第229話 難航

「海竜の鱗で大鎌を作れそうな武器屋が全くない…」


カジーノ商会を見た次の日、朝から夕方まで商会に入っていなそうな武器屋を色々回った。だが、その結果は惨敗と言ってもいい。

今はもう宿に帰って徒労に終わった1日の疲れを癒している。


「良くてもカジーノ商会と変わらない程度だからな…」


大体半分の店がなまくらしか売っていなかった。そのくせ、値段だけは無駄に高い。また、出来が良いと思っても、それでもカジーノ商会と品質はそこまで変わらないとしか思えない。もちろん、見る人が見たら品質には差があるのだろうが、俺が見て分からない程度の差では意味が無い。


「まあ、面白い武器屋もあったけどさ」


武器屋の中には他とは一風変わったのもあった。その中で一番良いと思ったのは大鎌やハルバードやモーニングスターなどの使う者が余りいない武器を専門で売っている店だ。ただ、品質はカジーノ商会よりも1段か2段劣る位の性能だった。

これは俺の予想だが、普通の武器を作ったら他には勝てないと悟ってコアな武器専門の店にしたのだろう。その考えは否定しないし、むしろ良いと思うが、今の俺の目的には合わない。


「とりあえず、大通りの全ての武器屋を見るまで頑張るか…」


やはり、この大都市アダマスはかなり大きく、大通りの武器屋を1日で見ることはできなかった。それも、商会に登録しているような大きな武器屋を除いているのにだ。まずは大通りの武器屋を全て見るのが目標だ。

ただ、思っていたよりも時間がかかり、大通りの武器屋を見終えるのに3日間もかかった。



「明日からは裏路地を探すか…」


今日で表通りの大通りの武器屋をほぼ全て見て回った。だから明日からはまだ見ていない表通り以外の裏路地などに入って武器屋を探す。

ただ、裏路地は大通りと比較にならないほど店の数が多い。というか、道が多いからその分店も多くなっている。そして何より……。



「金持ってる?ちょうど金無くってさ」

「後で返すからちょっと貸してくんね?」

「金が無いならその背中の武器でもいいんだぜ?」


「はあ…」


裏路地は大通りと比べ物にならないくらい治安が良くない。俺の見た目が若いからってのもあると思うが、普通に絡まれた。


「邪魔」


「「「ぶべっ!?」」」


大刀の鞘を抜かずにそのまま殴って気絶させて放置した。正当防衛にはなるので殺してもいいんだろうが、一々殺したら後処理が面倒だ。

その後も何回か絡まれながらも、路地裏で良い武器屋を探し歩いた。



「ハズレが多くなった…」


路地裏を1日探した結果、ハズレしか見当たらなかった。まだ大通りで見た大鎌などの専門の武器屋の方が武器のグレードは全然良い。


「頑張るしかないか……」


本気で海竜の鱗で大鎌を作れる鍛冶師が誰1人居ない可能性が出てきた。だが、ラウレーナに新しい大鎌を見せ付けると言ってしまったし、何の成果もなく魔道国には行く訳にはいかない。だから諦めずに探すしかない。



さささっ……

ささっ……


「ついに避けられるようになったな」


今日で裏路地を探し歩いて5日目になるが、ついに絡んでくる者が居なくなった。というか、絡むような輩が俺を避け始めた。どうやら、俺が何十人とボコったのが噂話的に広がっているらしい。

ちなみに、2日目にボコった奴を脅…頼んで良い武器屋に連れてけと言ったが、安いだけの店に連れてかれた。それを2回繰り返されたので誰かに話を聞くのは諦めた。



「おい、いいの持ってんじゃねーか」


「やめてよ!それは僕がみんなを守るためにおじちゃんから持ったんだよ!返してよ!」


「ん?」


横の裏路地から何か揉めるような声が聞こえてきた。こんなのは裏路地では日常茶飯事なのでいつもなら気にしないが、今回は揉めてる声の中に幼そうな声が聞こえて来たから立ち止まった。


「後ろのガキどもは文句あるか?」


「それは兄ちゃんがいっぱいいっぱい手伝ったお礼に貰ったナイフだから返して……」

「そ、そうだよ!返せよ!」


横の裏路地を見ると、10歳以外ぐらいの子供3人がガラの悪い大人の男に絡まれていた。詳しい話まではよく分からないが、子供の何かをガラの悪い奴が奪ったようだ。


「なんだなんだ?」

「ガキ相手に何してんだ?」

「ああ、いいのを持っててな。ほれっ」


後ろからさらに男の仲間が2人登場した。その2人にたった今奪ったであろう何かを見せつける。


「確かにこれはいいな。お前らこれは俺らのもんだ」

「睨んでるが、文句でもあるのか…」


「か、返してよ…」


「はあ…」


さすがに見ていられなくなった俺は、横の裏路地へと入っていった。

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