第200話 高級宿

「お部屋は1つでよろしいですか?」


「ああ」

「うん」


宿に入ると、軽くこの宿についての説明をされた後、泊まる部屋数を聞かれた。この宿では1つの部屋でも2、3室あるそうなので、一部屋でお願いする。


「では、お部屋までご案内します」


出迎えてくれた女将と呼ばれる者がそう言うと、部屋まで案内してくれる。


「では、ごゆっくりおくつろぎください」


「「おお…」」


女将はそう言って俺達から離れて部屋から出るが、俺とラウレーナは窓から見える景色に目を奪われていた。窓からは海が一望できており、ちょうど夕暮れになりかけで空が赤みがかっており、とても綺麗に見える。


「夕飯は7時に持って来てくれるみたいだし、先にお風呂に入ってきていい?」


「いいぞ」


ラウレーナはそう言うと、部屋に備え付けられているお風呂へ向かった。




「ヌルヴィス!ちょっと独特な匂いがしたけど、凄く気持ちが良かったよ!」


「そうなんだ!じゃあ、俺も入ってくるよ」


ラウレーナは1時間弱程で上がってきて興奮冷めやらぬような状態でそう伝えてきた。

シア父さんの家で風呂に入ってから風呂は好きなので、ここの風呂も楽しみだ。



「あ゛〜〜」


どうやらここの風呂とやらは温泉という元から温められている水を地下から魔導具で引き上げているらしい。だからか、独特な匂いはするが、とても気持ちよく感じる。シア父さんも言っていたが、シア父さんの家の風呂よりもここの温泉の方が何倍も気持ちが良い。

つい夕食の時間を過ぎるまで浸かっていそうになったが、また後ででも入れるということで我慢して風呂から上がる。




「こちら、本日の御夕食になります」


7時になり女将が持ってきてくれた夕食は魚料理がてんこ盛りだった。焼く、煮る、揚げる、蒸す、茹でるの5つの調理がそれぞれされたもので魚料理の全てが味わえるものだった。

また、説明された魚の魔物のランクもどれもDランク以上で1品に関してはCランクだった。説明を終えた女将は部屋から出ていったので、俺達は目の前に出された料理に手を付ける。


「うっま!」

「美味しい!」


川魚の味とは全く違う。まあ、俺らの川魚の調理法が焼いて塩を振るくらいしかしないのもあるかもしれないが、この魚料理は次元が違う。

恐らく、その魚ごとにあった調理法がされているのだろうが、それぞれがマッチしていてとても美味い。



「美味しかった…」

「美味かった…」


お互い無言で食べ続け、30分もすると目の前から料理は消えていた。川魚と違って魚自体のサイズが大きいからか、どの料理にも骨が入っていなくて食べやすかった。


「高いけどここにしてよかったよ。ヌルヴィスも払ってくれてありがとう」


「全然いいよ」


この宿は1泊大銀貨5枚という高価過ぎる値段だが、それ相応のサービスが充実しているから満足だ。金ならかなりあるし、高級宿にしてもらってよかった。


「この調子じゃ駄目になりそうだから明日にでも依頼受けないとね…」


「そうだね…」


ずっとこの宿から出たくない気分になってきたが、それでは体はどんどん訛ってしまう。ここには海の魔物を狩りに来たのだから目的はしっかり果たさないといけない。


「でも話を聞いた通りなら自分達で魚を狩れないのはつまらないよね?」


「そうなんだよなー」


俺達冒険者の役割は船に乗って漁の邪魔をする魔物の討伐で、漁自体に参加することは無い。


「まあ、それも明日依頼を受けてどんな感じかを見てからだね」


「だよな」


そこでもしやることが少なかったり、退屈だったりしたら今後どうするかを考えなければならない可能性も出てくる。


「とりあえず、なんか凄く眠たいからもう寝ない?」


「うん。俺も眠かったから賛成」


ずっと水国を目指して走り続け、着いてからは海で遊んだりもしたからか満腹になってすぐにかなり眠くなった。

俺とラウレーナは部屋にふわふわの布団を2枚敷いて並んで早いけどもう眠った。


今は完全に旅行気分になっている俺達だったが、そんなお気楽気分は後に起こる大事件によりすっかり消えることになる。

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