第223話 今回の事件の発生理由

「ん…」


ベッドで目が覚めた俺は状況を理解するまで少し時間がかかった。

あれ?俺はクラーケンを討伐していたはずでは?と最初は考えていたが、目が覚めていくうちに、だんだん眠るまでの記憶を思い出していった。


「あっ!ラウレーナ!」


俺はベッドからガバッと起き上がって周りを見る。


「あっ…良かった…」


隣のベッドではラウレーナが眠っていた。掛け布団の1部が上下しているので、しっかり生きている。


「そういえば、俺の腕もあるな」


布団をめくったことで無くなったはずの右腕が目に入り、普通に付いていることに気付く。


「動きもするな」


右手をぐー、ぱーと動かしたり、右腕をぐるぐる回すが、特に問題なく動く。


「これならすぐに魔物討伐も再開できるな」


「ダメです。もう治ってはいますが、念の為10日間程は横の女性と一緒に安静にしてください」


俺の言葉は部屋に入ってきた40歳くらいの女に否定された。


「そういえば、ここはどこで、あなたは誰だ?」


ベッドが2つと机と椅子しかないこんな部屋は来たことがない。もちろん、今来た女にも会った記憶はない。


「ここはギルドにある救護室です。そして、私は教会の神官です。あなた方はポーションで怪我を治されましたが、念の為で回復魔法を使える私が呼ばれました」


「なるほど」


ギルドには怪我をした冒険者を休ませる救護室というものがあったりする。俺達はそこで眠っていたそうだ。また、俺達を思って回復魔法のエキスパートである神官もギルド長が呼んだそうだ。


「でも、治ったんなら動いても良くないか?」


「駄目です。2人は死んでもおかしく無い怪我をしていました。傷が治ったからと言ってすぐに動き回れば、傷が開くという万が一起こってもおかしくはありません」


俺は片腕欠損という怪我だったが、ラウレーナも相当の怪我だったそうだ。まず、腹の傷は内臓が溢れ出るほど深く、また衝撃で背骨も粉砕するほど折れていたらしい。

ここで思い出したが、俺は右腕と一緒に大鎌も切断されたから行きたくても狩りには行けないわ。まあ、どうしてもという場合は大刀を使えばいいけどさ。



「おっ!起きたそうだな!」


「ああ、ギルド長らのおかげでな」


そして、どこから聞き付けたのか、ギルド長が部屋に入ってきた。その際の声が大きく、神官に少し怒られていた。


「あ、ポーションの金を払うぞ」


「貰わない…と言いたいところだが、それは難しいからな。でも依頼料から引いておくぞ?」


ギルドから討伐のために支給された闘力ポーションらとは違い、ギルドが使ってくれた回復ポーション類は有料になる。ギルドも慈善活動では無いので、使ってくれたポーションの金は払わないといけない。

まあ、普通はそんな金を一括で払えない場合が多いので、依頼料の何割かを返済まで渡し続けることになる。

また、今回の依頼料でその分の金額は全て払えるそうだが、今回はパーティの金から出すのではなく、俺の金で払いたい。


「ちょっと待ってろ」


ギルド長は1度部屋から出ると、借用書を持ってきた。その金額は大金貨4枚と金貨3枚だった。どうやら、ラウレーナは上級ポーションだけで済んだようで金貨3枚で、俺の最上級ポーションが大金貨4枚だ。

俺はこの金をこの場で一括で返済した。



「クラーケン討伐後の話をしていいか」


「いいぞ」


ポーションの代金を払った後はクラーケンの話となった。本来、ギルド長はこの話をするために来たのだろう。


「お前が1日眠っている間である、今日の朝方に偵察の船が海に行った。その際、クラーケンの死体は触手の1部しかなく、海竜の姿もなかった。また、いなくなった魚の魔物は少しずつ増えて元に戻りつつあるそうだ」


さらっと言われたが、俺は1日以上寝続けていたそうだ。普通に少し驚いた。

また、あの竜は海に出た竜ということで海竜と呼ぶことにしたらしい。


「海竜はクラーケンを追ってきたんだな」


「俺達ギルドもそう考えている」


ギルドは今回のことは海竜が逃げるクラーケンを追うことで、2匹とも海面まで姿を現したと考えている。


「また、クラーケンが船を襲うのも海竜に居場所をバレないようにするためだったと考えている」


「なるほどな」


海に伝わる振動などで船をクラーケンと誤認して近くまで海竜が来ないようにするために、クラーケンは船を襲っていたと考えているそうだ。

また、最初から水の弾を船に放たなかったのも、音や振動をできるだけ抑えるためだとしたら説明がつく。逆に使い始めてからは攻撃特化で激しく使ったのは、早く終わらせてその場から移動することで海竜から逃れたかったのか。そして、俺が一人で偵察に行った時は上空にいたから音も何も出ないから平気に水の弾を放って襲ってきたということだ。


ちなみに、クラーケンが海竜から逃げていたと仮定すると、最後の最後までクラーケンが逃げなかったのも説明がつく。逃げても海竜が居るんだから海深くに潜れない。


「お前達は早く元気になれよ。報酬とランクについて話があるからな」


ギルド長はそう締め括って部屋から出ていった。ギルド長はクラーケンを討伐した今は特に忙しいはずなのに、俺達のために短時間でも顔を出してくれるとはな。

それから俺は神官の監視の元、ベッドの上で静かに過ごした。

ラウレーナが目覚めたのは俺が起きてから1日後のことだった。

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