第194話 俺の答え
「…え?え!?!」
姉弟子がそんなことを言うと思っていなかったから俺はかなり驚く。
「えう?!は!?」
「と、とりあえず、落ち着こうか」
その取り乱し具合は思わず姉弟子が俺を座らせて宥めるくらいだった。それから座りながら先生によって回復されていると、少しずつ落ち着くことができた。
「えっと…まず師範にはならなくていいの?」
一番最初に気になったのはそこだ。姉弟子は両親が成し遂げられなかった師範になるために日々頑張っていたはずだ。俺に付いて来たらそれは叶わなくなる。
「もちろん、現時点では師範にはなりたいと思うよ。でもそれは今すぐじゃなくてもいい。僕の父も母が復帰するまでタッグ戦に出ずに師範になるのを待ってたんだもん。僕も師範になるのはもっと遅くても問題ない」
「な、なるほど…」
タッグ戦も含めると大会は年2回あるのだから、師範になろうとしたら最短で2年で師範になることができる。言われてみると、別に今すぐなろうとしないとダメと言うほどのことでもないか。
「でも、師匠や先生…いや、2人はいいって言うか」
「うん」
師匠や先生は姉弟子が出ていくことに反対するわけが無いというのはこの数ヶ月共に生活してよく分かっている。2人は姉弟子の決断を応援するだろう。
「この道場にはこれから弟子達が入るから私が居なくても道場は運営できるよ」
「それもそうだね」
今は俺と姉弟子しか弟子が居ないが、これから試験に突破した者が何人か入るから道場が無くなるということはないな。
「でも何で俺に付いて行きたいの?」
ここが少し疑問だ。姉弟子なら一人旅でも余裕でできる強さがあるから俺と一緒に行動する利点がない。まあ、1人より2人の方が安全とか2人行動による利点はあるかもしれないけど、それは俺でなくても良いと思う。
「僕はヌルヴィスがここに来てから凄く心身共に強くなったと自覚してる。だからヌルヴィスに付いて行くことでもっと成長できると思うんだ。僕はもう例えルール違反をされようとその程度で負けたくない。
今のところヌルヴィスに言える理由はこんな感じ。質問はまだあるかもしれないけど、そろそろ答えを聞かせてほしい」
今は言えない理由があるのかと揚げ足を取りたいところだが、まずは俺の結論を出さないといけない。
どうするべきか考えていると、師匠と先生が視界に入る。
「ごめ…!?」
俺が応えを言おうとすると、姉弟子は俺の胸ぐらを掴んで持ち上げた。
「もしかして、もし僕に何かあったとしたら2人が悲しむからとか思ってる?」
「っ!」
俺は姉弟子に図星を突かれた。別に俺は姉弟子の言った通りのことを思っていた訳では無い。だが、師匠と先生の姿が見えたら断らなければいけない気がしたんだ。そして、無意識に姉弟子の言った理由で俺は姉弟子の同行を断ろうとしていた。
でもその理由は断る一番の理由では無い。今の姉弟子の言葉で一番の理由に気付いた。
「それもあるけど、なにより俺が姉弟子に死んでほしくないんだよ!!」
姉弟子は立派だった両親のように師範になりたいとも思っている。それなのに、俺に付いて来たせいでその夢が絶たれるかもしれない。俺は俺のせいで姉弟子にそんなことになってほしくない。
姉弟子は俺が冒険者として旅立ち、始めて出会った尊敬できる同年代の相手なんだ。そんな姉弟子が俺のせいで死んでしまったら耐えられる気がしない。
「何のためにさっき戦ったと思ってるの!もちろん、2人で行動するんだから守り、守られるのはあると思うよ?!でも僕はヌルヴィスに一方的に守られるつもりは無いし、そうしてもらうほど弱くない!
今までヌルヴィスと行動してきた人達と僕は違う!!!」
「っ!」
姉弟子は刹那の伊吹や勇者らや護衛対象と違い、何かあったら絶対に俺が守ってあげないといけないような対象では無い。
「だからもし僕が死んだとしてもそれは全部僕のせいであってヌルヴィスのせいじゃない!」
「…そう…だよな。俺が悪かった」
姉弟子はそれを伝えたかったから俺に必死で勝てるように努力したんだ。そんな俺が気にする必要のないことを理由で断ったら、姉弟子のその努力は全て無駄だったと言っているようなものだ。
俺が謝ると、姉弟子は俺の胸ぐらから手を離す。
「俺を1発殴ってくれ」
「分かったっ!」
「ぐぶっ…!」
姉弟子は俺に言われた瞬間に遠慮無しで顔面を殴ってきた。俺の防御力が低いのもあり、俺の両鼻からは回復されて止まった鼻血が再び流れ出る。
ほら見ろ、姉弟子は俺よりも余っ程強い。むしろ、これは俺が守られる対象になる可能性すらあるわ。
「…俺から付いて来て欲しいってお願いしたいくらい、姉弟子が付いて来てくれたら嬉しいな」
「つまり…!」
姉弟子が付いて来てくれるだけで俺の冒険者としての活動はかなり楽になる。さっきの戯言を抜きにすると、俺に姉弟子の同行を断る理由は無い。
「姉弟子、一緒に次の水国ガルヴァルナーに行こう」
「うんっ!」
そう言って俺の差し出した手を姉弟子は握ろうとするが、その寸前で止める。
「え?」
「もう道場は関係無いんだから僕のことはラウレーナって呼んでよ」
確かに道場を出たらもう姉弟子は姉弟子ではなくなり、ただの仲間となる。
「分かったよ、ラウレーナ」
俺が名前を呼ぶと、ラウレーナは俺の手を握った。こうして、水国ガルヴァルナーにはラウレーナと共に行くことになった。
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