第221話 考えていなかった最悪
「らあっ!」
「うらっ!」
俺とラウレーナはクラーケンを一方的に攻撃していた。ラウレーナが動きやすいようにクラーケンの周りには盾を設置している。
ボンッ!
「おっと…!」
クラーケンも水の弾を放ってくるが、常に動き回っている俺達には当たらない。
「まあ、そうするよなっ!」
俺は海から伸びてきた触手を斬り付ける。船が遠くなり、俺達が近付いてきたら触手で対処するというのは予測できていた。
「ふっ!はあっ!」
俺はクラーケンの頭ではなく、切れかけている触手の2本に闇の斬撃を放つ。それだけでは切断できないが、切り込みは深くなった。
「しっ!」
今度はクラーケンの頭を狙って闇の斬撃を放つが、触手によって防がれる。触手の傷の無い部分に闇の斬撃を当ててもそこまでダメージにはなっていない。
「轟け!」
俺は触手を避けながらクラーケンの頭に接近しながら詠唱を始める。
「サンダーボム!」
ほぼクラーケンに触れるような距離まで触手を掻い潜って近寄って魔法を放つ。この場所なら魔法は見えないだろう。
「ウォォォォォォォ?!?!!!」
クラーケンは雷魔法を食らうと、今日一の苦しそうな声を上げた。やはり、海の魔物だし、雷魔法が弱点だったようだな。
「おいおい…」
雷魔法を使ってから全ての触手が俺に向かってくるようになった。頭を攻撃しているラウレーナは完全に無視した。
「どんだけ雷苦手なんだよ!」
さすがに全ての触手に狙われながらでは頭を攻撃できない。
「轟け!サンダーランス!」
だから触手を狙って魔法を放つ。触手にも雷魔法はかなり効くようで、1発で触手がボロボロになるほどのダメージが入る。
また、俺がさっき雷魔法を当てた場所をラウレーナが攻撃し続けている。そのため、ダメージはかなり蓄積されている。
「グゥゥゥ……」
「あっ!こいつ!」
クラーケンは小さく唸りながら海の中に潜ろうとする。
「逃がすわけないだろ!」
俺は潜っていくクラーケンを追う。だが、スピード的に俺がクラーケンに追い付く前に完全に潜られる。俺は闇身体強化と闇魔装を雷身体強化と雷魔装に変える。
「轟け!」
そして、移動しながら詠唱も始める。未だにクラーケンが完全に潜る方が速いが、問題ない。
「サンダーバーン!」
俺はほぼ全ての魔力を込めた魔法を発しながら海に突っ込んだ。
「ウオォォォォオ?!!!」
海に雷が流れる。クラーケンはたまらず海から飛び出す。海に入った俺も痺れるが、雷身体強化と雷魔装をしている分、クラーケンほどのダメージは無い。
俺は海に漬かりながら顔を出して自前の魔力ポーションを飲み、盾を蹴って暴れ狂うクラーケンへ向かう。
「轟け!サンダーランス!」
クラーケンのさっきカミナリ魔法を食らって抉れている部分を狙って0距離から魔法を放つ。その魔法はクラーケンの頭を貫いた。
クラーケンはぴくぴくと動きながら、横に倒れて海の上に浮かぶ。
「ヌルヴィス!勝ったよ!」
「おう!」
俺とラウレーナはそう言い合ってハイタッチをする。まだ完全に死んでいるか分からないから、攻撃して確かめないといけないが、勝ったことは確かだ。
2人でクラーケンを討伐できたことを喜んでいるその時だった。
ドゴン!
「は……?」
大きな音に反応して後ろを向くと、突然現れた海水の巨大な竜巻によって、近寄ってきていた船の1隻が木っ端微塵になっていた。乗っていた者は生きてはいないだろう。
「ガシャアァァァァ!!!!!!」
思わず体が恐怖で震えてしまうほど力強い咆哮が後ろから聞こえてきた。ゆっくり振り向くと、そこにはクラーケンよりも大きい何かがいた。
「竜…」
その何かの姿はおとぎ話で出てくる竜とそっくりだった。この竜に羽は無いが長く大きな身体に手足が生えている。
今まで俺達はクラーケンが何で急に現れたかなんて考えていなかった。いや、無意識に考えないようにしていたのかもしれない。最悪のケースを考えたらクラーケン討伐には出向けなくなる。
そして、今回はその最悪で、クラーケンは自分よりも強い魔物から逃げていたのだ。だからクラーケンは最後の最後まで海中に逃げれなかったのか。
「あっ…」
その竜と眼が合うと、水の刃が俺の方に飛んできた。恐ろしく速いはずのそれはとてもゆっくりやってきているように見える。それなのに体はピクリとも動かない。
これは死ぬと思った時だった。
「危ない!」
「えっ……」
ラウレーナが俺を横から押した。思わず横に顔を向けると、俺の代わりにラウレーナが水の刃を腹に食らっていた。水魔装では威力を弱められるはずなのに、ラウレーナからはベキョッ!という聞こえてはいけない音がした。そして、その音と同時に血が吹き出し、ラウレーナは吹っ飛んだ。
「ラウレーナ!」
ラウレーナが吹き飛んだ方を向いて俺は叫んだ。もう全ての光景がスローモーションには見えなくなっていた。
ガンッ!
ラウレーナは幸にも船のマストに突き刺さって止まった。海に落ちるという最悪は避けられた。
「っ!?」
再び危険感知が反応し、慌てて竜の方に振り向きながら大鎌を盾のように危険に対して向ける。
「あっ…があぁぁぁ……!!」
しかし、そんなことは無意味で大鎌ごと俺の右腕は水の刃で切断された。ただ、振り返った時に動いたことで即死は避けられた。
『逃げろ!』
ギルド長からそう指示が出る。船は各々の出せる最大のスピードで港へと向かって行く。
「おい…お前は…どこを見てるんだよ」
俺は血がぼたぼた垂れる右肩を左手で抑えながらそう呟く。今、竜は自分から離れていく船を見ている。もし、ラウレーナが居る船が攻撃されたらまだ辛うじて生きているであろうラウレーナは今度こそ死んでしまう。
「闇れ!」
俺は竜にストックしていた闇魔法を放つ。ほぼ全ての魔力が込めらたそれを竜は避けることなく食らうが、全くダメージにはなっていない。
だが、竜の眼は船ではなく、俺の方を向く。
「お前の相手は…俺だよ」
俺は絶対に勝てるわけのない相手に対して効果があるかも分からない時間稼ぎをしようとしている。俺がどうなろうと、絶対にラウレーナだけは逃がしてやる。
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