第231話 弱者と強者

「でもそんな珍しいかつ良い職業で、さらにそんな腕の自信があって何でこんな裏路地の地下奥深くにいるんだ?」


このドワーフが腕が良ければ良いほど、なぜこんな場所にいるのかが分からない。


「この街の冒険者ギルドに入ったか?」


「行ったぞ」


この街に来た初日に冒険者ギルドには寄っている。


「ならこの辺に討伐依頼はどんなのがあった?」


「ろくなのがなかっ…あっ」


この辺は魔物討伐の依頼は少なかった。あったとしても強い魔物ではなかった。それは普通はいいことだろう。


「ここでは強い魔物の素材は手に入らない」


だが、魔物の素材を加工するこのドワーフにとっては強い魔物が居ないのはマイナスになる。


「なら他の街にいけば…」


「俺様の鍛冶には魔物の素材と同じくらい鉱石も大事なんだ。だから鉱石を疎かにする訳にはいかん。それに、俺様は【特攻】が無くて魔法での攻撃はできないに等しい。だから1人で街を出ることもできないし、護衛を雇う金もない」


それを聞くと平気で他の街に行けばいいとは言えない。


「普通の鍛冶師ならどこからか金を借り、それを元手に一端の鍛冶師を始められるのだろう。だが、俺様の魔法鍛冶師は珍しく、世間に知られていない。そんな職業の奴に金を貸してくれる奴は居ない」


珍しくて他よりも良いはずの職業をしているはずなのに、それが逆に損になっている。

俺はこの話を他人事とは思えなかった。俺も他とは違うステータスをしている。だが、それ故に大っぴらにそれを知られないようにしている。



「小僧はこの街を見てどう思った?」


突然、ドワーフがそう質問してきた。


「色んな物があるし、街は広いしで困らないような街かな」


「なるほど」


俺の答えにドワーフは何度も頷く。


「小僧の冒険者ランクは?」


「Bランクだ」


「金に余裕はあるか?」


「それなりには」


次々にやってくる質問に俺は正直答える。


「そうだろうな。この街は金とある程度の地位があれば住みやすい快適な街だ。現にそのどちらもあるお前はそう感じていたはずだ」


「…ああ」


確かに俺は金には余裕がある。それに、Bランク冒険者というのは冒険者全体から見ても上位の10%以下くらいにはなるだろう。


「だが、そのどちらか…どちらもが無ければどうなると思う?」


「……」


ここに売っている武器類は全て高かった。ここで生まれ育った者が1から冒険者をやろうとしたらまず装備は揃えられない。良くて装備の一部分だ。


「ここにいる子供の多くは親を事故で無くしたか、酷な親の元に生まれずに家から飛び出して来た者だ。孤児院などが無いこの街でそんな者達が奴隷商人から逃げるために儂が掘ったこの地下へと集まって来たんだ。

奴隷となって誰かに購入された者は衣食住を保証され、安全安心な暮らしができる。……実際にそんな者は少数だ。ほとんど者は死ぬまで酷使されるだけだ」


「………」


この世は弱肉強食だと思っていた。それは襲ってきた魔物より弱かったら殺され、強かったら逆に殺すからだ。だが、実際の腕っ節だけでなくても、この世は弱肉強食なんだと実感した。



「この街の弱者が集まっているこの地下に、金も地位もある強者である小僧が何の用だ?」


「………」


最後にドワーフは睨みながら俺にそう聞いてくる。

今の一連の話を聞くと俺にこの場所は相応しくないのかもしれない。この街で暮らすにしても俺はかなり裕福に過ごせる。そんな俺が逃げて逃げて、この裏路地の地下まで追い詰められた者の元へやって来るべきでは無いのかもしれない。


だが、そんなこと知るもんか。



ガシャン!


「な、何だ?」


俺はドワーフの目の前の机に袋を叩き付けるように置く。


「この中に大黒貨10枚ある。それに加え、魔物の素材や鉱石は俺が取ってきてやる。だから俺の武器を作ってくれ」


「は?なっ…!?」


ドワーフは実際に袋を開けて中を見て驚く。多方嘘だと思ったのだろうが、本当に大黒貨10枚がある。大黒貨10枚ならこの地下の全員が住める大きな家を建てて、残りのお金で全員が普通の一生を過ごせるだろうな。


俺はドワーフが話す前に続けて言う。



「それと、誰が強者で誰が弱者とかは知るもんか!そんな細かいことを一々気にもしない!

俺は小さな村に生まれたけど、村の人は幸せにしていた。街と比べたら物は全然なかったけど、だからってその村の人達が街の人と比べて弱者だとは思わない!それに、良い家に生まれ、良い職業になろうが、それだけで俺はそいつを強者とは思えない!

結局、自分で自分はいつまでも弱者だとか思ってるからずっと弱者のままなんだよ!」


彼らからしたら強者の俺も、自分からしたら海竜に手も足が出なかった弱者だ。だから強者に少しでも近付くためにこの地下まで武器を作ってもらいに来てるんだ。

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