第219話 たまたまの気付き

「はあっ!」


俺はクラーケンの触手に付けられた魔法の傷の上を大鎌で斬る。大鎌だけでは対して斬ることはできないが、傷の上からのためそこそこ深くまで斬れる。

クラーケンは斬られた触手と他に3本の触手を使って前後左右から挟み込んで俺を捕らえようとしてくる。上や下には触手は来てないが、そもそも触手が長くてそのどちらかでの回避は無理だろう。


「前!」


そんな時、後ろからそんな声が聞こえてきた。前にはさっき斬った触手が少し下がってから、勢いを付けて俺に向かって来ている。だが、それを気にせず前に進もうとする。そんな時、俺の横を俺の設置した盾を蹴って空を走るラウレーナが横切る。


「せあ!」


ラウレーナは目の前の触手を蹴って触手を後ろに追いやる。


「助かった!」


今度は逆に俺がラウレーナの横を通り過ぎながらラウレーナにそう伝える。

ラウレーナのおかげで触手の檻には隙間ができた。


「らあっ!」


俺はその隙に触手の間を抜け、クラーケンに近付いて頭を狙って大鎌を振る。しかし、その大鎌はずっと海に沈めていた半分の長さしかない触手に防がれる。


「…ん?」


切れた触手のことを忘れていたことで頭への攻撃を防がれたのは残念だが、そんなことを気にならないほど重要なあることにたまたま気付いた。


「頭の傷が残ってる…!」


最初も最初に俺がクラーケンの頭に付けた小さな傷がまだ残っているのだ。これが触手ならこんな小さな傷は数分、下手したら数秒で治っている。

そして、触手に攻撃しているラウレーナを放置して、頭の近くまで来た俺を全ての触手で排除しようとしてくる。俺は全力で下がってそれらを回避する。


「頭の傷は治らない!頭が弱点だ!」


「わかった!僕だと、なかなか触手に対して何かするっていうのは難しかったから助かったよ!」


俺はラウレーナに今わかったことを簡潔に伝える。さっきまで突破方法が無くなりかけていたが、希望の光が見えた。


『引け!』


「おっと…」


そんなところで魔法の合図がかかった。俺達は下がって魔法に当たらないようにする。

そして、そんな俺達を見たクラーケンは頭を触手で守って魔法が放たれる前に海に潜る。こいつ…俺達が離れたら魔法が来ると学びやがったな。かなり知能が高いぞ。これは少しまずいかもしれないな。


それから2度の魔法攻撃があった。俺やラウレーナの攻撃もあり、クラーケンの触手には傷が明らかに増えていた。集中的に狙っていた2本の触手は途中が半分ほどまで斬れている。

だが、そこで俺の懸念していた事態が起こる。



「バレたか」


クラーケンに俺の闇付与のことがバレたようなのだ。海から頭を出したクラーケンの目は俺に固定されている。試しにラウレーナに近寄ってもらったが、切れた触手と切れかけの触手で適当にあしらうだけで、まだ元気な触手はラウレーナには使っていない。試しに俺が少し動くと、触手も少し俺に合わせて動く。

このクラーケンという魔物は高ランクということもあり、かなり知能が高い。


「これは…少しキツイぞ」


今までは俺やラウレーナがお互いに触手を引き付けあって、片方が引き付けている間にクラーケンへ攻撃していた。だが、完全に警戒しているクラーケンの触手5本を掻い潜って触手に傷を入れるのは至難の業だ。


『放て!』


そんな時、ギルド長の言葉が聞こえてきた。その言葉でちょうど俺やラウレーナの対面にある船から魔法が放たれる。触手を全部俺とラウレーナに使っていたため、それはクラーケンの頭に当たる。


「オォォォォォォォォ!!!」


クラーケンから悲鳴のような低い雄叫びが発せられた。高い知能が仇となって魔法の警戒が薄くなっていた。それをギルド長は感じ取ったのかもしれない。

俺とラウレーナが近くにいることも考慮してか、全体の攻撃よりは少ない魔法だったが、防御力も触手よりも低いのか、確実にダメージがあったようだ。


『第2射放て!』


ギルド長は続けて次も放させようとする。クラーケンはそれを防ぐために慌てて攻撃してきた船の方を向き、触手もそこからの魔法を防ごうと集中させる。

慌ててるせいか、さっきまでその触手で何をしていたのか忘れたのか?


「「はあっ!!」」


「オォォォ……」


俺とラウレーナは同時にクラーケンの頭に攻撃をする。俺はその時に闇身体強化を使い、魔法で傷が付いているところを狙ってさらに大きな傷を付ける。

正直、ラウレーナの攻撃のダメージが低い気がする。もしかすると、打撃に強いのかもしれないな。



「やっば…!」


「わあっ!?」


俺は闇身体強化を雷身体強化に急いで切り替えると、続けて攻撃しようとしているラウレーナの腹を左手で抱え込むと全力でクラーケンから離れる。その間にクラーケンは触手を海の中で真っ直ぐ伸ばす。もし触手が全て無事なら上から見た時には綺麗な円の形になっていただろう。


ボンッ!!ボンッ!!ボンッ!!


クラーケンはついに広範囲に水の巨大な弾を放って俺らや船を潰しにかかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る