第214話 討伐時の場所

「お、おい!無事に帰ってきたぞ!」

「依頼はできたのか!?」


「はあ…バカはどこにでもいるんだな」


「はははっ…」


船から降りた俺達の周りを囲んでまだ港に残っていた野次馬が騒ぎ立てる。もし、あの魔物がここまで追ってきたら間違いなくこいつらは死んでいる。


「おい!どうなんだよ!」


「ギルドに行けばわかるだろ」


「それもそうだ!ギルドに行くぞ!」


野次馬共は俺の言葉でギルドへ走って向かう。

普通に考えたらギルドに行くよりも俺達に聞く方が早いと思うのだが、ここに残っているくらいだから頭が悪いのだろう。それなのにまだ生きているのは悪運は強いのかもな。


「僕達もギルドに行こうか」


「そうだな」


俺達もギルドに向かう。ただ、さっきのバカ共と違ってわざわざ走ることはしない。



「「あっ」」


ギルドの建物が見えてきたと同時にギルド前に立つ人達が見える。特に1人だけ体格が大きく目立っている。あれはギルド長だな。


「よく生きて帰ったぞ!!」


「おおっ?!」

「わっ?!」


ギルド長はその巨体とは思えないスピードでタックルするように向かってきた。俺とラウレーナは左右にそれぞれ別れて避ける。


「抱擁を避けるなよ」


「それは抱擁とは呼ばない。せっかく無傷で帰ってきたのにここで怪我はしたくないわ」


「僕もそれはちょっと遠慮したいな…」


抱擁を避けられたことに少し不満そうなギルド長だったが、今度はゆっくり俺達に近寄ってくる。ギルド長は俺とラウレーナの目の前に経つと、俺達の肩に手を置く。


「よく無事で帰ってきた。そして、お前達のおかげで魔物の正体がわかったぞ」


「何!?」

「嘘!?」


あんな魔物のことを知っているという口調に俺とラウレーナは驚く。ちなみに、ラウレーナは帰りの船の上で魔物の姿や特徴などは俺から聞いている。


また、それについての詳しい話はギルド内にあるギルド長の自室で行われた。そこにはギルド長とその秘書と思われる男と俺とラウレーナの4人しかいない。



「あれはクラーケンと呼ばれるランク不明の魔物の突然変異か成体だと思われる。昔から大体10年周期で5m程の似たような姿の魔物は何度も目撃されていた」


「クラーケン…」


何でも、漁を始めた時から10年に1度くらいであれと似た姿の魔物は発見されていたそうだ。その魔物のことをクラーケンと呼んでいたらしい。

その時も今ほどでは無いにしても少し漁獲量は減っていたそうだ。ただ、見た目の気持ち悪さや船への実害が無かったことから無視していたそうだ。幸い、放置していても10日程で勝手に姿は消え、漁獲量も戻っていたらしい。


「どういう原理であの100m程のサイズになったかは知らんが、とりあえず仮にあの魔物をクラーケンとした。そして、ギルドではあの魔物をAランクと仮定している」


「まあ、妥当か」


戦ってはないので、実際の強さが分からないからAランクは高いとも低いとも言えない。ただ、あの巨体からそのくらいが相応しい気がする。


「それと、上から撮ったと思われる物が多いのだが、状況を教えてくれないか?」


「分かった」


俺はどうやって撮ったのかや、その時の状況、クラーケンの攻撃方法まで説明した。

ただ、魔法を使って誘き寄せたとは言えないので、海の上すれすれを移動していたことにする。



「なるほど……動きはそこまで速くないんだな。それなら船の上から一斉に魔法を放つのが1番か…?いや、でも……」


俺の説明が終えると、ギルド長はどうやってクラーケンを倒すか考え始めた。


「船はそんなに用意できるのか?」


ギルドの者を乗せるには俺達がさっき乗った船では明らかに大きさが足りていない。


「漁船を使うから大丈夫だ」


「「え!?」」


全く知らなかったが、海に脅威が来た時、それを冒険者が対処する時にはそれ相応の金額を払う代わりに漁船を出して貰うとギルドに依頼を出す漁師達とは契約していたらしい。また、その時には漁師達に船の操縦をしてもらうそうだ。


「…作戦を決めるのはまだ時間がかかるから今日は帰っていいぞ。今日は本当にありがとうな。報酬は受付で貰ってくれ」


「分かった」

「うん」


俺とラウレーナはその言葉に甘えてギルド長の自室から出ようとする。


「おっと、先に2人が討伐でどこに着くか聞いておくぞ。できれば港組でなく、後方でも船には乗って欲しいってのが俺の本音だ」


「あーー…」


そこで俺はどこに着くかを考えてみる。まず、魔法でダメージを与えられないなら俺とラウレーナは魔法部隊には入れない。そうなると、そもそも自然と船に乗る場合は後方になるしかないのか?


「さっきの魔法を一斉に放つ作戦を決めきれないのは魔物を討伐するまでに何隻かクラーケンによって犠牲になるからと考えてる?」


「よ、よく分かったな」


俺がどうしようか考えていると、ラウレーナがギルド長に質問した。


「もし、そこで魔物の傍で速い船や魔物の上をうろちょろする者が囮をしたら?」


「それなら魔法一斉放出がかなり現実的になるが…まさか!」


そこでギルド長とラウレーナは俺の方を見る。

ラウレーナは後方支援以外にもやれるところがあると俺に伝えたかったのだろう。とはいえ、後方支援の代わりが魔物の真上での囮とは随分危険な役割を勧めてくるもんだ。まあ、さっきの依頼はほとんど俺がやったようなもので、ラウレーナは不完全燃焼なのかもな。


「俺達、「不撓不屈の魂」がその囮をやるぜ」

「うん、任せて!」


ある程度自由に空を移動できる俺と、高速な船の上でもバランスを崩さないラウレーナ。その囮の役割は「不撓不屈の魂」に合っている。いや、俺達にこそ相応しいと言える。

実際、俺達が囮をしてその間に魔法を使ってクラーケンにダメージを与えてもらうのが1番の勝ち筋だろう。

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