第237話 オークション準備

「さて、オークションに行く前にお前の服を揃えるぞ」


「服??」


オークション当日の朝にドワーフからそんなことを言われた。オークションは夕方からなので、時間的にはまだ余裕は十分ある。

俺は自分を上から下まで見てみる。


「服は着てるぞ?何なら靴まで履いてる」


「そうじゃないわ!今、着ているようないつもの戦闘用じゃなく、もっと高級感のある服だ」


持っている服はどれも動きやすくそこそこ丈夫な戦闘用だが、何着も持っているだから別に新たらしいのは必要ないと思っているが、そうでは無いらしい。


「しっかりとしたオークションだからドレスコードもある。そんな服じゃ入れてもらえないぞ。それに冒険者のランクが高くなればなるほど金持ちからの依頼も来るんだから一式くらいそういう服を用意した方がいいぞ」


「まじか……」


服に求めるのは動きやすさと防御力と耐久性くらいだ。しかし、今回はその正反対とも言える動きずらく、防御力も耐久性も無い服を買わないといけないのか。それもいい金を出して。


「人にそう言うが、お前の分はあるのか?」


「あるぞ?」


「え?」


絶対無いと思って聞いた俺に対し、ドワーフは平然とそう答えた。


「これでも昔は上でそこそこ名が知られていたんだ。その時の服がまだ残っているからそれを着ればいい。もし、それが着れなくなったとしても、新しく買えばいい。昔の客が今でも時々魔物の素材を持ってここまで来るから、ぶっちゃけ金に関してはそこまで不自由していないんだよ。

ただ、上で武器を作ろうとすると商人ギルドに入っている鍛冶師らからの圧力がかかって商売にならないだけだ」


言われてみると、毎年ステータスを授かった子供に武器を与えたり、それ以外にも褒美として短剣を与えるほど余裕はあるんだよな。

それと、ここにいる子供の食費などの出処が謎だったが、もしかするとドワーフが払っているのかもしれない。


「それなら大黒貨を出したのは意味なかったのか」


「いや、今は黒貨すら持ってないからな。あれはお前の本気度を見せたという意味はちゃんとあったぞ」


無意味では無いとのなら良かった。自信満々に黒貨を出したのが無意味だったら少し恥ずかしい。



「そういうわけで、服を買いに行くぞ」


「ああ…」


乗り気では無いが、必要だと言うなら仕方がない。俺はドワーフと共に服を一式買いに行った。

とは言っても、服選びはドワーフや店員に任せ、俺は金を出すだけで買い物は終わった。ただ、服を買うだけで金貨数枚が吹き飛んだのは衝撃だった。



「それじゃあ、オークションの流れや方法について説明するぞ」


「ああ」


昼頃に地下に戻った俺はドワーフからオークションの説明を受けた。基本的にオークションのやり方などをスタッフが説明することは無いらしい。大体の者が最初は俺のように分かる者と同伴するそうだ。



「さて、行くぞ」


「おう」


一通り説明を受けた俺はドワーフと共にオークション会場に向かった。流れを聞いただけで、意外と覚えることは少なかった。



「本日の奴隷オークション参加希望ですか?」


「そうだ」


大きな建物のオークション会場に来ると、ビシッとした服を着たスタッフの男が俺達を出迎えた。

ドワーフ曰く、オークション開始前はスタッフの言うことをただ聞いているだけでいいらしい。


「それでは、2人合わせて大銀貨6枚頂きます」


「わかった」


俺はドワーフの分も含めて大銀貨6枚を手渡す。参加費として1人あたり大銀貨3枚取られるそうだ。この金は返却されることは無いらしい。


「それでは、こちらにどうぞ」


それから俺達はその男に案内されて個室に移動する。


「では、この仮面を付けてください」



そこで俺達は目元を覆う仮面を渡された。これは参加者同士で正体が分からないようにするという意味があるそうだ。

しかし、有名な者なら体型とかで誰か分かる場合もある。それでも仮面は無意味では無い。仮面には、正体を隠しているからお互いにこのオークションであったことは他言無用というアピールの意味もあるそうだ。



「時間となったらお呼びしますので、お待ちください。何か御用がありましたら、そこの扉をノックしてもらえれば対応します。失礼します」


高級そうなお茶や菓子を出し終えた男はそう言い残し、俺達が入ってきた扉とは別の扉の中に入っていった。あれはスタッフの控え室のような部屋に繋がっているのだろうな。



「お待たせしました。ご案内します」


40分ほど待った俺達はオークション会場に案内された。オークション会場は照明の光がさす壇上に向けて、席がいくつも用意されていた。席も壇上から離れるにつれて場所が高くなっていて、後ろでも壇上がよく見えるようになっている。

もう結構な席が埋まって、特に前の方はかなり埋まっている。

俺達は後ろの方に座った。まだ前の方も空いているが、前の方は常連が座るらしい。無用な確執を避けるにはこうするのがいいそうだ。




「お待たせしました!これより!奴隷オークションを開始します!」


壇上に上がったテンション高い白くて長い髭が特徴の男がそう言うと、奴隷のオークションが開始された。

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