第225話 退院と報酬

「これで自由の身だっ!」


「今までが囚われてたみたいな言い方だね」


ラウレーナの目が覚めてから5日後に俺達は救護室から退院することを許された。それまでは救護室から出ることも許されていなかった。


「この部屋から出るからってすぐに激しく動いていいわけじゃないですからね!最低でも5日間は安静にしてください!」


「分かってるって」


「大丈夫だよ」


救護室から退院して部屋から出る直前まで、神官から念押しをするようにそう言われた。出たら何を狩ろうかとかをふざけて話していたのが悪かったのかもしれない。



「「「退院おめでとう!!」」」


「うおっ?!」


「わっ?!なに!?」


俺とラウレーナが救護室から出て、依頼ボードや受付のあり、人が多くいる場所に出ると大勢から退院を祝われた。


「クラーケンを討伐できたのも、海竜から逃げれたのもお前達のおかげだ。こいつらはそれを感謝したいんだよ」


困惑している俺達にギルド長が訳を伝えてくれる。自らお礼を言わなくても文句は言われないのに、わざわざ退院に合わせてお礼を言いに来るなんてな。


「今日の飯は俺達で奢るぞ!退院したんだし、このギルドで好きな物をいっぱい食ってくれ!1番高い料理と酒をこの2人に出してくれっ!!」


救護室に居る頃からちゃんとご飯は3食出てきたが、正直少し足りなかった。だからここで好き放題食べれるのはありがたい。



「じゃあ、今日は奢らせてもらうぞ」


「いただきます!」


「おう!いっぱい飲み食いしてくれ!」


驕る者が何十人も居るので、俺とラウレーナの飲み食いの金を奢っても一人一人で考えたら対した出費にはならない。だが、そもそも一緒に受けた依頼での出来事なので、お礼自体がいらない。それをくれるというのだからお言葉に甘えて貰っておこう。


その日は奢ってくれた者達と夜遅くまで飲み食いしていたが、最終的に痺れを切らした神官の発言と共に解散となった。




「さて、クラーケンの依頼の報酬について話すぞ」


退院した次の日、二日酔いの者が多く、人が少ないギルドに俺とラウレーナは来ていた。今日の要件はギルド長が言ったようにクラーケンの依頼での報酬を貰うためだ。

ちなみに、これらの話はギルド長の部屋でするから第三者にこの内容が伝わることは無い。


「まず、ランクだが、ラウレーナをCランクとする。そして、ヌルヴィスをBランクとする」


「おお!やった!」


「よっしゃ!」


提出していたギルドカードを返却されながらギルド長にそう伝えられる。

ラウレーナのギルドカードは前までの俺と同じ緑色だ。対して、俺のギルドカードは黄色だった。


「これで「不撓不屈の弾」のパーティのランクはBとなった」


俺とラウレーナのランクが上がったことでパーティとしてのランクもBランクとなった。


「正直、お前らはまだ若い。だからこんなに早くランクを上げて、変なやっかみを食らわすのもどうかと思った。だが、お前らならそんな小さいことは気にしないだろうからランクを上げた。功績的にはギルド総出の討伐依頼となったクラーケンの偵察と囮で十分だったからな」


「ランクを知って絡んでくるようなアホはボコるだけだから問題ない」


「ここで上げなくても近いうちに上がることになるから心配は無意味だよ」


俺とラウレーナは別にやっかみなんて気にしていない。この世界を自由に生きていくのに、やっかみ程度は許容しないといけない。


「それから、報酬の金は2人合わせて黒化1枚と大金貨2枚となるが……」


ギルドはそこまで言うと、マジックポーチに手を入れてごそごそとあさる。


「これらを報酬として貰うなら、報酬はこれらと大金貨2枚となる」


「何だこれ?」

「なにこれ?」


ギルド長はそう言いながら、マジックポーチから濃い青色で楕円状の薄っぺらく、顔ぐらいの大きさの何かを3枚取り出してテーブルに置く。

もちろん、こんなものを俺とラウレーナは知らない。


「これは海竜の鱗だ。クラーケンの触手の近くに浮いていた」


「っ!?」

「これが…?」


何と、ギルド長が差し出してきたのは海竜の鱗だった。竜の鱗なんてほとんどお目にかかる機会は無い。たまたま生え変わるタイミングだったのか、運がかなり良い。


「ヌルヴィスはちょうど武器が壊されたと聞いたし、新しい武器の材料にどうだ?」


正直、かなり欲しい。この珍しい鱗は金で買えるようなものでもない。しかも、その強度は身をもって体感している。これを使えば素晴らしい武器が作れるだろう。

だが、今回の依頼の報酬は俺だけのものでは無い。ラウレーナにとってはこれは必要ない物だ。だからこれを貰うと言うのは躊躇してしまう。


「鱗を報酬にちょうだい」


「分かった」


「え!?ラウレーナ?!」


悩んでる俺をよそにラウレーナが報酬を決めてしまった。


「これが欲しいんでしょ?なら遠慮せずに貰いなよ。パーティだから変なところで気を使わなくていいよ?」


「なら足りない報酬分の大金貨4枚は渡すよ」


今回の大金貨2枚に付け加えて、本来貰うはずだった報酬の半分となる大金貨4枚をラウレーナに渡そう。

しかし、ラウレーナは別に要らないと言って受け取ろうとしてくれない。魔道国でも金は必要と説得して何とか大金貨3枚はラウレーナに押し付けることに成功した。残りの1枚は粘っても駄目だった。


こうして、俺とラウレーナは共にランクアップするだけでなく、海竜の鱗3枚と大金貨2枚を報酬として手に入れた。

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