第184話 決勝戦 1

『これより、決勝戦を始める!』


大会最後の試合ということもあり、そのアナウンスの後には観客席からは今大会で1番の歓声が聞こえる。


「まさか、人族がここまで来るとはな。お前は人族の中ではかなりの才能と運があるのかもしれないな」


一瞬褒められていると思ったが、人族の中ではということで獣人族の中では普通とでも言いたいようだ。


「ただ見る目がないから入る道場を間違えた。俺の道場なら第二の俺という存在になれたかもしれないのにな。どうしてもと言うならラウレーナと一緒に俺の奴隷としてなら道場に入れてやるのもやぶさかでは無いぞ」


連続優勝者の言葉を俺は聞きながら、もしかするとこの開始直前の会話も一強道場の作戦のうちなのでは?思っていた。毎回一強道場の奴らが言う言葉は似たり寄ったりしている。これは相手を挑発して冷静さを欠かせるつもりなのかもしれない。

相手によってはいい作戦だと思うが、試合で全員にそんな作戦を言い渡す道場に入りたいとは思わんがな。


「そんな戯言はどうでもいいからさっさと始めようぜ」


「そんなに早く負けたいならそうしてやるよ」


ここで俺と連続優勝者の試合開始前の会話は終了する。


『開始!』


そのアナウンスで俺と連続優勝者は身体強化と闘装を行う。連続優勝者は動く気がないようなので俺から攻めにいく。


「はあっ!」


「ふんっ」


俺の振った大鎌はあっさり連続優勝者の盾に止められる。今の俺に力では姉弟子のように仰け反らせるのは無理のようだ。

ちなみに、連続優勝者の装備は昨日の雷を帯びているものではなく、属性装備では無い代わりにシンプルに性能が良さそうだ。


「はっ!ふっ!たっ!」


「ふんっ」


俺はそれからも何度も大鎌を連続優勝者を狙って振るが、いとも簡単に盾で受けられる。


「ふんっ!」


連続優勝者は俺の大鎌を盾で受けるタイミングで剣を突き刺そうとしてくる。俺は連続優勝者の剣の腹を足裏で蹴ることでこれを回避する。



「どうやら、2位までの奴らに勝ったのは運が良かっただけでなく、実力もちゃんとあったようだな」


連続優勝者は一旦距離を取ると、上から目線でそう言ってくる。


「だから運が良ければ俺にも勝てると思っていそうなのも納得だ。だが、今日の俺との決勝に限っては運は関係ない。どう足掻いても無駄な圧倒的な力の差を分からせてやる。そうすればお前も泣いて懇願して俺の道場に入りたくなるだろう」


連続優勝者はそう言うと、勢いよく向かってくる。そのスピードは確実に俺よりも速い。


「はっ!」


「くっ…!」


近寄ってきた連続優勝者が振ってきた剣を受け止める。剣を持っているのは片手のはずなのに、両手持ちの大鎌で何とか受け止めれるほどの力がかかっている

そこから連続して剣を振るわれるが、何とか大鎌で防ぐことはできる。


「ふっ!」


「っ!」


しかし、唐突に盾で俺を殴ろうとしてきた。大鎌で防ごうにも剣も振ってきている。避ける余裕もないのでどちらかは受けるしかないか…。そう考えながらも俺は大鎌の長い柄の中心くらいを持って大鎌を横に向ける。


ガガキンッ!


「なっ!」


剣を峰の部分、盾を柄の先で受けることで俺は今の攻撃を完璧に防ぐことができた。


(なんか普段よりも調子がいい)


普段なら今の攻撃は防ぐことができない気がする。さっきの剣の腹を足で蹴ったのもそうだ。明らかに普段よりもよく動けている。

ここで普段の戦いと何が違うのかを考えたが、ぽんっといつもと決定的に違う点が思い浮んできた。


(そうか…俺は初めて人の為に戦ってる)


赤ベアやオーガ親子の時は刹那の伊吹の面々や幼なじみの為というのもあったが、あれは負けたら俺も死んでいた。

しかし、今は負けても死ぬ訳でもないし、師範になるつもりは無いから何なら負けても問題は無い。

それなのに俺が絶対勝ちたいのは姉弟子のためになんだ。人の為を思って戦うと力が湧いてくるものなのか?



「ちっ…」


今のを受け止められるとは思っていなかったのか、連続優勝者の顔が不機嫌そうになる。それと同時に身体強化のモヤが少し大きくなる。


「しっ!」


「くぅ…」


剣を受けたと同時に盾で殴られる。今度は剣を振る時と盾で殴る時にフェイントを混ぜられ、どっちも受けようとするとどちらも受けられなさそうだったから盾を受け止めるのは諦めた。

盾で殴られただけで俺の脇腹の闘装は割れ、鈍い痛みが走る。


「らぁっ!」


闘装を直そうと意識を向けた瞬間に顔に剣が振られる。俺はそれをしゃがんで避けるが、そう避けるのは読まれていてすぐ顔を蹴られて俺は数回転がる。転がった先で俺はすぐに立ち上がる。


「それでいいんだよ。お前は大人しくサンドバッグになってればいいんだ」


俺に攻撃を当てたからか、連続優勝者は両腕を開いて得意気にそう言う。


「やっぱり無理か…」


そんな連続優勝者を無視して俺は小さくそう呟く。一応魔力無しで勝てるならそれがベストと思ったんだが、そう現実は甘くないようだ。いつもより調子が良くてもこのままでは、一矢報いて一撃入れることはできても勝つことは無理だ。それに今の実力差で魔導具に備えることもできていない。



「本番はこれからだ」


俺に勝てると思って良い気になっている連続優勝者に対して、どう足掻いても無駄な圧倒的力の差とやらを分からせてやる。お前曰く、圧倒的な力の差とやらを分からされると泣いて懇願するらしいが、お前は泣いて何と懇願するんだろうな。

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