第232話 プライド
「………」
俺が啖呵を切ってからドワーフは下を向いて少し黙っていた。
「……この金は受け取らん」
「は?」
そして、少し時を置いて、ドワーフは俺の方に袋を押してくる。
おいおい…俺が生意気なことを言ったから武器を作らないってことか?
「お前の言葉に俺様は「確かに」と少し納得してしまった。俺様の負けだ。武器は作ってやる」
「え?それなら…」
武器を作ってくれるのなら金を返す必要は無いはずだ。
「これは俺様のポリシーだが、武器が完成してそれを使う者に手渡すまで代金は頂かない。作った武器の出来次第で値段は上下する。それと、もし仮に俺の作った武器が大黒貨10枚を超えた場合もしっかりと払ってもらうからな」
「そんだけの価値のある武器なら払ってやる」
このプライドが高いドワーフが大黒貨を超えるだけの価値があると認める武器なら、それは破格の性能をした武器なのだろう。それなら俺は喜んで指定された額を払う。もし、有り金で足りなかったら借金をしてでも払ってやる。
「前提条件に入っていた通り、必要となる鉱石や魔物はお前が取ってきてくれるんだよな?」
「ああ、狩ってくるぜ。ただ、できるだけ遠くでは無いのが助かる」
遠くの魔物の素材だと、移動に時間がかかり、武器の完成が遅くなってしまう。ある程度の魔物の強さや面倒さはいいが、遠くなのはやめて欲しい。
「それは分かっている。次に確認だが、お前の使う武器は背中にある大刀でいいんだよな?」
「いや、俺が作って欲しいのは大鎌だ」
「大鎌?」
ドワーフは俺が欲している武器が大鎌と聞いて顔を顰める。
「大鎌は作れないか?」
「舐めるな。作れるに決まっている。ただ、ほとんど作ったことは無いから数本は練習で作る必要があるというだけだ」
大鎌という特殊な形状の武器を数本作っただけで問題無いと言い切るのは凄い自信だな。
「あと、お前の戦闘のスタイルやどんなステータスをしているかを詳しく聞いておきたい」
「………」
それを言われて、俺はどこまで言うか悩む。
「子供達はもちろん退出させる。そして、俺様のプライドと誇りにかけて、聞いたことを口外しないと誓う。だから、より自分に合った強い武器が欲しいなら包み隠さず正直に言うことだ」
「分かった」
そこまで言われてステータスを隠せるわけが無い。誰でも飛び付くであろう大黒貨10枚をポリシーのためだけに突き返してきたドワーフのこの言葉を信頼できる。
それから、俺を案内してくれた子供達には退出してもらい、厚い扉に鍵も閉めた。
「ステータスオープン。俺の戦い方は大鎌と魔法を駆使したスタイルだ」
「なっ……!?」
俺はステータスを全て隠蔽せずにドワーフに見せ、戦い方を説明する。
「なるほど。武器としても使い、魔法の触媒としても使うのか。これは大仕事になるな」
ドワーフは俺のステータスを見て、作る武器が難しい物になると理解したのにニヤリと笑う。
「大鎌は持っているか?この場で物を壊さない程度に全力で振ってくれ」
「分かった」
俺は闘装、闇魔装、身体強化、闇身体強化を全力に近いくらいして、予備の大鎌をこの場で振った。
「なるほど…。大体どういった大鎌が良く、その為にどんな物が合うか想像はできたぞ。まず、メインとなる魔物の素材は…」
「あ、メインはこの素材を使ってくれ」
ドワーフの言葉を遮って俺は海竜の鱗を3枚置く。
「おい…こんな素晴らしい素材は見たことがないぞ…。何の鱗だ」
「Aランクの魔物を餌にするくらい強力な海竜の鱗だ。こいつに俺の使っていた大鎌は折られたんだ」
ドワーフは俺の置いた海竜の鱗を恐る恐る持ちながら視線の向きを変えて何度も見ている。
「何だ?その素材では大鎌は作れないか?」
「誰に言っているんだ?この素材でお前が満足するだけの大鎌を作ってやる」
俺の挑発にドワーフは言い返してくる。
「だが、その為にこの海竜の鱗に相応しいだけの鉱石を取ってきてもらうことになるぞ。かなり難しいが、やれるよな?」
「ああ、任せろよ」
逆に今度は俺が挑発をされた。だが、俺も同じように言い返してやった。
こうして、俺の大鎌を作ってくれる職人が見つかった。
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