第210話 不気味とパーティ名
「おらよっ!」
依頼主が海に針付き魔物を投げる。あの通称爆魚を初めて釣り上げてから30日ほど経ったが、まだ釣りの依頼を受けている。Dランクの魔物ならそれなりの種類が釣れたが、Cランクはまだ爆魚しか釣れていない。
…ただ毎日変わらない日常とはいかなかった。
「やっぱり、食い付きが悪い。いや、悪いどころかそもそも餌に食いつかん」
20日を過ぎたくらいから急に釣れるペースが急激に落ちたのだ。半日釣りをしていても釣れるのは1匹、良くて2匹になった。また、釣れるにしても小さいサイズのDランクの魔物しか釣れていない。
一応漁なので調子の良し悪しはあるそうだが、特に今日は港に戻るタイムリミットに近くなったが、1匹も釣れない。こんなことは長いこと漁をしている依頼主でさえ初めてらしい。
「3日前くらいから網漁の調子も悪いみたいだぞ」
「あ、そうなんだ」
さらに、この釣りよりも浅い場所でやる網漁でも魚が全然かからなくなってしまったらしい。
「何か、海が静かなんだよな」
依頼主は海を覗き込んでそう呟く。そして、何を思ったのか、そのまま頭から海に飛び込んだ。ここは普段釣りをしているポイントなので、もちろん魚の魔物とサハギンは居る。
普段なら……。
「やっぱり魚もサハギンも全然いねぇ!俺が海に入っても全く襲ってこん!」
海から上がって船に乗り込んだ依頼主はそう言う。
「こんなこと初めてだ。冒険者をやっていたお前らは今の状況で何か思い浮かぶか?」
そう言われて俺は考える。そして、すぐに1つのことが思い浮かぶ。
「…森に強い魔物が現れたら他の魔物はそれから逃げるように姿を消す。もし、この現状が海にも当てはまるなら…」
魔物は野生の勘が凄いからか、強い魔物が現れたら姿を消すことはある。そう言った森の異変が起こると遠くないうちに何らかの強い魔物が現れる。
「息子!今すぐ船を帰せ!」
「おっす!」
依頼主がそう指示すると、船は全速力で港へと向かう。
特に何も無く港に到着することはできた。
「急で悪いが、海の異変が収まるまで漁は無期限で中止だ」
「俺もそれがいいと思う」
「僕も」
何かあった時は安全第一で行動するのが良いに決まっている。
それから解散して俺達の依頼は一旦中止となった。
「他の漁の依頼も受けないよね?」
「そうだな」
楽しくないというのもあるが、今の海が不気味過ぎて行こうとは思わない。それは浅瀬であってもだ。
「それなら、ゆっくりパーティ名を考えない?」
「あっ!それがいいな!」
ちょうど時間ができたことだし、宿で後回しにしていたパーティ名を考えることにした。
「…全然決まんないね」
「…そうだな」
パーティ名決めを開始して3日経つが、まだパーティ名は決まっていない。
「候補はできるだけどね」
「あんまりパッとしないよね」
2人のパーティなのでどうせなら2人に当てはまる名前にしたい。だが、俺とラウレーナの共通点といったら特徴的なステータスやスキルが真っ先に浮かんでしまう。それを元にパーティ名を決めてしまうと、隠している物までバレかねないから却下になっている。
「能力じゃなくて性格面で考えた方がいいな」
この3日間で出た結論がこれだ。ただ、これで考えても話し合いの途中で気が付いたら戦闘スタイルの話になっているのだ。
途中で酷く脱線して「絶対殲滅」や「常に鏖殺」など物騒な名前まで候補として浮かんでしまう。性格的には俺とラウレーナに合ってはいるが、さすがに物騒過ぎる…。
そんな中、4日目でラウレーナがある案を出した。
「あ、「
「…いいかも」
ラウレーナ曰く、これは俺達が、「強い意志をもって、どんな苦労や困難にもくじけない精神で生きる」という意味があるそうだ。
これなら俺達2人にも合っているだろう。
「うん!これがいいよ!」
これが思い付いたらこれ以上のは無いと思えるほど良いと思える。
「なら早速ギルドにそう届けを出してこようか」
「そうだね!」
決まってすぐその高揚そのままに俺達はパーティメイを「不撓不屈の魂」にする届けを出してきた。
「パーティ名が決まっちゃったけど、明日からは何しようか?」
「普通の魔物でも狩る?」
パーティ名が決まってしまってやることが無くなった。だから明日からは普通の魔物を狩ることにした。この調子なら次の街や国を目指してもいいかと思った。だが、こんなのんびりしていられなかった。
パーティ名が決まった次の日、1つの漁船が突然沈没したのだ。
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