第217話 勝機

「あ、おかえり」


「ただいま」


クラーケンに魔法が放たれている間に俺は1度船に戻ってきた。

即席かつ大人数の討伐隊ということで魔法のタイミングが完璧に同時というわけでは無い。連続して何度も5隻の船から魔法が放たれている。



「この攻撃が終わったらどうする?」


「もう一度クラーケンのとこまで行ってくる」


ラウレーナの質問に俺はそう即答する。

また、盾が残り10枚弱と心もとないが、今ある盾に追加で盾を増やすことはできない。増やすためには1度作った残りのやつを全て破棄しないといけない。


「守れ、シールド」


だが、俺は遠慮せずに新しく盾を30枚作り、前に作っていた10枚を無駄にした。その直後に俺はギルドから貰った闘力ポーションを飲み、闘力を回復させる。


『攻撃止め!』


「ふっ!」


俺はギルド長の魔法攻撃の止める合図で再びクラーケンへと迫る。合図の後も少し魔法が続いているが、気にしない。そんなことよりもやるべきことがある。


「やったか!」

「どうだ!大ダメージになったぞ!」

「もう倒せたんじゃないか!」


魔法を放った船の上の奴らが何か盛り上がっているが、それはまだ早い。


「なっ!?」

「嘘だろ!?」


魔法が止まり、クラーケンの姿が見えると、船の上から驚きの声と共に落胆するのが伝わってくる。

なぜなら、クラーケンは自分の触手で頭を完全隠していたからだ。触手にはダメージはそれなりに見られるが、頭は無傷だ。ちなみに、俺は触手でガードするのを上からだからよく見えていた。


「ここだ」


俺は魔法攻撃中に1番魔法が強い船を探っていた。その際、1隻だけ他よりも強い魔法を複数放っていた。きっとこの船には魔法使いが複数いるBランクパーティがいたのだろう。俺はその船の方向からクラーケンに近付く。すると、1本の触手に大きな切れ込みができていた。


「らあっ!!」


俺は闇身体強化と雷付与をしてその傷口を大鎌で斬る。

触手で頭を覆ってガードしていることの弱点は、視界も塞いでいることだ。そのため、魔法攻撃が終わったのも、俺が近寄ったのも気付けない!


「オアアアアァァァァァァァァ!!!」


俺に触手を切断されたクラーケンが悲鳴のような叫びをする。切断された触手は他の触手と比べて半分程の長さになった。

また、切断してから闇身体強化と雷付与は解除する。


「っ!?」


触手を斬られたクラーケンは触手を全て海につける。そして、遮るものが無くなった巨大な眼球で俺の方を凝視してくる。今のクラーケンの近くにいるのがどれだけ危険なのかは危険感知なんてなくても分かる。俺は急いでクラーケンから離れる。



「オォォ!!」


クラーケンは再び触手を海から出すと、俺の方に向かって全て振ってくる。振られた触手にはぎりぎり当たらないところまで下がったのに危険感知の反応が止まらない。


「あっ…」


危険感知の反応が止まらない理由はすぐにわかった。触手が振られた勢いを使い、吸盤に溜め込んだ海水の弾が高速で放たれたのだ。一つ一つが手のひら程のサイズの海水の弾が豪雨の時のように密集して俺に向かってくる。避けれるわけのないそれに俺は氷魔装をして大鎌でできる限り防ぐくらいしか対策ができなかった。


べキべキッ…!


「がはっ…」


胸と腹に海水の弾を食らった俺は上空に吹っ飛ぶ。クラーケンよりも上にいたことで海に落ちることは防げた。


「わあっ!」

「船が!?」

「大丈夫だ!浸水はしてない!」


俺の後ろにいた船も今の攻撃に当たったようで騒いでいる声が聞こえるが、俺はそれどころでは無い。吹っ飛びながらも急いでマジックポーチからこれまたギルドから持った中級ポーションを取り出す。


「んぐっ…」


ポーションを飲むことで痛みが消えた。痛みや当たった時の音と的にも骨は確実に折れていたな。氷魔装がなかったらもっと酷くなったかもな。


「よしっ!」


ダメージも回復し、吹っ飛ばされた勢いも収まってきたので、俺は盾を蹴って再びクラーケンの方へと向かう。

また、下を向いて分かったが、クラーケンの追撃が無かったのはラウレーナがクラーケンに攻撃しているからだった。



「いけるかもな」


今の様子を見て俺はクラーケンに勝てるかもしれないと感じていた。その根拠の1つがクラーケンの8本の触手のうち、1本を切断できたことだ。単純計算にはなるが、攻撃にしても防御にしても手数が1/8が無くなったのは大きい。また、魔法攻撃が触手にではあるがクラーケンにしっかり効いていたのもその根拠の1つだ。

そして、何よりもクラーケンがさっき触手を1本犠牲にしてまで必死に守ったことで頭が弱点だと判明した。

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