第193話 姉弟子の決断

「準備が出来たが、いつ出発するんだ?」


「明後日に出発しようと思う」


師匠達は言っていた通り3日後の夕方には予定通り準備を完了してくれた。明日は最後に師匠達や姉弟子と過ごし、明後日にはここを発とうと思っている。


「それなら、明日は僕と本気で戦ってよ」


「え?」


姉弟子は真剣な顔で俺にそう言ってきた。


「僕が不甲斐ない結果だったせいで試合ではヌルヴィスと戦えなかった。だから明日は魔力も使って僕に本気で勝つ気で戦ってほしい」


「分かった」


姉弟子のお願いを断るわけが無い。俺も姉弟子と試合で戦えなかったのは残念に思っていたからな。


「ルールは基本的に試合と同じだけど、場外は無しでやろうか」


「ああ」


道場内で場外を作るのは難しいので場外は無しで行うことになった。下手に場外を作って戦闘中に場外負けではつまらない。


「それじゃあ、また明日。おやすみ」


「おやすみ」


姉弟子は言いたいことを言い切ったのか、それから自室へと戻った。俺もそれからすぐに自室に戻り、1人で明日の作戦を考えた。



「両者準備はいいな?」


「「はい」」


そして、次の日の朝から姉弟子との試合が始まろうとしている。審判は師匠がしてくれて、怪我をしても先生がすぐに治してくれる。だから安心して全力で戦える。



「始め!」


師匠の合図で姉弟子は水魔装と水身体強化を行い、俺は闘装と雷魔装と闇身体強化と雷付与を行う。


「轟け!」


俺は後ろに下がりながら詠唱を始める。姉弟子には悪いが、今回は戦い方は考慮せず、本気で勝ちだけにこだわる。だから遠くから一方的に雷魔法を使う。また、接近戦も考慮して魔装と付与も雷にしておく。


「サンダーランス!」


「流れ出ろ!ウォーターボール!」


しかし、俺の放った雷魔法は姉弟子の水魔法に防がれる。さすがにこの展開くらいは予想されていたか。

その後も同じように何度魔法を放っても姉弟子の水魔法に防がれる。また、時々姉弟子の魔法を突破しても距離があるからか普通に避けられる。

雷の広範囲魔法を使おうかと思ったが、それも対策されている可能性がある。あれを回避されたら大量の魔力が無駄に減ることになるから使いづらい。



「轟け!」


俺は詠唱しながら姉弟子へと駆け出す。できれば近付かず魔法で倒したかったが、無理そうだからな。このまま魔法合戦をしても先に魔力が尽きるのは魔力消費が高い攻撃魔法を使っている俺だ。


「サンダー…」


詠唱が完了しそうになっても姉弟子は道場の角から動こうとしない。角なのに避ける自信があるのか、食らっても耐えられると思っているかは知らないが、そっちがその気なら存分に食らうがいい。


「ボム!」


俺はもう大鎌が届く距離に居る姉弟子へ雷の爆弾を放つ。もし避けれたとしてもそれは壁や床に当たれば爆発するから姉弟子は雷を避けれないはずだ。近くの俺は雷魔装のおかげでダメージはほぼ無いだろう。また、俺は魔法を放ってから大鎌も振っている。魔法を避けたら振っている大鎌で対処するつもりだ。


だが、次の瞬間には俺の予想外のことが起こった。



「ふっ!」


「は…?」


水魔装を纏っているはずの姉弟子が俺の雷魔法を腕で弾いたのだ。もちろん、弾かれてすぐに雷の爆弾は雷を発しながら爆発するが、それも効いている様子がない。


「あっ…」


「らあっ!」


そして、俺はその後にぼーっとしている場合では無いと気付くが、その時にはもう遅かった。姉弟子に雷が当たる前提で振っていた大鎌は今の無傷の姉弟子にとっては避けるのは難しくない。姉弟子は大鎌を避けながら俺の横に回ると、俺の背を蹴る。


「ぐっ…」


何とか、闘装と雷魔装のおかげでダメージを抑えることができた。しかし、俺はそんな事に安堵している場合ではなかった。

とりあえず、姉弟子から一旦離れようとする。だが、俺はさっき姉弟子が居た道場の角まで蹴り飛ばされ、目の前からは姉弟子が来ている。


「しっ!」


「うぐっ…」


振り返った時には目の前に姉弟子が居て、真後ろには角のため、逃げられない。しかも、姉弟子は雷魔装があるのにお構い無しとばかりに連続で殴ってくる。後ろが角のせいで満足に大鎌も振れない。


「闇れ!」


俺にできる反撃はストックしていた大量の魔力が込められたダークランスを放つことくらいだった。だが、苦し紛れのその選択は姉弟子にはバレていて、片腕でガードされる。姉弟子のガードした片腕には深い傷ができるが、所詮その程度で姉弟子の猛攻を止めるには至らない。


「暗がれ!」


俺は一瞬だけ片腕をガードに回したことにより、連打が弱まって生まれた隙に詠唱を始める。


「ダークバッ!?」


しかし、姉弟子は盾のように前に出した大鎌の内側から拳を振り上げ、強烈なアッパーを俺に食らわす。強制的に口を閉じさせられたことで詠唱は中断された。

大鎌を振ろうとすれば今よりも殴られ、大鎌でガードしてもガードを突破したりガードの上から殴られ、詠唱をしようとすれば顎を殴られて詠唱を止められる。俺にできることは何も無い。



「参った…」


八方塞がりかつ、意識が少し朦朧としてきた俺は姉弟子に降参を宣言する。


「勝者ラウレーナ!」


「よかった…。おっと、大丈夫?」


「何とか…」


前のめりに倒れそうになった俺を姉弟子は抱き着くように支えてくれた。


「僕、ヌルヴィスよりも強かったよね?」


「そうだな…。雷が効かなかったしな」


雷が効かないことに意表は突かれたが、それを知っていても雷が効かない時点で姉弟子には勝てない可能性はかなり高かった。


「へへへっ…。雷が通らない水魔装をできるようになったのは昨日なんだよ。しかもその水魔装を維持するには魔力をかなり使うから、2分程度しかできなくてもう少しで限界だったんだ」


「そうだったのかよ」


それを知っていたら…いや、こんなにボロボロになった時点でその後に雷が効くようになっても勝てんな。


「僕、ここでヌルヴィスとさよならしたくなくてこの3日間頑張ったんだよ」


「え?」


何を言っているのか理解に遅れる。俺が真意を理解するよりも先に姉弟子は俺の肩を押し、俺の目を見ながら話す。


「僕はヌルヴィスよりも魔物との戦いには慣れてないと思う。でも、ヌルヴィスよりも強いから足は引っ張らない。だから次の国に僕も一緒に行かせてほしい」


姉弟子は俺を見つめながらそう言った。

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