第206話 当たり

「今日はこの漁の依頼を受けようか」


「もう残り少ないから選択肢はほとんど無いけどね」


この前の漁の依頼が終わってからも3週間経ち、数回別の漁の依頼をこなした。

漁の依頼も種類はそれなりにあり、それは網投げを手伝うものだったり、餌を垂らしてそこに群がる魚を武器や魔法で倒すものだったり様々だ。

しかし、そのどれもいまいち楽しいとは思えなかった。根本的に俺は漁よりも狩りをしたいようだ。

そろそろ依頼の種類も少なくなっており、残り3つといったところだ。もちろん、残り3つ以外の全ての漁の依頼をやったわけでなく、あくまで漁のやり方の種類的な話だ。まあ、わざわざ最後まで残すくらいの依頼だから期待度は薄目だ。特に今日受けたやつ以外の2つのやつは評判も悪く、船を使わず浅い所で手掴みなど漁依然に魚が取れるかも怪しい。だから実質この依頼が最後になるかもしれない。



「えっと…一応の参加資格は満たしていますが、本当にこの依頼で良いのですか?門前払いされるかもしれませんよ?」


「構わない」


俺が出した依頼はCランク以上が条件なので条件は満たしている。ただ、補足事項としてBランク以上推奨とでかでか書いてある。また、募集人数は3名以内と少ない。しかし、金払いは良く、他の以来の3、4倍ほどなのだ。そのため、新参者で参加する者もたまにいるらしいが、どの者も門前払いを食らってしまうらしい。

明らかに少し経路が変わった怪しい依頼である。


「えっと…受理はしましたが、違約金もし払われますので気にしないでくださいね」


「分かった」


受付は俺達も門前払いを食らうと予想しているみたいだな。ちなみに、依頼主の都合で依頼をキャンセルした場合は違約金として元々の予定の1/5の金が貰えるらしい。だからこの依頼はCランクになった者が違約金目当てで受けることもよくあるそうだ。ただ、1度門前払いされた者は2度とこの依頼主からの依頼は受けれないようになっている。



「さて、僕達はどうなるかな?」


ギルドから出ると、ラウレーナが楽しそうにそう聞いてくる。


「門前払いがどんな基準かによるな」


依頼主とやらが門前払いをするのにどんな理由かによって色々変わる。その理由が例えば礼儀だとしたら俺とラウレーナでは門前払いされるかもしれない。


「それがもし強さっていう基準なら?」


「それなら門前払いされんな」


ラウレーナの試すような問に俺は自信満々にそう答える。


「僕もそう思うよ。僕らはBランクになりたてくらいの奴が相手なら負けない」


俺もラウレーナも強さ的にはBランクのベテランには勝てないが、Bランクなりたて以上の実力はある。ただ、依頼を受けたの数や実績、所属年数的にBランクにはまだまだ上がれない。まあ、それもAランクほどの圧倒的実力があれば別なのかもしれないけど。


「でも門前払いするくらいなら何でBランクを条件に募集しないのかな?金額的にはもう少し払えばBランクでも呼べると思うけど」


基本的に参加資格のランク制限が高くなればなるほど雇う金額は高くなる。


「単純に水国にBランクが少ないんだろ。Bランクになる頃には別の国に行くか、もう専門契約をしてるんじゃないか?」


「ああ、なるほど」


基本的に金は欲しいので、安全志向の者以外は自分のランクぎりぎりの依頼を受ける。だが、そもそもこの街にBランク以上を募集する依頼はほとんど無い。それなら別の街や国に行ってしまう者も多いだろう。

また、金のある漁師ならBランクに上がった者に通常の数割増で指名依頼を出し続け、常に受けさせる専門契約みたいなものを結んでいる場合がある。野心がなければ甘んじてそれを受ける者はかなりいる。



「場所はここか?」


「うん…あってるね」


受付に書いてもらった地図で記された場所はいつもの港ではなく、港近くの大きめな倉庫だった。


「誰かいるか!」


俺は頑丈そうなシャッターをガシャンガシャンとノックして問いかける。


「ギルドからの者だな!?開けてるから入ってこい!」


「分かった」


俺は言われた通り中に入ろうとシャッターを下がった持ち上げようとする。


「…ん?重っ…え?本当に開いてんのか?」


しかし、そのシャッターを持ち上げようとしても少しも浮きもしない。指が下に刺さるくらいだ。これ鍵かかってないか?


「遅いぞ!早く入ってこい!」


「ああ!そうかい!」


俺は身体強化を全力でかけてシャッターをこじ開けようと力を入れる。少しムカッとしたのでシャッターを壊すくらいの気持ちでやっているのだが、それでも少し動く程度でなかなか開かない。

鍵がかかってない上に最初だけ重いのではなく、ずっとこの重さかよ


「ふんっ!」


俺は周りに人が居ないのを確認して身体強化のモヤで隠れる弱めの程度の闇身体強化をして一気にシャッターを開ける。俺の身長を超えるくらいまで開けたら投げるように一気に最後まで開け切る。


「凄い!あれを開け切るのは俺でも無理なのに!」


「やっと骨のある冒険者が来たな!久しぶりの当たりだぜ」


倉庫の中には20歳後半ほどの日に焼けた細マッチョと、無精髭を生やして日に焼けた肌をしている太マッチョの中年がいた。


「依頼を説明するぞ!俺の依頼は網なんかを使って小せぇ魚は取らねえ!俺が釣るのは網では届かないくれぇ深くにいる最低でも3m以上の魚だ。お前達にはそこら辺の魚やサハギンだけでなく、釣り上げる魚の相手もしてもらうことになる!普通の漁と違って危険も多いが、それでもやるか?!」


「もちろんだぜ」


「そのために僕らはこの漁の依頼を受けたんだ」


残り少ない中で、やっと俺達は当たりの漁依頼を見つけたかもしれない。

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