第208話 漁というよりも狩り

「うおっ!」


水面から大きな口が飛び出してきた。しかも、よりにもよって向かって来ているのは俺の方だ。俺は身体強化と闘装を行い、大鎌を抜く。


「はあっ!」


大鎌を振って魚を攻撃するが、鋭い牙で防がれて斬ることができなかった。それに口には針が刺さっているからここから下手に大鎌を動かすと針や糸も斬ってしまうから大鎌が動かせない。


「あっ、やべ…」


魚の巨体に押されるように俺はだんだん仰け反っていく。狭い船の中では後ろに下がれない。しかし、このまま倒れたら最低でも上半身は海に落ちる。


「ヌルヴィス!」


そんな俺を助けるためにラウレーナが魚を横から殴る。魚の向きが変わったことで魚は再び海に戻る。

ただ、魚が消えても俺の不安定な体勢はどうにもならない。これが陸地ならまだしも魚の激突で大きく揺れる船の上だ。ここから体勢を立て直すのは無理に近い。


「よっ!」


俺は海に落ちるくらいならと、船を蹴ってできるだけ上に跳び上がった。とはいえ、体が仰け反っていたので、どちらかというと後ろのほうに飛んだわけだが、俺の方に大きな魚の魚影が移動している。


「守れ!シールド」


だが、俺は時間稼ぎのために上空に跳んだ訳ではない。俺は足場となる盾を複数作る。これは獣人国の大会でも見せたから使ってもいいだろう。


「ふっ!」


そして、俺は足裏を空に向けると、盾を蹴って急降下する。急降下した先にはあの魚影と背びれが見える。


「やっ!」


「……!!」


背びれが生えている近くの海に大鎌を振ると、魚を斬った感覚が確かにした。また、それと同時に魚は暴れて海から水飛沫が飛ぶ。


「おっとと…」


俺は水面少し上に設置した盾を蹴ることで海に落ちること回避する。そして、そのまま船の方へと行く。


「びっくりしたよ」


「俺もだよ」


海からの突撃だからか、魚のスピードもパワーも凄くて驚いた。


「船には戻らないの?」


「ここの方が戦いやすい」


俺は船の近くに来ても船には乗らない。揺れる狭い船の上よりも、限られた足場しかない空中の方がまだ戦いやすい。


「あっ!」


そんなことをラウレーナと話していると、魚影が依頼主の方に向かった。俺とラウレーナは咄嗟に守ろうと動こうとする。


「俺と息子のことは守らなくていいぞ!」


「え?」


その言葉に戸惑っていると、海からさっきの魚が突撃してくる。魚は海から飛び出すと、大きな口を開いて依頼主に向かっていく。


「ふんっ!」


しかし、依頼主は全く動こうとせず、そのまま魚に噛まれた。


「何をぼーっとしている!今のうちに攻撃だ」


「「え?」」


依頼主は魚に噛まれながら平然と俺達に指示を出してくる。よく見ると、依頼主の上半身の肌の色が濃くした灰色になっており、さらに光沢まである。


後で聞いたのだが、これは鋼化というスキルで防御力を高くするそうだ。その硬さは闘装とは比べ物にならないほどだった。

ただ、そのスキルを使用中はほとんど身体が動かせないらしい。それこそ喋るのが限界と言っていた。しかもこれはスキルレベルが上がっても変わらないそうだ。また、スキルの効果は自身の肉体にしか反映されないらしい。だから上裸で下は普通の長ズボンの軽装なのか。


「りゃあっ!」


依頼主を噛んでいる魚をラウレーナが蹴り上げた。魚は全身が海から出て、宙に浮かぶ。そのサイズは4mはある。


「これで終わりだ!」


そして、宙に浮かんだ魚に俺が向かっていき、宙で頭と胴体を半分ほどまで切断する。頭を落とすつもりだったが、鱗が思ったり硬かった。

魚は空中でビクンビクンと大きく震えながら海に落ちていく。俺は魔法の盾を使ってゆっくり降りる。


バシャン!


魚は大きな水飛沫を上げて海に落ちたが、血を流しながら海に浮かんで泳ぐ様子はない。

ヒヤッとする場面あったけどこれは漁というよりも狩りに近く、かなり楽しかった。


「良くやった!早く船に乗れ!」


「ん?ああ」


俺は依頼主に急かされて魔法の盾から降りて旋回するように動いている船に戻る。


「発進!」


「おおっ…!」


俺が船に乗った瞬間に船は猛スピードで発進する。


「大きい魚の魔物が居なくなったらすぐに普通の魚の魔物が来るから早く出発したんだ」


「なるほどな」


そういえば、網の漁で海の上を散歩した時に見たような小さめの魚は現れなかったが、あの俺達が釣り上げた魚から逃げていたのか。

ちなみに、釣った魚は依頼主が釣糸と一緒にマジックポーチに入れている。


「今日の漁はこれで終わりだ。使い物になるやつが来ると思ってなかったから、1匹だけしか釣る用意がないんだ。これに関してはすまんな。次回ももし参加してくれるってんなら完璧に準備して2、3匹は釣れるようにしておくがどうする?」


そう言われた俺とラウレーナは顔を合わせる。そして、2人揃ってニッと笑ってから依頼主の方を向く。


「「参加する!」」


「そうか!次はもっと大変だから覚悟しておけよ!」


こうして、俺達はやっと自分達が楽しめる依頼を見つけることができた。これから当分はこの依頼を受けることになるだろう

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