第178話 俺の3回戦

『3回戦最後の第4試合を行う!』


姉弟子の試合の後も連続優勝者と前回2位の試合があったが、両者とも残念ながら余裕で勝ち上がった。両者の相手は同じ一強道場の相手だったが、少しも苦戦している様子が見えなかった。でも相手が手を抜いているとも思えない。わざわざ演技指導をしているとは思えないので、もしかすると連続優勝者と前回2位の対戦相手には本気を出す範囲を決められているのかもしれないな。例えば、身体強化や闘装などを全力の半分程度までしか出すなとかな。お互いに次の試合のためにその決まりにすると言われたら納得する部分も生まれるだろう。そして、それを連続優勝者らが守らなければ次の日の試合に影響を出さないほど楽に勝てるだろう。

まあ、あくまでこれはただの仮説だけど、一強道場ならやっていてもおかしくないと思えてしまう。



「私を前の試合の不甲斐ない4位と一緒にしないでね。運で勝ち上がった4位と私は違うのよ。だからあなたの快進撃もここまでよ。人族が初参加で準々決勝まで来るのは史上初の快挙だと思うわ。分不相応の望みはやめて、それで満足しなさい。何なら私達の道場に招いて上げてもいいわよ?」


「はあ…」


思わずため息が漏れてしまう。もう一強道場の者は対戦前にこういうことを言うのが決まりなのだろう。そうでなければこいつらは揃いも揃って自尊心やプライドの塊みたいなものになってしまう。


「そう言うのは勝ってから言ってくれ。そうでなければ頭にも残らん」


「ふんっ!ならそうさせてもらうわ」


勝った後に同じことを言われたらそれはそれでムカつきそうだが、負けなければ問題は無いな。



『始め!』


審判のその合図で俺は大鎌を抜きながら身体強化と闘装を行って、相手の女へと向かっていく。一方、相手の女は魔装をし、杖を構えて魔法の詠唱をする。


「硬くなれ!アースウォール!」


相手は自分の3mほど前に土の壁を作る。そのせいで俺からは相手の姿が完全に見えなくなった。


「硬くなれ!アーススピア!」


「はあっ!」


土の壁の横から3本の土の矢が飛んできたが、俺は大鎌で叩き折る。軌道は複雑だったが、3本とも俺に当たるタイミングは同じだったし、危険感知も反応していたから処理は簡単だった。

俺は勢いを止めることなく、相手へと迫って行く。しかし、それから相手からのアクションはなくなった。不安に思って俺は少し詠唱を始める。

そんな中、土の壁が目の前直前まで来た時に急に土の壁が消えた。その瞬間に危険感知が反応する。


「アースランス!」


「っ!?」


そして、いつの間にか土の壁と触れるくらいまで近くにいた相手は普通のよりも3回り以上大きい土の大槍を準備していた。小声でバレないように詠唱されたであろうそれは土の壁という障害物が無い中、俺に真っ直ぐ向かってきた。


「シールド!」


俺は前もって詠唱を途中まで済ませていた無属性魔法の丈夫な盾を目の前に5枚張る。最初の2枚までは連続で一気に割られるが、3枚目からは割れるまで数瞬持ちこたえた。


「はっ!」


結局、5枚とも割られたが、その頃には大槍の勢いもかなり落ちている。だから俺の大鎌で簡単に壊せた。


「なっ…あっ!」


相手の女はそれを見て慌てて逃げようとする。見てからでは遅い。俺は逃げている相手を追う。


「硬くなれ!」


「はあっ!」


逃げながら必死に詠唱していたが、俺が追いつく方が早く、俺は背中目掛けて大鎌を振る。しかし、相手の女は急に振り返ってきた。


「アースっ!!」


「ほう…」


俺は思わず感心してしまった。その理由は相手が大鎌を杖で受け止めたからだ。受け止めたとは言っても、相手は勢いに負けて背中を舞台につけて滑るように吹っ飛んではいた。だが、杖を離すことなく、大鎌からほぼ無傷で逆に俺から離れたのだ。恐らく、土魔装で手と杖が離れないようにガッチリ固定したのだろう。


「ボム!」


俺から無事?に離れた相手は途中で止まっていた詠唱を完成させる。さすがに爆発するボム系の魔法を斬るわけにも行かず、俺は少し距離を取って避ける。


「硬くなれ……」


「っ!?」


相手が更に詠唱を始めた瞬間に危険感知が軽く反応した。これが魔法が放たれる前の反応なら無視した程度の弱い反応で、現に予選とかで何度も無視している。だが、さっきの土の大槍ですら詠唱途中では反応してなかった。

そのことから次の魔法がどんな魔法なのかは察すことができた。多分、今詠唱しているのは俺のよく使うダークバーンなどの広範囲魔法だ。広範囲魔法なら詠唱が完成した時点で俺に危険があるから詠唱段階でも弱く反応したのだろう。

俺に魔力を使わずに広範囲魔法を受け切る自身はない。つまり、魔法が完成したら負けてしまう。


「撃て!」


「アー…ス」


ここからでは魔法発動までに間に合わないと感じ、俺は走りながら慌てて詠唱をする。


「アタック!」


「メ?!」


俺の闘力でできた弾は相手へと一直線で向かっていく。詠唱途中の相手もこれには目を見開いて驚く。


「テっ!!?」


俺の無属性魔法の弾に当たった相手は思わず杖を落とし、詠唱が強制的に中断された。広範囲魔法に集中するために魔装を弱めていたな。それと広範囲魔法を放つのに時間がかかっていたのにも救われた。


「斬れ!スラッシュ!」


「ぐっ…」


相手もすぐに杖を拾おうとするが、杖へ伸ばした腕目掛けて今度は無属性魔法の斬撃を放つ。

その斬撃は相手が杖を握る前に腕に当たり、思わず痛みで杖を握れずに腕を引っ込めた。


「ふぅ」


「あっ…」


その間に近寄っていた俺は相手の女の首の横に大鎌を添える。


「……参ったわ」


『勝者!護守道場!ヌルヴィス!』


何とか勝つことができた。だが、今回は本気で危なかった。もう少し遅かったら広範囲魔法が完成していた。また、落とした杖を拾われていたら、また遠くへ逃げられ、今度こそ広範囲魔法が放たれていたかもしれない。だから確実に魔装を突破できるであろう無属性魔法の斬撃まで使ってしまった。

そのおかげで無事に勝てたのはいいが、これで俺の手札は全部出してしまったわけだ。

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