第204話 楽しい
「意外と海の中は見えないな」
船の上からでは澄んでいるように見えた海も近くで見ると、深いからか海の中はほとんど見えない。
「っ!」
適当に海の上をうろついていると、突然危険感知が反応する。俺は慌てて仰け反ると、海から飛び出した何かが目の前を猛スピードで通過した。
「闘装!」
その威力は当たれば致命傷になり得るものだったので、慌てて俺は闘装をして防御を上げる。念の為身体強化していたが、それが無かったら避けれなかったな。
「何だったんだ?」
さっきの正体を突き止めるためにさっき上空に飛んだものが落ちてくるのを待った。そいつは空中では動くことはできないのか、普通に落ちてきたから大鎌の上に乗せる。
「え?あの魚か?」
その正体は船の上で俺に向かってきた先端が尖った魚と同じ魚だった。さっきと比べてスピードが速過ぎたから気が付かなかった。やはり、魚は海陸よりも海の方が本領を発揮できるようだ。
「っ!?」
なんて感心していると、似たような反応が海からした。シールドを蹴って横に跳ねると、その魚が十匹以上同時に俺の真下から飛び上がってきた。
「なんだなんだ…」
しかし、危険感知の反応は止まることはなかった。ほぼ無限に反応していると言ってもいい。
「危ねっ!」
今度は海から水の弾丸のようなものが放たれたが、何とか大鎌で防ぐことができた。
一瞬彩化して水魔法が使えるようになった魔物がいるのかと思ったが、その後も色んな場所から何発も放たれたことからきっと水魔法ではなく、海の水を飛ばしているのだろう。
「今度は何だ!」
危険感知の反応に従って後ろに大鎌を振ると、ガキンっ!と硬いものに当たった感触があった。振り返ってみると、俺の大鎌に当たったのは海から飛び出した1mほどの魚の長い胸びれだった。その胸びれをよく見ると、しっかりと刃が付いている。
「おいおい…これは楽しいぞ」
俺が冒険者になりたいと思ったのは両親が冒険者時代の奇想天外ではちゃめちゃな話を楽しそうに話していたからだ。俺も両親のようにそんな体験をいっぱいしたくて冒険者になった
まさかに、そんな体験をしているのが今だ。両親は海には行かなかったようで、こんな話は聞いたことがない。両親でも何が来るか分からない海の上にいた事はないのだ。
やはり、俺は作業のように比較的安全にサハギンを狩るよりも、こうやって危険があってもスリルある未知な体験をしている方がずっと楽しい。
「とはいえだ…」
だからと言って俺は死ぬつもりは無い。今も魚が大量に海から攻撃してきているが、その攻撃の量は少しずつ増え続けている。このままなら最悪シールドを割られて海に落ちる危険もある。それに船からそれなりに離れてしまっているからそろそろ戻らないとラウレーナに怒られそうだ。
「だが、やられっぱなしはムカつくな」
このままでは俺は海の上に来て、魚に翻弄されただけに終わってしまう。それは何か気に食わない。
それに、ここなら誰の目にも入っていない。
「轟け!サンダーボール!」
俺は海に向かって雷魔法を放つ。すると、海からの攻撃の数は激減し、数十匹の魚が水面に浮かんできた。
「網を持ってくればこの魚も持って帰れたのにな」
水面に浮かぶ魚を勿体ないと思いつつも、持って帰ることは難しいので放置することにする。きっと魚やサハギン何かが残さず食べるだろう。それに今は痺れて動けないだけで生きてるのもいるだろう。
あ、そういえば海の上ではサハギンを見なかったな。
「さて、戻るか」
魚からの攻撃も少なくなったので俺は船に戻ろうとする。
ゾクッ……
「っ!!!」
しかし、俺は悪寒を感じ、すぐに振り返って海の中を覗き込む。
「な、何だ…?」
別に危険感知が反応した訳でもない。だが、海から何か背筋が凍るような悪寒を感じた。
俺は冷や汗をかきながら周りを見渡すが、それらしきものは全くない。
「気のせい…か」
俺にそんな何かを感じ取るスキルは無いし、気のせいだったのかもしれない。気のせいじゃないとしてもその正体を探る手段は無い。俺は改めて船へと戻っていく。
だが、海の上を移動中もその一瞬の悪寒が頭から離れない。俺は今の悪寒の感覚と似た感覚はどこかで味わったことがある気がする。
「あ、獣人国でのあれか…」
…そう、似た感覚は獣人国で謎の者が後ろに立った時のやつだ。立っていることすらできなくなったあの時とはかなり違うが、その同系統な感覚だ。
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