第220話 ピンチはチャンス?

ガンッ!ガンッ!


クラーケンの放った水の弾が船に当たり、鈍い音が響く。漁船の中でも装甲がしっかりしているやつを選出して使っているためか、1発当たっても大きく凹むだけで済んでいる。


『旋回!』


クラーケンの船潰しの攻撃が開始されてからのギルド長の判断は早かった。すぐに船をクラーケンの周りを回るように動かすように命じる。これでクラーケンが船を狙って当てるのは少し難しくなった。


「ちっ…!」


そんな中、俺に向かってきた水の弾をラウレーナを抱えたまま避ける。俺とラウレーナも船と同様にとしっかり狙われている。


『放て!』


俺達がクラーケンから離れたことで、全方位からのクラーケンへの魔法攻撃がされた。ただ、船が動いている分、全体的に魔法のコントロールの精度は低くなっている。また、魔法の数も減っている気がする。魔力の無い者が出始めたか、クラーケンの攻撃にビビって何もできないのかは分からないが。

ちなみに、クラーケンは触手を海から出すことなく、魔法に当たっている。あの海の中で広げた触手はもしかすると、水の弾を連発してもバランスを崩さないようにしているのかもしれない。また、放っている水の弾に使われる海水を吸盤から吸い込んでいる可能性もあるな。


しかし、クラーケンが何もせずに魔法を食らっている訳では無い。クラーケンは魔法を食らいながら水の弾を放ち続けている。



「このままじゃあ…」


ラウレーナがボソッとそう呟く。俺はラウレーナが何を言いたいか理解しているし、多分同じ気持ちだ。


「このままなら負ける…」


いい調子に見えるが、このままでは俺達は負ける。丈夫な船とはいえ、水の弾を数発食らったらどこかしら故障する。そうして船が動かなくなったら完全に水の弾の的になる。1つの船が脱落したら後はそこから負けは早いかもしれない。

また、クラーケンの水の弾のコントロールもだんだん良くなってる。



「違う…これは逆にチャンスだ」


「え?」


俺は認識を少し変える。今のクラーケンは攻めに意識を割き過ぎている。クラーケンの近くに纏わり付けば、水の弾を当てずらくなる。つまり、今のクラーケンに近付けさえすれば頭に攻撃し放題だ。


ガンッ!バキバキバキッ………!!


「あ、マストが…」


1隻の船のマストに水の弾が当たり、半ばからへし折れた。これで1隻は帆に風を当てて進むことが難しくなってしまう。

ぐるぐると回っていた船が1つ止まるだけで、他の船も全部止まる。


「ラウレーナ、俺の作戦を伝える。これはかなり無茶だから無理と判断したら止めてくれ」


俺はそう前置きをしてから、自分でも無茶と思える作戦をラウレーナに話していく。

ラウレーナは話を遮ることなく、最後まで聞いてくれた。



「それはかなり無茶な作戦だね。クラーケンや船のこれからの行動次第で無意味にもなるかもしれない」


全てを聞いてからラウレーナはそう言う。この作戦は危険を伴う上に、上手くいく保証も無い。


「それで、どうする?」


だが、逆に上手くいった時のリターンも大きい。時間が無いこともあり、ラウレーナに結論を急かしてしまう。


「僕らのパーティ名は「不撓不屈の魂」だよ?強い意志でどんな困難にも挫けずに挑まないと。

もちろん、賛成だよ」


ラウレーナが賛成してくれたので、作戦の中身を2人で少しでも綿密に詰めていく。



『退避!!』


追加でもう1隻の船のマストが折れると、ギルド長はクラーケンから距離を取ることを選択する。これ以上離れれば魔法をクラーケンに当てるのは無理になるが、クラーケンの近くにこのままいたら船が沈むから仕方がないだろう。



「行くぞ!」


「うん!」


船はクラーケンから離れていくが、逆に俺達はクラーケンに接近していく。他の者には悪いが、俺達はこのタイミングを待っていたのだ。


「ラウレーナ!」


俺はラウレーナを軽く上に投げる。そして、ラウレーナへ大鎌を振る。


「ふっ!」


ラウレーナは俺の振った大鎌の柄を蹴ってクラーケンのほぼ真上まで跳ぶ。俺の大鎌を振る力とラウレーナが蹴る力が合わさったことでかなりの高さまで跳ぶことができた。


ボンッ!ボンッ!


もちろん、そんなラウレーナにクラーケンの水の弾が放たれる。俺はラウレーナの近くに盾は設置していないので空中で避ける手段はない。ラウレーナは水の弾に当たってしまう。


「やっぱり大丈夫だった!!」


空中からそんなラウレーナの声が聞こえてきた。

魔装にはその属性からの攻撃の威力を軽減する力がある。それは師匠から聞いているし、俺の自爆に近いラウレーナへの雷攻撃でよく体感してもいる。

クラーケンのは魔法では無いけど、水を放っているため、水魔装のラウレーナに対しては威力が弱くなる。

冷静になると、さっき慌ててラウレーナを抱えて逃げる必要はなかったかもしれない。


「守れ、シールド」


残り少ない盾を消し、海に落ちていきながら大量の盾を新しく作る。作り終えたら新しい盾を蹴って俺もクラーケンに近付く。


「たあっ!」


ちょうどその頃にはラウレーナがクラーケンのところまで落ち、クラーケンの頭を全力で殴る。クラーケンの水の弾の攻撃は止む。

俺はクラーケンに近付きながら闇身体強化と闇付与を行う。


「闇魔装!」


そして、クラーケンまで残り少しのところで闇魔装を使って全身に闇を纏って大鎌を振る。大鎌から放たれた闇の斬撃がクラーケンに命中する。


「ここでクラーケンを殺るぞ!」


「うん!」


俺達の作戦は船が離れている間に俺達でかなり弱ってきているクラーケンを殺るというものだった。


ちなみに、今は船がクラーケンから離れたことで俺達の姿はかなり小さくでしか見えていない。遠くを見る魔導具を誰も持っていなかったはずなので、それなら広範囲の魔法以外はバレずに使えるのだ。

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