第218話 仲間の存在

『引け!攻撃開始!』


俺がクラーケンの傍に近付く頃には再びクラーケンへの魔法攻撃が開始された。


「ちっ」


しかし、俺はそれを見て舌打ちをする。もちろん、これは魔法攻撃している者に対してでは無い。

頭を触手で隠しながら海の中に戻ったクラーケンに対してだ。


「これじゃあ、ほとんど効いてないな」


ただでさえ海の中では魔法の勢いが弱くなるのに、クラーケンは海の中でも律儀に頭を触手で隠している。この様子を見るとクラーケンの頭に全くダメージは無いな。

そして、クラーケンが海の中にいることで、さっき俺がやった魔法攻撃に紛れた不意打ちもできない。



「ん?」


魔法が止んでからしばらくして海から再び出てきたクラーケンを見て俺は違和感を覚えた。しかし、その違和感の正体までは分からない。

その違和感が何か分かるまでは俺は囮の役割を全うするだけで攻めにはいかなかった。ラウレーナにも何か違和感があるとは伝えたので、ラウレーナも囮だけをやっていた。

その違和感の正体が分かったのはそれからさらに3回の魔法攻撃が行われた後だった。




「魔法の傷がほとんどない!?」


俺の違和感の正体は触手に魔法攻撃の傷が残っていないことだった。最初の魔法攻撃で付けたはずの傷がほとんどなくなっていた。

慌てて切断した触手を見るが、それはそのままで治ってはなかった。ただ、少し傷が塞がっているようには見える。


「再生ではなくて、高速の自然治癒なのか?」


切れた触手は再生していないことから、クラーケンに再生能力があるのではなく、治癒能力が高いだけだろう。



「どうする…?」


クラーケンの治癒能力の高さに気付く前なら、海中の中でも少しは触手にダメージがあったので、魔法を撃ち続ければいつかは触手が突破できると思っていた。しかし、傷が治っているところを見るに、与える傷と回復する傷では回復する方が早い。


「まずはギルド長にこの事実を伝えるか…?」


傷の治りの早さは特に近くでクラーケンを見ている俺だから気付いたことだ。船の上で遠くから見ているギルド長は絶対に気付いてないし、気付けないだろう。

普通なら気付いた時点ですぐギルド長へ伝えに行って判断を仰ぐのが正しい。だが、俺の足はギルド長の方へは動かない。それには理由がある。



「俺が雷魔法を使えば…」


クラーケンの回復が追いついてしまうのは水の中で魔法の威力が弱まってしまうからだ。だが、俺の雷魔法は海の中でも威力は弱まらない。むしろ、全身に雷が広がるから攻撃範囲が増えてると言ってもいい。俺が雷魔法を使えば回復を追い付かせないことも可能だろう。

また、不幸にも魔法攻撃野の中に雷魔法を使う者はいない。漁に参加するという点にでは広範囲に影響がある雷魔法はダメなのだろうな。


「くそっ!」


両親には命の危機なら遠慮なく魔法を使えと言われていたし、俺もそれには賛同している。

ところで、今が命の危機かと言われたら違うだろう。クラーケンにダメージを与えられないからピンチではあるが、別に逃げれるのだから命の危機なら逃げればいい。


「どうすれば……」


「ヌルヴィス!僕だけじゃ忙しい!違和感が分かったなら早く教えてよ!1人でじっくり考えてないで、僕にも相談して!」


「あっ…そっか…分かった!」


考え事に夢中で囮をほとんどラウレーナ1人に任せてしまっていた。

そして、今の俺はパーティを組んでいるのだった。別に俺一人で全部決めて全部しないといけないわけではないんだ。


「クラーケンの傷が治ってる!」


「嘘!?あっ!ほんとだ!誰かさんは全然教えてくれないし、僕自身は誰かさんが囮をしなかったせいで忙しくて気付かなかったよ」


ラウレーナと囮をしながら気付いたことをラウレーナに伝える。その際、軽く毒を吐かれたが、このくらいは甘んじて受けるしかない。



『引け!………攻撃開始!』


「だから雷魔法を使うしか……」


ちょうどよく魔法攻撃が開始されたので、ラウレーナを俺の盾に乗せて空中で会話を続ける。


「別に魔法使わなくても僕らがその分クラーケンに傷を付ければ良くない?」


「あっ」


魔法を使うことに囚われていて簡単な事に気づかなかった。


「それに魔法なんて目立つもの以外にもヌルヴィスには魔力を使うスキルがあるでしょ?それでどうにかならないの?」


「あっ!闇付与!」


わざわざ雷魔法にこだわる必要なんてなかった。俺の闇魔法を付与した武器で付けた傷は当分治らなくなる。魔法によって傷が付いた場所に俺が上から闇魔法の付与した大鎌で少しでも傷を付ければいいんだ。


「ほら、相談したら解決策なんてすぐに出てきたでしょ?」


「ごめんなさい」


俺は素直にラウレーナに謝る。最初からラウレーナに相談していれば無駄に時間を使うこともなかった。


「じゃあ、許す代わりにこの盾を少しでいいから適度にクラーケンまで配置してよ。さっきから船から飛び出す度に海に落ちないようにするのが大変でね。便利そうだから僕も使いたい」


「まあ、それくらいなら」


俺達は一旦船に戻って、50枚の盾を作って20枚弱ほどをクラーケンまでに適度に配置した。配置した盾をこまめに動かさなくていいのならこの作業はそこまで苦ではなかった。

ただ、クラーケンの傍はまだ魔法があるから後でだ。


『魔法攻撃止め!』


なんてことをしていたら魔法攻撃が終わった。


「よし、行くよ!」


「おう!」


魔法攻撃が止まったことでクラーケンが海から出てきたので、俺達もクラーケンへと向かっていく。ただ、足場を温存したいラウレーナは船に乗ってクラーケンの方へ行っていた。

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