第192話 姉弟子の悩み
「ラウレーナ」
「っ!!」
話が纏まったところで、ずっと静かにしていた姉弟子に師匠が声をかけた。姉弟子は声をかけられてビクッと肩を震わせる。
「おっと、ヌルヴィスは少し外してくれるか?」
「ん?分かった」
俺は師匠の言葉に素直に従ってすぐに居間を出て自分の部屋へと向かった。
もしかすると、前の時のように俺を引き止めないように姉弟子に何か言うのかもしれないな。それならあまり俺は居ない方がいいよな。
〜〜〜〜〜〜〜
「どうするかは自分で決めなさい。儂らはラウレーナ自身が出した決断を尊重するぞ」
「…言われなくてもヌルヴィスを引き止めたりしないよ」
姉弟子は少し俯きながら師匠の言葉にそう返す。
「違いますよ。言いたいのはヌルヴィスに着いて行くかどうかです」
「っ!!」
姉弟子は自分の内心をズバリと言い当てられ、目を見開いて思わず先生の方を向く。
「ヌルヴィスの冒険者をしている時の話を聞いて目を輝かせていたのは知っておる。それにヌルヴィスとまだ一緒に居たいのだろう?」
「………」
姉弟子は師匠の問には答えず、ただ下を向いて俯いてしまう。
「儂らはラウレーナにこの道場に義務感で縛られて欲しくは無い。ヌルヴィスとラウレーナのおかげで今は弟子入り希望者は大勢おる。もうラウレーナしか弟子が居ないということもない」
「………」
俯いたままの姉弟子の反応を待たず、師匠はどんどん話していく。
「儂個人の考えとしてもずっとこの国にしか居ないのは勿体ないと思う。他の国、他の場所に行けば知見も広がるぞ」
「別に私達はラウレーナにここを出て行けと言っている訳では無いですよ。出て行くという選択肢もあると言いたいのです」
「………」
姉弟子はまだ俯いたまま2人の話をじっと聞いている。
「結論は今すぐ出す必要は無い。ただ、旅立つ準備が出来たらヌルヴィスは1人で行ってしまうぞ。だから3日以内にはどうするか決めなさい。ラウレーナの選んだことなら儂らはそれを応援する」
「ええ。私達はラウレーナの好きに生きて欲しいのよ」
「………部屋に戻るね」
姉弟子はそこで静かに立ち上がり、部屋に行ってからも1人でどうしたいかを考え続けた。
〜〜〜〜〜〜
「何か俺も準備に手伝うことはない?」
俺は師匠に呼ばれて夕食を食べている最中に師匠達にそう尋ねる。次の国へ行くための準備は師匠達がしておくと言ってくれたが、自分でもやるべきことはあるだろう。
「いや、儂らで全てやっておくから良いぞ。どこに何があるかも分からんのだから手伝えることはないだろ」
「あ、それもそうか。じゃあ、任せるね」
確かに何かを用意してと言われても、その何かがどこに売ってるかも分からないな。いちいち教えてもらうくらいなら師匠達で最初から用意した方が早いし楽なはずだ。
「儂らが準備している間はラウレーナと2人で修練しておいてくれ。ラウレーナもヌルヴィスのような特異な強者と戦える機会はあまり無いからのう」
「っ!!うん」
「分かった」
姉弟子は何かビクッと驚いたようなリアクションをしたが、すぐに頷く。しかし、姉弟子はずっと静かだが、俺の居ない話し合いで何かあったのかもな。でもわざわざ俺を抜きにして話したのだから聞かない方が良いだろう。
「…ヌルヴィスは今まで1人で冒険者をしていたの?」
「ん?あー、そうだな」
修練の休憩中に姉弟子がそう聞いてきた。一応刹那の伊吹達とや護衛依頼や学生の付き添い依頼で何回か複数人で冒険者活動をする機会はあったが、基本的に1人行動だな。
「それはどうして?」
「んー…。やっぱり信頼できない人だと魔法は使えないし、実力が同じぐらいじゃないと強い魔物へ挑んだりできないからな」
それが俺がソロで行動する主な理由になる。特に信頼の問題が大きい。魔法も使えるとバラされたら一気に俺は冒険者活動が出来ずらくなる。
ただ、実力の問題もそこそこ重要だ。俺よりも弱過ぎても強過ぎても一緒に冒険者として活動する上では不便になる。
「1人で不便だったことってないの?」
「かなりあるぞ。特に生活魔法が無いのと見張りを1人でしないといけないのが不便」
その2つが不便過ぎる。泥や汗や返り血で汚れても生活魔法が使えないから綺麗にできない。だから冒険者ギルドにも何回か血だらけで行くことになった。
また、寝泊まりするほどの遠出の場合は夜は完全装備の上で魔導具やアイテム類なんかに頼りながら比較的安全な場所で寝るか、そもそも寝ないかの2択しかできない。満足に夜寝れないのはかなり疲労が溜まる。
「そっか…。そろそろ修練の続きしようか」
「おう」
師匠達が俺のために用意をしてくれている間はずっと姉弟子と2人で修練をしていた。姉弟子との修練は時間が経つのがあっという間に感じ、すぐに3日が経って俺の用意が完了した。
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