第222話 レイド討伐終了

「しっ!」


俺は自分が出せる最高速度で竜の周りを回った。竜の攻撃は回避も防御もできなく、1発でほぼ即死だ。それなら最初から当たらないように動くしかない。

そういえば、何やかんや俺は誰かを守るために戦うことが多いな。ただ、今回は絶対に勝ち目はないという点で今までとは決定的に違う。


「あっ…」


走っている途中で一瞬意識が遠のく。

そういえば、右腕が無くなったのに傷を抑えて止血をする暇もなかった。つまり、傷口からは血が流れ続けている。血が足りないのだろう。


「轟け!」


俺は走りながら詠唱をする。最初は魔力を温存しようかと思ったが、こいつの気を引くためには全力で魔法を使うしかない。


「サンダーランス!」


大量の魔力が込められた雷魔法が竜へと迫る。竜はそれを避けようとはしない。


「グルゥゥ」


「ははっ……」


竜とはいえ、海にいるからには雷魔法が弱点だとは思うのだが、雷魔法でも全くダメージになっていない。


「グガァッ!」


「は?」


竜は急に俺から目線を逸らすと、クラーケンにがぶりと噛み付いた。噛み付いてすぐはクラーケンもじたばたも暴れていたが、それもすぐに無くなってクラーケンは完全に死んだ。


ざぶんっ!


竜は俺の方を見もせずにそのままクラーケンを咥えて海に潜って行った。


「俺なんか相手する必要も無いってか…」


竜は別に俺を見逃した訳では無い。弱点である雷魔法を使うからと警戒したが、その威力が弱かったからどうでもいい対象と認識されたのだろう。


「でも目的は果たした」


無視されたのはプライド的には傷付くのだろうが、今回に限ってはそんなことどうでもいい。ラウレーナを守れたことには変わりない。


「あっ…やべ」


竜が目の前に居なくなったことで緊張の糸が切れたのか、一気に目眩がやってくる。それはシールドの無属性魔法を維持するのも無理なほどだった。


「守れ…」


俺は海に向かって落ちながらどうにか港まで帰るためにと無属性魔法を使おうとするが、上手くいかない。

後は帰るだけなのにそれができないのか。


ぼちゃんっ


「かはっ」


海に落ちた俺にできるのは上を向いて呼吸をできるようにするくらいだった。


「ごめん、ラウレーナ……」


本格的に意識が遠いてくる。瞼を開けるのも無理だ。そんな状態で最後に思うのはラウレーナに対しての申し訳なさだ。連れ出した俺がこんな早く、先に死ぬのが申し訳ない。



ボオォォォ!!!


「……ん?」


ほぼ目を閉じていたところで、急に何かの音が聞こえてきた。この音が魔物ならラウレーナのところに行かせないようにしないとと思い、目を開けて音の方を見る。


「おい!大丈夫か!」


「な、何で……」


音の正体は俺達が乗ってきた小さな船だった。港まで帰れと指示は出ていたはずだ。ここにいるわけが無い。


「俺達の任務はお前と嬢ちゃんを無事に港まで返すことだ。嬢ちゃんは他の船に居るからいいが、お前はこの船でしっかり帰してやる!」


「真面目かよ…」


俺は船長によって海から船に引っ張り上げられる。


「あっ」


その時に船に乗せてあるあるものが目に入った。


「お前の切れた腕もちゃんと回収してある。スパッといってるから、これさえあれば傷口に押し付けながら最上級ポーションをかければ元に戻る」


「そうか…!」


船の上には俺の右腕と切断された大鎌が乗っていた。この右腕がなかったら腕を生やすためにエリクサーというそもそも流通がほとんどしていない最高級の回復薬が必要になった。


「だから絶対に死ぬな!嬢ちゃんだって待ってるぞ」


俺の肩にヒモをキツく巻き付けて血がこれ以上でないようにしながら船長は俺を元気づけようとする。


「それと、下級ポーションだが、飲んどけ。あんまり良いポーションを飲むと腕の傷が塞がるかもしれん」


「ありがとな…」


俺は渡された下級ポーションを飲む。少しだけでも楽になったから効果はあったんだと思う。


「それと、俺達は何も見ていないからな。お前は魔法なんて使ってない」


「助かる」


それはもうほぼ言っているようなものだが、不器用ながら配慮しているのは伝わってくる。確かに竜が現れてからは魔法を隠そうという考えすらなかったからな。その優しさに甘えることにする。


その後も何かと船長は俺に話しかけてくる。それも船長は長く話しても俺の返答は一言で済むような話ばっかりだ。船長が俺を眠らせないようにしているのが伝わる。



『ヌルヴィスは無事か!』


「今は無事だ!だから急いで最上級ポーションを持ってこい!」


港近くなると、そこで待っていたギルド長が遠くから話してくる。


『既に持ってるぞ!それと、ヌルヴィス!ラウレーナも無事だから安心しろ!』


「そうか…」


ラウレーナも無事なのか…。大丈夫とは信じていたが、かなり重症のはずだから心配していた。本当に良かった。


「んっ…」


ラウレーナが無事と聞くと安心して眠くなってきた。さっきまでの強制的に意識が遠のくのとは、感覚がぜんぜん違う。


「もう大丈夫だ。眠っていいぞ」


「ああ…」


俺はここで眠った。

色々と事件は起きたが、俺もラウレーナも生還してクラーケン討伐は終わった。

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