第183話 3位決定戦

『これより、3位決定戦を始める!』


大会最終日、俺の決勝戦の前に姉弟子と前回2位の3位決定戦が始まろうとしていた。

姉弟子は朝になったら平気そうにはしていたが、まだ昨日のダメージが完全に抜けたわけではないだろう。そして、例に漏れず相手の長槍と装備は雷を帯びている。

ちなみに、俺は昨日のように入場口のすぐ側で姉弟子の試合を見ている。

また、昨日俺に負けたからか、相手の前回2位は姉弟子を挑発したりはしていない。



『始め!』


その合図で姉弟子は身体属性強化と魔装、前回2位は身体強化と闘装をする。そして、珍しくお互い動かないで睨み合いが始まる。



「しっ!」


睨み合いを終わらせて動いたのは前回2位からだった。前回2位は姉弟子に近付くと槍を突き出す。


「うっ…は!」


姉弟子は雷を帯びる槍先を拳で弾くと、前回2位を殴ろうと近付く。しかし、その瞬間に前回2位は姉弟子から離れる。その後も姉弟子は何度も前回2位に迫るが、その度に離れていく。姉弟子は敏捷のステータスがないから素早さでは相手に適わない。


「流れ出ろ!」


姉弟子は相手を捕まえるために詠唱を始める。

その瞬間、前回2位は姉弟子に背を向けて走り出す。


「ウォーターバインド」


姉弟子は前回2位の脚を魔法で捕えるのには成功したが、その頃には前回2位との距離はかなり空いている。姉弟子が急いで近付くが、その前にウォーターバインドは解かれてしまう。


(…これはヤバいぞ)


前回2位は属性装備を使ってはいるが、姉弟子に勝つための対策を万全にしてきている。そこには昨日のような一強道場だからという驕りはない。姉弟子に勝つためにかなり練られている作戦だ。


「……」


(ん?)


心配しながら姉弟子を見ていると、姉弟子がチラッと俺の方を見てきた。ただ、それは一瞬で再び前回2位の方を向いた姉弟子は相手へと向かっていく。


「ふっ!」


「くっ…!」


相手の振る大槍に魔装が掠った姉弟子は顔をしかめる。しかし、姉弟子はそのまま拳を引いて構える。だが、相手は姉弟子の拳が届かないところまでバックステップでもう離れている。


「はあっ!」


それでも姉弟子は構わず拳を振る。それを見た相手はカウンターをしようと距離はそのままで槍を振ろうとする。


「かはっ…!」


(え!?)


しかし、前回2位は槍を振れなかった。その理由は腹に水の塊がぶつかって身体がくの字に曲がったからだ。

その水の塊は姉弟子の拳から放たれたものだ。



「魔装を切り離した?」


やっていることは俺の闇魔装時の大鎌の斬撃に似ている。ただ、俺のあれのダメージは【魔攻】なので姉弟子では同じことをしてもダメージにならないはず。


「拳の勢いで魔装を押し出した…の方が正しいのか?」


原理としては魔法で生み出した物を全力で投げ付けたに近いのか?

魔法は魔力で作った物を魔力を使って飛ばすから【魔攻】になる。高いところから魔法で作った岩や氷などの硬い物を落とした時のダメージは【攻撃】と【魔攻】のどちらでもない。自然にある岩を落としたのと同じ落下によるダメージとなる。

つまり、姉弟子がやった拳で押し出して勢いをつけてぶつけた水は【魔攻】ではなく、どちらかと言うと拳の振る速さだから【攻撃】に依存するだけで、ただの物理ダメージということか。


また、突然の奇策をもろに食らった相手に姉弟子は追い打ちをかけるべく迫る。


「はあ!!」


相手もすぐに背の短槍を抜いて向かってくる姉弟子を攻撃する。そんな苦し紛れの攻撃を姉弟子は何と躱したのだ。


「はあっ!!」


「がっ…」


元々防御力は高くない相手なのもあり、姉弟子の拳を顔面に一撃食らって前回2位は倒れて動かなくなった。


『勝者!護守道場!ラウレーナ!』


姉弟子は属性装備による雷のダメージ以外はノーダメージで勝利した。昨日の俺よりも余裕のある勝ち方だ。


「姉弟子、3位おめでとう」


「ありがとう。あれは本当はヌルヴィスとの決勝で使いたかったんだけどね」


姉弟子は俺の雷対策であれを生み出したそうだ。

もし、あれを準決勝に使っていたらあの連続優勝者に勝てたかもしれないと考えたが、すぐにその考えは間違いと気付いた。姉弟子が最後接近したように、あの水を放つのは奇襲としての性能は高いが、与えられるダメージ自体はまだ高くは無い。だから結局隙を作れるだけで、姉弟子は近付いて攻撃しないといけない。そうなると、魔導具を使われるという結果は変わらない。


「ヌルヴィスも頑張ってね」


「おう!」


姉弟子の3位決定戦の試合が終わった。

つまり、少し時間をあけたら俺と連続優勝者との大会最後の決勝戦だ。

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