第230話 最高だよ

「おい、それを返すか、無様に気絶してそこら辺に隠れて様子を伺っているハイエナに身ぐるみ剥がされるかどっちがいい?」


「あ?何だてめぇは?」


俺は子供達の後ろ歩いて来て、からガラの悪い3人に話しかける。大人3人が横になって歩ける程度しか広さがないが、俺が絡まれている間に子供達の腕を軽く引っ張って俺の後ろに移動させる。


「てめぇもいいの持ってんじゃねーか!ヒーロー気取りの代償にそれをよこせ!」


最初から子供に絡んでいた奴が奪ったと思われるナイフで俺に斬りかかってきた。普段ならそれを躱してから攻撃して終わりのはずだが、俺はそのナイフに目を奪われた。


「それちょっと寄越せ」


「なっ!」


俺は振っている途中のナイフを摘んで奪い取る。そして、ナイフをじっくり見る。


「てめぇ!返せ!」


「ちょっと黙れ」


「ぶべっ!?」


そのナイフは全体的には黒なのだが、刃の部分に何かが混じっているのか白色のラメのような模様が付いている。

ナイフの先を軽く自分の指先に当てる。すると、指先から血の玉が浮かび上がる。俺の防御力は高い方では無いが、それでもこうも簡単に傷が付くとはな。

ついに見つけたかもしれない。



「あっ、やば」


ナイフに夢中になっていてガラの悪い奴らのことを忘れていた。ナイフから視線を前に移す。


「あれ?1人寝てるし、残りのやつは??」


「え?1人は兄ちゃんが殴り倒してたし、それを見て他の奴らは逃げたじゃん」


「あーー…」


子供の中で1番背が大きい男の子が俺にそう話しかけてきた。

言われてみたらごちゃごちゃうるさい奴を殴った記憶が微かにある。ナイフに夢中過ぎてほぼ無意識の行動だったから分からなかった。


「このナイフは誰のだ?」


「僕の!」


俺に話しかけた子が元気に手を上げた。オレはその子に目線を合わせるように屈み、ナイフを差し出した。


「ありがっ…え?!」


しかし、俺はその子がナイフを手にする直前でナイフを避けさせた。


「返して欲しかったらこのナイフを作った人を紹介してくれない?」


「ど、どうして?」


男の子は俺の質問に警戒した様子で聞き返してくる。ナイフを返して欲しさにくれた人を売らないのは好感が持てる。

とはいえ、別にその人を害するつもりは全くないので、分かりやすく説明するために折れた大鎌を取り出す。


「これが俺の普段使ってた武器なんだけど、この通り壊れちゃってさ。新しいのを作ってくれる人を探してるんだよ。それで、このナイフを作った人を紹介して欲しいんだ」


「そういうことなら任せてよ!その人はいつも世界一の武器を作れるとしたらそれは俺しかいないって豪語してるよ!」


「それは楽しみだ」


それを聞いて俺はその子にナイフを返す。そして、俺は期待に胸を躍らせながら案内してくれる子供達の後を付いて行った。



「ちょいちょい……」


子供に付いて行くと、細い道を何度も通り、しまいには階段を降りて地下までやってきた。絶対に俺1人だったらこんな場所まで辿り着かんぞ。


コンコンコッココン


「いずれ征する」


「入れ」


子供は鉄製の扉に特殊なノックをし、合言葉らしき言葉を言う。すると、中から声が聞こえ、扉が開いた。


「だ、誰だ!」


俺を見て中に居た者がそう言って槍を構える。


「僕達を助けてくれたお礼にヘパイトスさんのところに案内するんだ。面倒は僕が見るし、何かあったら僕がちゃんと責任を取る」


「それなら分かった」


どうやら、俺も通してくれるようで、中に案内された。地下室の周りは全て石垣でできていて、かなり丈夫そうな作りになっている。


「中は子供が多いんだな」


「ここは親が死んで孤児になった者が集まってるからね」


地下室の中には種族問わず若い子供が多かった。もちろん、俺と同じくらいや少し上の年代もいるが、それは子供の数の1/4ほどだ。

そんな者らからの警戒と興味といった視線が俺に集まる中、俺達は進んでいく。



「この中にさっき言ってたヘパイトスさんがいる」


「ほう…」


地下の1番の奥の部屋まで連れてこられ、そう言われた。奥の部屋も入口と同じような鉄の扉となっている。それを子供達で協力して開く。


「知らんもんがいるな?」


中に居たドワーフと思われる者が俺達に話しかけてくる。


「僕達を助けくれたお礼に案内したんだ」


「ほう…?」


その紹介に中のドワーフは興味を持ったようで、俺と目が合う。俺は中に1歩入って要件を話す。


「ここにこの街1番の鍛冶師が居ると聞いてやってきた」


「そんなもんは居らんぞ」


「は?」


いきなり出端をくじかれてしまった。子供達にはそんな感じのことを言われたよな?


「ここに居るのは世界一の武器を作れる魔法鍛冶師だ」


「魔法鍛冶師?」


魔法鍛冶師という聞いたことがない職業が出てきた。そのまま聞き返した俺に、目の前のドワーフは魔法鍛冶師とやらの説明をしてくれる。


「魔法鍛冶師とは、普通の鍛冶師と違って魔法職の鍛冶師だ。普通の鍛冶師は鉱石を扱うことに特化しているが、魔法鍛冶師は違う。

もちろん、鉱石も扱うが、魔物の素材を扱うことに特化しておるのだ。良い魔物の素材さえあればどんな武器でも望みのものを作ってやるぞ」


「……最高だよ」


俺は望みの鍛冶師…いや、魔法鍛冶師を裏路地の地下の奥底で見つけることができた。

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