第180話 姉弟子の準決勝 2
「はあっ!」
「うおっ…!?」
姉弟子が雷を無視して殴ってくるとは思っていなかったのか、連続優勝者の対応は少し遅れる。何とか姉弟子の拳を盾で受けることはできたが、体勢は崩れた。姉弟子の魔法で後ろに下がることはできず、大きく仰け反る。
「らあっ!!」
「うっ……!!」
姉弟子はそんな連続優勝者の胸を2回殴る。1発でヒビが入った闘装は2発目で完全に砕け散る。
(いけ!)
俺は心の中で姉弟子にそう叫ぶ。その応援が届いた訳では無いが、姉弟子はただの鎧しかない連続優勝者の胸に拳を振る。
しかし、その少し前に連続優勝者は仰け反ったまま姉弟子に不自然に届きもしない剣の先を向ける。また、盾で剣の持ち手を覆うようにするが、その少し前に剣の持ち手に何か光るものが見えた。
バチンッ!
「だから言っただろ?勝てるわけがないって」
「あぐっ…」
「…は?」
連続優勝者の持つ剣の先から1本の雷が姉弟子へと放たれた。それを食らった姉弟子は膝を着く。
今の雷の威力は属性のエンチャントされている装備で片付く強さでは無い。さっき一瞬見えた光る物とその威力で俺は真実に辿り着いた。今のは魔石を使ったのだ。武器に魔石を付けて魔導具のような効果を持たせたらそれはもうただの武器状の魔導具だ。当然試合での使用が許されているわけが無い。
「お前!魔導…あっ…」
俺が連続優勝者の違反を大声で言う途中でなんと、姉弟子が膝を着いたまま連続優勝者の左手首を掴んだ。
「なっ…」
「ふん!」
姉弟子はそのまま連続優勝者の手首を自分の方に引っ張ると、立ち上がりながらゆっくり修復していたため闘装の薄い連続優勝者の胸を殴った。
「ぐふっ…何で動ける」
「…これよりも強い雷を僕はずっと食らってたもん。こんな程度の雷で倒れない!」
姉弟子は苦しそうな顔を必死で隠しながら未だに腰まで縛られている連続優勝者に2歩踏み出し、殴りに行く。だが、我慢だけで雷は防げないはずだと思って姉弟子をよく見ると、なぜ立ち上がれているかが分かった。
(水魔装を闘装みたいに…)
姉弟子は水闘装を闘装のように区切って分けていたのだ。そのおかげで雷が当たっても以前のように全身に雷が回ることはなく、水闘装を纏っている一部分だけ痺れるだけで済んでいる。とはいえ、何度も殴って雷の装備に触れている拳なんかは水闘装の範囲以外の腕にも痺れは感じているだろう。
「はあっ!!」
姉弟子の拳を連続優勝者は剣で受ける。もう姉弟子の拳を盾で受ける気も無いようだが、姉弟子の力に剣がどんどん押されている。
「僕は負けない!」
「俺はお前らみたいなのに辛勝したらダメなんだぜ。俺は俺らしく圧勝しないとな」
そんな姉弟子を想いを踏み躙るかのように盾を姉弟子の腹付近に構える。この野郎…まさか!
バチンッ!
「あっ…あ……」
「やっと動かなくなったかよ。サンドバッグが動いてんじゃねーよ」
姉弟子は再び発せられた雷で正座のような形でぐたっとなる。
魔石を仕込んで魔導具となっていたのは剣だけでなく、盾もだった。
「あの野郎!」
「待て…!」
俺が通路から出て舞台へと行こうとしたところで腕を掴まれて止められた。
「こんな表立って使ってきたのはバレない自身があるからだ!現に上手く審判の目から隠したせいで審判は全く気付いていない!」
「だからってこのまま見て見ぬふりするのか!」
俺は俺を止めに来たであろう師匠に文句を言う。目の前でルール違反をしたゴミを野放しにするのか!
「ちゃんとそれ相応の代償は必ず負わせるに決まっておる!今のが魔導具ではないかと疑うのは儂らだけではない!最低でも次からは属性装備は使わせないようにできる!そうなったらもう雷の魔導具は使えん!それならラウレーナはこんな奴には負けん!」
俺は師匠の話を聞きながら試合中の姉弟子へと視線を向ける。姉弟子は意識はあるものの、痺れていて満足に動けないようで連続優勝者に斬られたり、蹴られたりでどんどん舞台の端へと移動している。少し動いているせいで審判も試合の終了をしない。
また、痺れているせいで水闘装も弱くなり、連続優勝者程度でも姉弟子に傷が付けられている。
「それに、ここで儂らが文句を言ったらお主が脱落となる可能性がある!そうなったら結果的に彼奴らの道場が優勝、準優勝と喜ぶだけだ…」
「くそがっ…!」
そう言いながら俺の肩を握ってきた師匠の顔には抑えきれない怒りに溢れていた。また、肩を掴んだ手の平からは血が滲んでいる。強く拳を握り過ぎたせいで手の平を指で刺してしまったのだろう。それを見て俺は少し冷静になる事が出来た。
また、今は姉弟子のために、一強道場を追い詰めるために、何もできることが無いことが理解できた俺は1人で悪態を着く。
「やっと端っこまで来たぜ」
そして、ちょうどその時、姉弟子は何度も攻撃されて俺と師匠の入口の真ん前の舞台の端までやってきた。
「相変わらずサンドバッグにちょうど良かったぜ。じゃーな」
そう言いながら連続優勝者は姉弟子を舞台から蹴り落とそうとする。しかし、そこで姉弟子は連続優勝者の足を掴んで連続優勝者を舞台の外に投げようとする。
「びっくりさせんな!」
「がっ…」
しかし、痺れが取れていなく、姉弟子には力がほとんど入っていなかった。だから最後の力は無駄となり、連続優勝者に頭を盾で殴られて姉弟子は舞台の外へと出た。
『勝者!撃砕道場!ジャンソル!』
俺はそのアナウンスがかかった瞬間に姉弟子の元へ駆け寄った。そして、しゃがんで横たわる姉弟子を見る。姉弟子には多くの外傷は目立つが、どれも命に関わるようなものでは無さそうだ。
「そこのサンドバッグを片付けておけよ。それと、俺について何か言いたいことがあるかもしれないが、無駄になるからやめた方がいいぜ。まあ、別に言ってもいいが、お前の試合はどうなるかな?あっ!どうせ次は勝てんだろうし、言っても変わらんか!」
「………」
俺はその言葉を聞いて無意識に背の大鎌の柄を握る。取り戻した少しの冷静さは今の言葉で消え去った。
(ストックを使えば殺せるか?いや、大鎌で闘装を割ってからの方が確実だな。それなら頭を吹き飛ばすくらいはできる)
俺は心の中で確実に殺すための作戦を立ててから立ち上がる。そして、実行するために1本踏み出そうとする。
「…だ…め……」
しかし、俺のズボンの裾を姉弟子が弱々しく掴み、俺を止めて来た。
気絶するのを耐え、痺れた腕を懸命に動かして俺のために掴んできたその手を俺には振り払うことはできない。
「お前もサンドバッグとして可愛がってやりたいから勝ち上がってくるのを願っておいてやるぜ。無理だろーがな!」
連続優勝者はそう言って笑いながら立ち去っていく。
俺は気絶してしまった姉弟子が担架で運ばれるまで姉弟子の近くに居るだけしかできなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます