第179話 姉弟子の準決勝 1
「おつかれ。随分と苦戦したようだね」
「まあ…ね」
前回3位の実力は伊達ではなく、俺は苦戦を強いられてしまった。
「でも無事に勝てて嬉しいよ」
「ありがとう」
危ない場面は多々あったが、特に大きな負傷するをすることも無く勝てた。
「後1回勝てば僕とヌルヴィスでの決勝だね」
「そうなるな」
お互いに準々決勝を勝ったので、明日の準決勝に勝てば俺と姉弟子は決勝戦で戦うことになる。
「そのためにも明日はお互い頑張ろうね」
「おう!」
俺と姉弟子は鼓舞し合って拳を合わせ、2人とも連続優勝者と前回2位と侮れない相手だが、お互いに明日も勝てることを願った。
『これより!4回戦、準決勝の第1試合を行う!』
次の日の10時頃、姉弟子と連続優勝者の試合が始まろうとしていた。今日と明日は2試合しかないので、時間が少しいつもよりも遅い。逆に俺の試合は2時頃といつもよりも早くなっている。
「俺らの道場の者と戦わなかったから運良く勝ち上がれてよかったな。だが、ここで俺と当たるとは運もここまでのようだな」
連続優勝者が姉弟子に話しかけているのが聞こえる。観客席では舞台の者が何を話しているかまでは聞こえない。ならなぜ今の俺は聞こえているのか言うと、舞台への入場入口にいるからだ。
普通では入れないが、次の試合の者だけは前もっての準備のために入れる。その特権を使って俺は誰よりも近く、それこそ会話が聞こえるくらいの距離で姉弟子の試合を見れるのだ。
それにしても全身に雷が迸る装備をし、万全な姉弟子対策をしておいてよくそんな口が聞けるもんだ。
「確かに運はあるかも。出来の良い弟弟子ができたから僕は負けたくなくて強くなったんだもん」
その言葉を聞いて俺は嬉しくて思わず声が漏れそうになった。
姉弟子は俺がここに居ることは知らない。多分大丈夫だと思うが、知られたら姉弟子は俺の視線を気にするかもしれない。万が一のために俺は気付かれるわけにはいかない。
「強くなってるのか?悪いが、俺の物差しはメートル単位だからミリ単位の成長は気付かん。一昨年と何か変わったのか?」
「なら気付かせてあげる」
姉弟子はそう言うと、会話を打ち切る。連続優勝者もこれ以上会話を続ける気は無いようでさらに話しかけることは無かった。
『始め!』
その合図で姉弟子は身体属性強化と水魔装をし、連続優勝者は身体強化と闘装を行う。
また、最初に動き出したのは連続優勝者で、姉弟子に向かって走る。
「ふっ!」
姉弟子に近寄った連続優勝者は右手に持つ雷が迸る片手剣を姉弟子に振る。姉弟子はそれを左腕を上げて受けると同時に右拳で連続優勝者の顔面を殴りにいった。
「おっと、危ない危ない」
「くっ…」
しかし、その右拳は連続優勝者が左手に持っている丸い盾によって防がれる。もちろん、この盾も雷が迸っている。連続優勝者は珍しく、片手に剣、片手に盾と攻守の整った装備をしている。
ちなみに、この雷がエンチャントされた武器が魔導具に分類されないのかと少し気になって師匠に聞いたのだが、魔導具には分類されないそうだ。
魔導具とは魔石の力を使って様々な強い効果を生むものである。それに対し、今の連続優勝者が使っている属性装備は特殊な鉱石や彩化などの魔物の素材を上手く混ぜ合わせて作ることにより、装備自体に属性を付け加えたものである。魔導具ほど強力な効果がある訳では無いので、前にも聞いた通り武器や防具の1種とするそうで属性装備は許可されているらしい。
ちなみに、属性装備は今までの大会ではほとんど使われていなかったらしいが、姉弟子対策にわざわざ一強道場が使い始めたそうだ。その時も属性装備を禁止すべきという案も出たそうだが…また一強道場がゴネてなかったことになったそう。
「流れ出ろ!ウォーターバインド!」
姉弟子は痺れを堪えながらも舞台から生やした水で連続優勝者の足から腰までを巻き付けて動けないようにする。
「おいおい、そんな事しなくても逃げないぞ?だって俺が圧倒的に有利なんだから」
しかし、その魔法を食らっても全く気にせずに焦ることも無く、解こうともしない。むしろ、両腕を開いて余裕そうにしている。
「そもそもこの装備がある限りどう足掻いても俺には勝てるわけないだよ。道場の差だよ、道場の差」
確かに連続優勝者は剣や盾だけでなく、関節など以外は雷の迸る金属の装備を纏っている。また、小癪なことに雷は闘装をすり抜けている。そのため、闘装で武器や装備を強化しながらも、姉弟子には雷の攻撃ができるのだ。
「悔しかったら俺の道場に呼んでやっても良いぜ?まあ、その時はお前は俺の専用の奴れ…」
「そう、動かないでくれるなら良かった。それならずっと殴れる!」
姉弟子は連続優勝者の言葉を遮り、迸る雷を無視して連続優勝者へと殴りかかった。
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