第226話 別れ

「よし、今日から自由に動いても問題は無いな!」


俺とラウレーナは神官に言われた通りに、退院してからも大人しく過ごしていた。だが、それも昨日までで、今日からは自由になった。


「依頼を受けようにもギルドが断るんだもんな」


「神官からギルドにもキツく言ってたみたいだね」


運動代わりに依頼を何個か受けようとしたのだが、ギルドが依頼を受理してくれなかった。まあ、依頼を受けずとも街の外に出たら魔物は狩れたが、そこまでする必要はないと感じていた。


「まあ、ヌルヴィスには大鎌も無いしね」


「そうなんだよね…」


あの大鎌が無いという事だけで気持ち的には片腕を無くした時よりもキツイ。俺からしたら大鎌は腕なんかのような身体の一部よりも自由に動かせる。そのため、気分的には半身や魂の一部が無くなったようなものだ。

前まで使っていた大鎌が予備としてあるのだが、あれは刃がダメになっているからそれを使うくらいなら折れた大鎌と同時に貰った大刀を使う。


「それなら早く大鎌を作ってもらわないとね」


「ああ、そうなんだが…」


本当なら今すぐにもドワーフ国に向かって武器を作って貰いたいのだが、そうもいかない事情がある。


「街の人達とドワーフの鍛冶師が問題?」


「それなんだよ」


ラウレーナが言った2つの要因で俺はさっさと街を出ることができない。

まず、街の人達についてだが、クラーケンだけでなく、海竜も退けたとしてなぜか英雄的な扱いをされるのだ。会えば何か物をくれたりする。今の宿もラウレーナ共々無料になってしまったくらいだ。こんなに親切にしてくれているのに、それを機にせずに街を出るのは少し心が痛む。


次にドワーフの鍛冶師の問題だが、これが最大の問題だ。


「まさか、海竜の鱗を武器に加工できる鍛冶師が居ないとはね」


「ああ…」


何と、この国で調べられる限りでは、海竜の鱗をまともに扱える程の腕がある鍛冶師はドワーフ国にすら居ないそうだ。確かに魔法攻撃だけでなく、物理攻撃すらも効かなそうなこの鱗を溶かして武器として加工できる者はかなり限られているだろう。だが、まさか居ないとは思わなかった。


「どんなに優れた素材でも加工できなければただの嗜好品だもんね」


「でもギルド長も加工ができる人が居ないとは思っていなかったらしいけどな」


ギルド長も意地悪で渡した訳でなく、加工できる者が居ないと分かると、元の報酬とで鱗を交換すると言ってくれた。


「でも、ヌルヴィスはどうしても海竜の鱗で大鎌が欲しいんでしょ?」


「ああ。やっぱりこれを使った大鎌を見てみたいし、使ってみたい」


俺はどうしても海竜の鱗で作った大鎌が欲しいと思ってしまったのだ。今からどんなに優れた大鎌を貰っても海竜の鱗が頭に浮かんでしまう。


「まあ、ギルドの調査から逃れてる職人も結構多いらしいからね。頑張れば見つかるよ!」


ギルドが調査できるのは弟子を何人も取って自分の鍛冶工房が大きくなっており、商人ギルドという商人専用のギルドに登録している者達だけだ。つまり、商人ギルドに登録しない個人でひっそりやっている者は調べられていない。


「ただ、個人では詐欺も多いから気を付けないとな」


個人でやっている者の中には高い金だけ貰っておいて、なまくらの武器作るか、そもそも作らない者もいる。

商人ギルドに登録するには金がいるのだが、商人ギルドが工房を調査してそういった詐欺はないという信用が得られるのだ。工房は詐欺は無いと保証されることで、客はその工房に安心して武器を頼めるし、買えるのだ。


「つまり、行ってみるしかないんだよな」


優れた腕を持つドワーフの中でも偏屈な者は商人ギルドには入らない場合があるそうだ。だから結局はドワーフ国に行き、頑張って自分の手で探すしかないのだ。


「それなら尚更早く行かないとだよね?」


「…分かった。明後日にこの国を出よう」


ラウレーナの説得により、俺はこの街を明後日に出てドワーフ国に行くことにした。

それにしても、説得するように俺を急かすということはラウレーナもラウレーナで早く魔道国に行きたいようだな。


次の日には明日の昼過ぎに水国を出ると色々な者に最後の挨拶をした。特に力尽きかけていた俺を運んでくれたあの親子にはとことんお礼を言っておいた。

別れの挨拶をしたほとんどの者に惜しまれたが、無くなった武器が早く欲しいと言ったらみんな納得してくれた。


出発する日までできるだけ水国ならではの海産物を色々と食しておいた。

ちなみに、俺が1番美味しいと思ったのはなんと、クラーケンの触手の炭火焼きだ。見た目的には食べれるようには見えなかったが、食べた者は美味いと絶賛していたので食べてみた。その結果、とてもジューシーかつ旨味に溢れていて美味だった。ラウレーナも1口食べたが、どうしても見た目で味を感じるどころでは無いとそれ以降食べるのをやめた。



『クラーケンの討伐、ありがとな!!』

「「「ありがとう!!」」」


「いや、そういうの要らないって言ったじゃん…」


俺達が街を出る時には冒険者だけでなく、漁師、街の人々が大勢最後の挨拶をしにやってきた。

そういうのを要らないと言うために昨日で挨拶回りは一通り済ませたのに。


『お前達がこの国、この街にまた来た時は全力で歓迎してやる!だからまた来いよ!』


「ああ!いつかまた来るよ!!」


「絶対にまた来るから、その時はよろしくね!!」


俺とラウレーナは大勢に見送られながら街を出て行った。




「はあ…全く…」


街が見えなくなったくらいで俺はため息をこぼす。


「でも、何やかんやで見送りに来てくれてヌルヴィスも嬉しそうだったよ?」


「……」


あんな感じで大勢に喜ばれたり、感謝されるのは初めてだった。それもわざわざ次の国へ行く時に門まで見送りに来てくれるほどとはな。


「…嬉しいのは認めるよ。ただ、小っ恥ずかしいんだよ」


「素直でよろしい」


自分のやりたいことを全力でした結果、それが誰かのためになって、それであんなにも喜んでくれると、こちらまで嬉しくなる。

冒険者にはこういうやり甲斐もあったのだな。




「じゃあ、僕はこっちだから」


そして、街を出て1時間ほど歩いていると、魔道国とドワーフ国とで道が変わる場所がやってきた。


「ああ、また魔道国で!」


「うん、またね!良い大鎌ができるといいね!」


俺はここでラウレーナとも別れ、海竜の鱗を使って大鎌を作れる者を探すためにドワーフ国へと1人で向かう。

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