぅ…」


何とか俺が落札できたようだ。札を上げてオークションに参加するのは初めてだったので、少しは緊張した。


「ん?」


壇上裏に戻されようとしている奴隷の少女と目が合う。その少女の何とも言えないような表情が不思議だった。今のはどんな感情の顔だ?


「おい、魔法職の奴隷を買ったって鉱山では崩壊の危険があるから魔法は使えないぞ」


「あっ……」


やばい、その辺は全く考えてなかった。単純にあの少女が欲しいという感覚で買ってしまった。


「……何とかする」


「はあ……」


色んな魔法を使えるようだったし、崩壊の危険がないような魔法も使える…はずだ。それに期待するしかない。



『それでは、次に犯罪奴隷のオークションに移ります!』


借金奴隷のオークションが終わったので、次は犯罪奴隷のオークションが始まる。

今の少女みたいな奴隷もいるかもしれないので、俺はまだオークション会場にいることにした。

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