第212話 俺のやり方
「この船に乗ってくれ」
「おお?」
「思ってたよりも…」
それからすぐに港にある今回貸してくれる船に案内される。貸されるのが小舟と言われていたから手で漕ぐようなボートのようなものを想像していた。しかし、実際に渡された船は最近依頼を受けていた漁船よりも3周りほど大きい。さらに、漁用では無いのか、そのサイズには似合わない大きな帆が付いている。
また、周りには装甲も少し付いていて、Eランクの魚がぶつかったくらいでは沈没する心配は無さそうだ。
「帆にこの風の出る魔導具を当てればスピードを上げることができるぞ」
「ありがと」
ラウレーナが風の出る魔導具を受け取る。この魔導具によって船を速く動かすことができるらしい。また、この船には後前が無く、風の当て方次第で前にも後ろにも進むことができる。
「そして、これが魔物の姿を撮る魔導具だ」
「これがか…」
形状的は手の平サイズの球体にボタンが付いたものだった。使い方もボタンの反対側を撮りたい方に向けてボタンを押せばいいだけらしい。ただ、ボタンを押してから撮影が終わるまで5秒ほどかかるそうだ。それまではできるだけ動いていけない。
「もし何か起きたら危ないから全員ギルドに戻ってくれ。俺達を追って魔物が来るかもしれないからな」
「ああ…分かった」
俺は船に乗りながらギルド長や野次馬達にそう話す。さすがにそう話されたら野次馬もよっぽど馬鹿な奴以外はギルドに戻るはずだ。
「頼んだぞ」
「行ってくる」
「任せてよ!」
船の固定を外し、俺とラウレーナは船に乗って海に進んで行った。
「船の操縦は僕がやった方がいいよね?」
「そうしてくれたら助かる」
ラウレーナは俺がこの依頼をどうやるつもりか察しているのか、そう申し出てくれる。
「じゃあ、魔導具に慣れるために魔導具をちょっと使ってくね」
「おう」
ラウレーナは魔導具を使って船を勢いよく進めていく。最初は慣れなく船の先頭の方が浮くこともあったが、5分後には船も安定してきた。
「この辺で止まってくれ」
「うん」
いつもの漁のポイントより少し前で船を止めてもらう。普段ならこんなところで止まったら魚やサハギンなどの魔物がかなり来るが、今は全く来ない。
「もしここにその魔物が来たら合図をして逃げてくれ」
「分かったよ」
合図は前から決めている上空に目立つ魔法を放つことだ。まあ、この場所ならその魔物も来ないとは思うけど、万が一の時のための取り決めだ。
「守れ、シールド」
俺は詠唱をし、自分の周りに数十個のシールドを出す。それだけで俺の闘力の3割以上は無くなった。
それから身体強化と雷身体強化、闘装、魔装などできる限りの強化を行う。
「じゃあ、行ってくる」
「無茶だけはしないようにね」
「分かった」
俺はラウレーナに向けてサムズアップをして船から空に跳ぶと、盾を蹴ってより奥へと移動し始める。
俺はこの空中での移動ができるので、他の誰よりも安全に魔物の撮影ができるのだ。
「それにしても船が全く居ないな」
もう大体の者の漁を行う時間が過ぎているのもあるけど、昼過ぎから開始する者もいるだろう。ただ、さすがに2日連続で船が沈没したら漁をする数も無くなるか。
「さて、この辺でいいか」
いつもの漁のポイント付近の海から30mほど上空で俺は立ち止まる。この依頼においての空中での移動のデメリットは、魔物が姿を見せてくれないことだ。今までの傾向からして船でその魔物がいる場所を通らなければ何も起こらない。
ただ、それはこっちから何のアクションもしない場合だ。
「轟け!」
俺は空中から詠唱を開始する。周りには船は全く無いし、念の為港にいたギルド長なども帰した。だから遠慮する必要は無い。
「サンダーバーン!」
俺は海に広範囲の雷魔法を落とす。それが海に落ちると、ボンッ!と小さく爆発するような音が聞こえて一瞬海の中が照らされる。
「おいおい…早速当たりかよ…」
そこで何も起きなかったら移動して同じことをするつもりだった。
しかし、海からは長く太い触手のようなものが何本も伸びてきた。
「これで撮っても意味ないよな…」
今の状況でも海に何らかの魔物がいるのは分かる。だが、まだ肝心の本体が全く見えていない。
「轟け!サンダーバーン!」
俺は本体の姿を捉えるため、さらにもう一度魔法を海に放つ。
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