第215話 勝算

「これが今回の報酬となります」


囮の話をした後に俺達は受付に移動して今回の報酬を貰い、宿に帰った。受付で報酬を貰った後にまだギルドに残っていた者が話を聞きたがっていたけど、疲れたという理由で何も話さず帰った。さすがに無謀とも言える依頼をやり遂げた俺達を引き留めてまで話を聞こうとする者はいなかった。



「あーあ、ラウレーナのせいで囮になっちゃったよ」


「決めたのはヌルヴィスだよ?」


まあ、確かに提案したのがラウレーナってだけで囮をやると決めたのは俺なんだけどさ。



「それよりもクラーケンには勝てると思う?」


ラウレーナは真剣にそう聞いてくる。その問いに答えられるのはクラーケンをこの目で見て相対した俺しかいない。

俺はちょっと考えてから答えを出す。



「少し厳しいかもな」


「そう考える理由は?」


俺の遠慮無い発言にラウレーナが理由を尋ねる。俺はそう考える根拠を話していく。


「あのクラーケンの攻撃があれだけとは思えない。他の攻撃次第では船は壊され、討伐隊は壊滅的な被害が出る」


これが俺の懸念点の1つだ。空中にいる俺にしたあの2つの攻撃だけがクラーケンの全ての攻撃なはずはないだろう。その他の攻撃が広範囲だとしたら討伐は一気に厳しくなる。


「それと、クラーケンにダメージは与えられるのかっていう問題だ。いや、そもそも有効な魔法を使える奴がいるのかって問題もあるか」


俺から攻撃していないので、クラーケンの防御力が分からない。それが高ければ弱い魔法攻撃ではそもそもダメージすら与えられない。

また、火魔法と水魔法は高威力でない限りクラーケンに効くとは思えない。だって、海から出て濡れているクラーケンには火魔法の威力は半減するし、海の中にいるのだから水魔法には耐性があると思う。

ちなみに、この街にいる冒険者はBランクが数パーティいるだけでAランクは1人も居ない。そもそも冒険者のレベルは高いとは言えない。



「何より、追い詰められたらクラーケンは一旦海に逃げればいい。そうすれば誰もそれ以上手出しはできない。そして、傷が治ったらまた来ればいい」


1番の問題がこれだ。クラーケンが海深くに潜ったら俺達は手出しができない。

そうなれば討伐は失敗で、再びクラーケンが出るのに怯える日々がやってくるだけだ。



「それならどうするの?」


「え?どうするって?」


俺の話を全て聞いたラウレーナは当たり前のように俺へ問いかける。

俺が聞き返すと、今度はニヤニヤしながら再び問いかける。


「無理と思っているならそもそも討伐に参加しないよね?それなのに1番危険な囮をやるってことは何か勝てる理由もあるんでしょ?」


「はあ…ラウレーナには敵わないな」


俺の性格をよく分かられている。ラウレーナの言った通り、勝算がなければ俺は討伐に参加はしなかっただろう。


「それで?」


ラウレーナが再度聞いてくる。俺は正直に勝てる作戦を話す。


「俺とラウレーナでクラーケンを攻撃すればいいんだよ」


「?あーっ!そっか!」


俺の言葉に最初はきょとんとしていたラウレーナだったが、意味が理解できたのか大きく頷いた。


「なるほど、囮の場所なら僕とヌルヴィスだけはクラーケンに直接物理で攻撃できる」


「そういうことだ。船の上のラウレーナには少し大変かもしれないけどな」


囮はクラーケンに接近して気を引くのが役割だ。つまり、クラーケンの頭?に近付いて直接攻撃する機会はあるだろうし、俺達を捕まえようと触手を伸ばしてくることもあるだろう。


「僕は囮だけだとやり甲斐が少し足りないと思ってたからそれは嬉しい提案だよ」


「ラウレーナならそう言うと思ったよ」


囮は危ない役割だが、やることは逃げるだけで少し割に合わない。逃げ回るだけは退屈だしな。

だが、囮の振りをしてクラーケンに大ダメージを与えるというミッションはとてもわくわくする。


「でも攻撃するなんて危険が増すから普通はやりたがらないぞ?」


「囮を選ぶ時点で普通じゃないよ。それにそんな普通のことを考える人は道場を飛び出して冒険者にならないよ」


「それもそうだな」


俺達が普通の人程度でも安全志向ならこの街には来てはいない。ずっと獣人国に留まっていただろう。


「討伐の時はお互いフォローし合って頑張ろうぜ」


「うん!」


俺とラウレーナはそう言って拳を合わせる。攻撃する以上、俺らも隙は出てしまう。その時はお互いにフォローし合った方がいい。

次の日は討伐に向けて軽く準備を整えた。

そして、明後日の夕方に討伐隊のメンバーやポジションが発表され、明明後日の朝方から討伐隊が港に集まった。

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