第182話 4人で帰宅

「あっ、良かった。師匠がいた。ポーション持ってない?」


「ん?持っておるぞ。ほれ」


数分で師匠を見つけ出した俺はポーションを貰って傷を全て治す。どうやら師匠も救護室に向かっていたようだ。


「救護室には行かんかったのか?」


「一応寄ったんだけどちょうど姉弟子が起きたタイミングだったぽくてね」


別に師匠にまで隠すことでは無いので正直に言う。ただ、わざわざ何を聞いたかまでは言わないけど。


「………」


「ん?どうしたの?」


じーっと師匠に見つめられていることに気付いて俺は師匠にどうかしたのかを聞く。


「魔力を使う気になったのだな」


「っ!よく分かったね…」


まさか、それがバレるとは思っていなく、かなり驚いた。


「さっきの怒りに満ちた試合の後にそこまで憑き物が落ちた顔をされたら嫌でも気付くぞ」


「なるほどね」


観客席の師匠から見ても分かるくらい、さっきの試合の戦い方は俺らしくなかったそうだ。

ただ、今の俺が怒りを感じていないという訳ではない。姉弟子の試合を思い出さなくても一強道場基、連続優勝者には腸が煮えくり返っている。怒りを整理できて、この怒りをどうやって誰にぶつければいいか分かっただけだ。だから明日は今日のような試合はしない。


「だが、お主の目的次第では…」


「ちゃんと分かってるよ」


師匠が心配していることは簡単に分かる。

それは魔法を大大的に使ったら魔導具を使ったと判断されるという懸念だ。特にストックを使ったら確実に魔導具だと思われる。もちろん、後から俺のステータスを大会運営に公表したらその問題は解決するだろう。でも出来ればそこまではしたくない。そこまでしなければ勝てなければ致し方ないけど。


「その辺はしっかり考えているから安心して」


だからその辺をどうやるかは考えてはいる。多分上手く行くとも思う。


「それなら儂から何か言うつもりは無い。ただ、後悔はしないようにな」


「それは大丈夫」


絶対に魔力を使わずに負けた方が後悔するからそれの心配はいらない。


「ん?」


「あっ!ヌルヴィス」


そこまで話すと、後ろから足音が聞こえてきた。振り返って確認すると、歩いて来ていたのは姉弟子と先生だった。

一応小声で会話していたし、距離的に今の師匠との会話は聞こえていないはずだ。


「ヌルヴィスは準決勝勝ったの?」


「ああ!何とか勝ったぞ!」


俺がそう言うと姉弟子は嬉しそうにするが、その顔には少し影が落ちている。


「ぁっ…明日の決勝頑張ってね!」


「ああ、姉弟子も明日の3位決定戦頑張って!」


姉弟子は口を開いて何か言いかけるが、すぐに口を閉じてもう一度開いて明日の応援をしてくれた。さっきの話を扉越しに聞いていなかったら、最初に口を開いた時に何を言いたかったのかは気付けなかっただろう。


「それじゃあ、帰ろっか」


「おう」


それから俺達4人は歩いて屋敷まで帰る。


「わっ!」


「おっと…」


だが、すぐに姉弟子がよろけて倒れそうになるが、倒れる前に隣に居た俺はそれを支える。

姉弟子は完全に回復した訳では無いのだろう。もしかすると、明日の3位決定戦は万全な状態では挑めないかもしれない。…ここまで一強道場の作戦の可能性があるな。


「大丈夫か?おんぶしようか?」


「うーんと…お願いしようかな」


姉弟子は俺の提案で俺におんぶされた。姉弟子も鎧は外しているので全く重くない。まあ、鎧をしてようが簡単におんぶはできると思うけど。



「そう言えばね。パパとママの…最後の試合を見に行った帰りもパパにおんぶしてもらったんだ。その頃の僕はまだ子供だったから試合ではしゃぎ過ぎて帰りは眠くてね、パパの背中で寝てたんだ」


「そうなんだな」


おんぶをしてしまったのは失敗だったかもしれない。今のタイミングで思い出して欲しくない出来事を思い出させてしまった。だが、今更どうにもできない。


「ねぇ…ヌルヴィス…」


「なんだ?」


姉弟子は弱々しい声で俺を呼びかけてきた。


「少し眠ってもいいかな?」


「ああ、好きなだけ眠ってくれていいぞ。ちゃんと迷子にならずに屋敷まで送り届けるぞ」


「ありがとね」


姉弟子はそっと俺の肩に顔を落とした。


「………」


肩に顔を落とした姉弟子は寝てはいなかった。それは俺の前に回された腕がぎゅっと俺を締め付けるように力が入って震えているのと、肩が濡れる感覚で分かる。

俺はそれを感じながらどうやれば確実に明日勝てるかを考えていた。屋敷着く頃には姉弟子はいつの間にか本当に寝ていたので部屋まで連れて行ってベッドに寝かせた。

その日は師匠達との会話がいつも以上に少ない中で夕食を食べ、それからすぐに眠った。

そして、大会最終日がやってくる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る