第203話 漁依頼の感想
ビチビチビチッ!!
完全に引き上げられた網の中で魚の魔物が暴れている。網の中の魚の魔物のサイズは結構バラバラだが、小さいのでも50cmはあり、大きいのでは2m弱ほどはある。超巨大な魚は網の中に入っていない。
「おいおい、あんまり不用意に近付くなよ」
俺が網の中をより近くで覗き込もうとすると、依頼主に肩を掴まれてそう言われた。
「何匹かは飛び出してくるぞ」
「え?」
依頼主がそう言った瞬間、軽く危険感知が反応する。その危険を回避するために首を傾けると、俺の顔の横に何かが通過してきた。
ぽすっ!
「ほらな」
「なるほどな」
俺の顔の横に通ったのは50cmほどの先端が尖った魚だった。その魚は尾びれで床を叩くと、器用に網の隙間を通って俺の顔を狙ってきたのだ。
ちなみに、俺の顔の横を通り過ぎた魚は船の帆柱に突き刺さった。突き刺さってからは魚はあまり動けないようで、ただぴくぴく動くだけになっている。
「陸に上がったからって魚の魔物を舐めてかかると大怪我するってことか」
「そういうことだ」
魚の入った網が船の上に完全に上げられても乗組員の魔法使いは網の中の魚に魔法を放っている。
「網を解放しろ!」
「「「おう!」」」
網の中の魔物の大部分が魔法によって動かなくなったところで、網が取られる。網が取られるとまた動き出す魚が現れるのでそれをまた魔法で倒していく。
「…こうなった時に逃げようとせずに攻撃しようとするのは魔物って感じだな」
見た目はただの魚に見えるが、陸に上げられても海に帰ろうとはせず、攻撃をしようとするのが魔物らしい。現に今も何匹かは魔法使いに向かっていくが、網を引き上げていた者達に止められている。
全ての魚が動かなくなると、水魔法で溜めた水の中に魚達を入れていく。その時の水魔法で作った水を触らせてもらったが、それなりに冷たかった。どうやら、水魔法はある程度なら温度の調節もできるらしい。
「よし!次行くぞ!」
「「「おう!」」」
どうやら、この作業は1回で終わりではなく、次もあるそうだ。再び帆を張って船は移動していく。
その次も同じように俺とラウレーナが網を投げ入れられたところでサハギンを狩った。
「次で最後だ!気合を入れてくぞ!」
「「「おう!」」」
どうやら、この作業は3回あるそうだ。この船は週2回出港しているそうだが、1回の出港でこんだけの量を取れたら確かに週2でいいな。
「いくらお前らが強くていいからって他のやつも使わんといかんから次は船の後方の守りを任せていいか?」
「ああ、構わないぞ」
「大丈夫だよ」
どうやら、次は忙しい網の投げ入れた場所ではなく、比較的暇になる船の後方の守りを任せるようだ。また、船の中央の人が多くなった分、船の周りも広範囲に守らないといけないが、それも俺達以外の他の冒険者が対応するそうだ。
そのため、俺達は後方の1部だけを守ればよくなる。
「いくぞ!そぉぉれっ!」
「やってるね」
「そうだな」
船の後ろで依頼主達が網を投げ入れた声が聞こえてくる。
「今日の依頼どうだった?」
「新鮮だったけど正直退屈だったな」
船で魔物を狩るのは今までにない新鮮な感覚だった。しかし、どこか作業感があり、2回目からは特に退屈に感じてしまった。
「僕もそうだったよ」
「だよなー」
どうやら、ラウレーナも同じ感想だったらしい。
「これならせっかく取得した闘装とかが必要無いしな」
サハギンは闘装やらが必要なほど強くないし、量もそこまで多くない。このままなら闘装を取得した意味がなくなってしまう。
「あ、サハギンが登ってきたよ」
「あ、ほんとだ」
船がほぼ止まっていることで網だけでなく、船をよじ登ってくるサハギンもいるみたいだ。ただ、その数は網を登るサハギンの量とは比べ物にならないほど少ない。
「…ちょっと海に行って来ていいか?」
「簡単に助けに行けないんだから、危なくなったらちゃんとすぐに戻ってきてね」
「分かった」
俺の今のセリフでラウレーナは俺が何をするつもりなのかを理解したようだ。ラウレーナの許可がおりたので、俺は少し遊んでくる。
「守れ、シールド」
俺は大会の予選の時と同じように薄い小さな盾を数十枚作る。
「よっ」
そして、俺は船から飛び降りた。もちろん、海に浸かる気はない。俺は自分で作った盾を蹴って海のすぐ上を移動していく。
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