第207話 前代未聞な漁
「よし、なら早速漁に行くぞ」
「冒険者がいるから久しぶりに本気の漁ができるな!」
そう言うと、倉庫の奥の方に居た2人は立ち上がって何やら準備をし始めた。
とりあえず、まだ手伝うこともなさそうなのでそれが終わるまで待ち続けた。
「親父!準備終わったぞ!」
「よし!」
準備は意外と早くて10分以下で終わった。また、準備したものもマジックポーチに入れているようで、2人は手ぶらである。ちなみに、2人はずっと上裸だが、それで本当に準備は終わったのか?
また、細マッチョが親父と呼んでいるし、どことなく雰囲気や顔が似ているのでこの2人は親子なのかもな。
「あ、シャッター閉めてくれるか?」
「僕?いいよ」
上裸の2人と共に倉庫からできると、依頼主がラウレーナの方を見てそう言った。ラウレーナはそれに了承すると、3mほどまである仕舞われたシャッターまでジャンプした。
「ん…固いな」
それを下げようと掴んだラウレーナだったが、ほとんど動かなく、シャッターにぶら下がっている状態になった。
「よっ!」
ラウレーナは水身体強化を行って攻撃と防御が主に上げ、一気にシャッターを下まで落とす。
「動きを見た感じで物理職かと思ってたが、まさか闘力ではなく、魔力を使う物理職だったのか」
「そうだよ。ただ、僕は魔攻が無いから魔法の攻撃はできないからね」
ラウレーナが魔力を使ったのを見て2人は少し驚いていた。別にラウレーナのようなステータスは珍しくはあるが、俺のように絶対居ない訳ではない。だからラウレーナは特に隠してなく、人前だろうと平気で魔力を使っている。
しかし、これを闘力と魔力をどちらとも持っているという選択肢は浮かびもしないのな。
「持ち上げるよりも重くしてるのにすんなり下ろすとはな。ラウレーナだったか、お前のランクはDだったが、これなら全く問題ないな。船に案内するぜ」
依頼主はどうやらシャッターの開け閉めでやって依頼を受けた者の強さを計っているようだ。
もし、魔法職だけが来たらどうするんだ?力で開け閉めはできないだろうし、魔法でシャッターでも壊させるのか?
「これが俺の船だ」
依頼主の後ろを着いて行くと、港の端っこまで来てやっと船の場所に着いた。
「え?」
「これなの?」
「何だ?不満か?」
依頼主の船とやらは他の船と違って装甲は金属が使われているようで、木の船よりもかなり丈夫そうである。
「大きさが…」
「帆も無いし…」
肝心の船の大きさだが、長さは5mほどで横幅は2mもないくらいだ。しかも、船を進めるために必要となる帆も存在しない。
「俺の漁は常に動き続けるからサハギンが来る心配は無い」
海の上で停泊したらサハギンが船に乗り込めるくらいの高さしかないからそれなら良かった。
「そして、俺の船は魔導具で進むから帆も必要無い!」
「それは凄い…」
獣人国での出来事で魔導具に対する印象は悪いが、本来魔導具とはかなり便利なものであると実感した。
「さあ、乗り込め」
依頼主に言われて俺達は船に乗り込む。依頼主が船の先頭に立ち、俺とラウレーナがその後ろに乗り、最後尾に息子という並びだ。息子は船の後ろに魔導具らしきものを船に装着している。
「発進するぞ!」
「うおっ!?」
「わっ!?」
息子が魔導具らしき物をつけ終わると、船を発進させた。ただ、急に猛スピードになったことで俺とラウレーナは驚くと共に少しよろけてしまった。
「今ので船から落ちないなら安心だ。大体は今ので船から落ちるからな」
依頼主のそのセリフに俺とラウレーナは依頼主を軽く睨む。まだサハギンや魚の魔物がほとんど居ないからってこんなところで海に落とすつもりだったのかよ。
「さて、ここから先は魔物共がいるから海には落ちないようにな!落ちたらできる限り助けるが、その頃には魚に齧られてるぞ」
そんな不安な事を言われながらも、船はどんどんと進んでいき、10分ほどで釣りをする場所に着いた。
「よし、これを投げる」
「え?それ何?」
依頼主がマジックポーチから腕くらいの太さの紐?を取り出し始める。
「これは魚を釣るための糸だぞ」
「糸!?」
糸と言える太さではない。だが、この程度で困惑は終わらない。
「え!?魔物!?」
「これは餌だ」
しばらく出していた糸に終わりが来たのだが、その終わりにはウルフ系の魔物が丸々1匹針に刺さっていた。その針のサイズはちょうど左肩から、右腕を真横に伸ばし、肘と手首を90度少し曲げた時と同じくらいだ。針のサイズも通常と比べ物ならないくらい大きい。
「これを投げるっ!!」
糸の終わりを身体に巻き付けると、依頼主は魔物の刺さった針を海に投げる。投げた魔物付き針は綺麗な放物線を描くと、大きな水飛沫を上げて海に落ちた。…海の深くまで落とすのに重さが必要なのは分かるが、あれは何キロあるんだ?
「おおっ!!」
投げ入れて少しすると、一気に糸が海に吸い込まれ、依頼主も体を海に引っ張られる。依頼主はそれを踏ん張って堪えるが、船ごと動かされる。
「ふんっ!」
依頼主が手に取った球体の何かを糸に当てるとバチッ!と音と共に小さい稲妻が見えた。
「今、魔導具で糸を通して魔物に雷を与えた。これで餌を食った魔物は攻撃されたことを自覚しただろう。攻撃された魔物が取る行動は分かるよな?」
「まさか…」
俺が依頼主の方を見ると、さっきまで踏ん張らないと海に落ちそうなほど引っ張られていた糸がもう引っ張られていない。
「俺は万が一にでも逃がさないように糸を持つのに、息子は船が横転しないように操縦するのに忙しい。さて、ここからはお前ら仕事だぞ」
依頼主がそう言ったところで水面に大きな魚影が見えてきた。
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