第211話 招集

ガヤガヤガヤ……



パーティ名を決めた翌日に1つの漁船が沈没し、街は大騒ぎになった。ただ、その事態を俺とラウレーナは想定していたこともあり、そこまで驚かなかった。

だが、街ではやれ、海から攻撃されたとか、海から何かが飛び出してきたとか、何かによって海に飲み込まれたとか突拍子の無い噂は広がっている。その噂の中には事故でという話はひとつもなかった。これはきっと海の様子がおかしいという話が元々広がっていたからだろう。

また、ついに今日から魚料理が宿で提供されないと説明があった。



ガヤガヤガヤ……


「静かにしろ!」


漁船沈没に関する話し声で騒がしくなっているところをスキンヘッドで大男のギルド長が一喝する。

今、俺達を含む低ランク以外の冒険者がギルドへ昼頃に強制的に呼ばれた。


「お前達も聞いていると思うが、船が1つ沈没した。これを冒険者ギルドでは魔物の仕業だと考えている」


静かになったところでギルド長の大男がそう言う。大きな漁船を沈没させられるほどの魔物…誰かが息を飲む音が聞こえてくる。


「これにより、ほぼ全ての漁船が漁を中止した。このままではこの街は一生漁ができなくなる。そうなったらこの街はおしまいだ」


この街の経済は漁によって捕られる魚によって成り立っている。それが無くなれば冗談抜きでこの街は衰退していく。


「我々はその魔物をこの街の冒険者達で討伐する。すまんが、冒険者はもうこの街からしばらくは出られないと思ってくれ」


街存続の危機になったら冒険者はそのような処置になることは知らされている。だから粗暴な冒険者でも街で邪険にされないというところもあるしな。それは冒険者も納得しているからそのことに対する文句はほぼ出なかった。



「…そこで、この中の誰かにその魔物の正体を探ってもらいたいと思ってる」


「「「はあ!?」」」


ただ、ギルド長のその言葉を聞いた瞬間から冒険者達の文句の応酬が始まった。

それもそうだろう。だって漁船を沈没させる魔物の近くに何の対策もせずに行って生きられるわけが無い。要するにこれは死にに行けと言ってるようなものだ。

ギルド長もそれは納得しているのか、静かになるまでただ文句を聞いていた。


「…小舟はギルドで用意する。依頼内容はこの魔導具で魔物を撮影してくることだ。撮影した物は対の魔導具でギルドに自動に送られる」


静かになったところでギルド長は詳しい依頼内容の説明をする。

しかし、ちゃんと撮影した後に死んでもいいようになってるな。


「報酬はギルドランクのポイントの大幅な加点と大金貨5枚に、その魔物の討伐時で好きな場所に付ける権利を与える。もちろん、特権で不参加でもいい」


そして、次に報酬の話をギルド長がする。討伐時で好きな場所というと、比較的安全な後方支援をしてもいいということだ。後ろの安全な場所では報酬は前衛と比べて少なくはなるが、強制の緊急依頼だから報酬自体はそれなりに貰えるだろう。

また、それ以外の報酬ももちろん凄い。大金貨5枚は調査依頼にしては破格過ぎる。討伐以来でもこの1/5も出ない。また、ギルドランクのポイントの加点なんて普段ギルドからは絶対に言われもしない。


どうせ討伐隊が組まれるのだから、より報酬が良く、先に安全を確保するために受けてもいいかもと何人かは思ったはずだ。


「…生きて帰って来れなかったらその報酬意味ないだろ」


しかし、それは誰かがこうボソッと呟くまでだ。結局、どんなに報酬が良かろうと生きて帰られなければ無駄になる。それを悟ってみんな静かになる。


ギルド長もさすがに死にに行くような依頼を強制できないのか、再び少し静かになる。だが、討伐隊を組む以上、魔物の情報を知ることは何よりも大事だ。なぜなら、魔物の情報を知らなかったら余計な死者を出すことになるし、最悪の場合は敗北して討伐が失敗する。だからギルド長は依頼の話を無しにするとも言わない。



「その依頼、俺らがやる」


そんな中、俺が手を上げてそう答える。

別に金はどうでもいいが、他の2つの報酬が美味し過ぎる。


「いいよな?」


「もちろん!」


俺の作戦ならほぼこの依頼をやるのは俺になるが、ラウレーナにも危険はあるからラウレーナに確認する。だが、笑顔で頷かれて了承される。


「そ、そうか!受けてくれるのか!本当だな!」


「ああ」


ギルド長は俺の元までやってくれると、声は嬉しそうに、顔はどこか悲しそうに本当か確認してくる。


「ありがとう………すまん…」


そして、感謝と共に謝罪をしてくる。


「何か勘違いしてそうだから言うが、この中で俺らが1番依頼を生きて達成できそうだから受けただけだぞ。ちゃんと撮影をして帰ってくるから報酬を用意しておけよ」


「分かった。ちゃんと皮袋に入れて用意しておく」


何だかギルド長が見ていられなくて俺はそう伝える。別に俺は他の誰かのために自分が犠牲になるために受けた訳では無いしな。



バタンッ!


「今朝漁に行った漁船の1つが行方不明になった!」


ギルドの扉を勢いよく開かれ、誰かがそう報告する。ほとんどの漁師が漁をしないということで、自分だけが漁をしたら儲けると思ったのだろうな。それで帰って来れなかったら意味が無いけど。


「少しでも早くこの問題を解決したい。今から行ってくれるか?」


「分かった」

「いいよ」


こうして、俺とラウレーナで謎の魔物の調査依頼を受けることとなった。

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