第177話 姉弟子の3回戦
「少しヒヤッとする場面はあったけど、勝ててよかったよ」
試合が終わって姉弟子と合流すると、開口一番そう言われてしまった。
「もう過度な温存は命取りって学んだよ」
「僕もそう思うよ。次からはもっと大変になると思うから油断しないようにね?」
俺の次の相手は前回3位の奴で、多分その次は前回2位の奴だ。連続優勝者が居ない分こちらはかなりの激戦区になっている。
次からは無属性魔法のシールドくらいはバンバン使った方がいいかもな。
「それじゃあ、明日もお互い頑張ろうね」
「ああ」
俺と姉弟子はそう言って拳を合わせて2人で勝ち上がれるように意気込んだ。
『これより!3回戦、第1試合を行う!』
そして、次の日姉弟子の試合が始まろうとしている。姉弟子の試合は毎回朝一なのは可哀想だ。まあ、毎回夕方前だった俺もそれに負けず可哀想だと思うけど。
『始め!』
その合図で姉弟子は身体属性強化と魔装をする。相手の男は魔装だけを瞬時に済ませる。
姉弟子は準備が整ったら相手へ向かって行くが、相手は後ずさりながら即座に詠唱を始める。
「吹き荒れろ!ウィンドランス!」
相手の詠唱は早く、姉弟子が近くにやってくる前に魔法を放つ。その魔法を姉弟子は片腕で逸らすが、水魔装の一部が削られた。
(風魔法は切断力に優れているな)
風魔法は他の魔法と比べても穿く力や斬る力が優れている。だからこうも簡単に姉弟子の水魔装の一部が削られたのだ。もちろん、相手のステータスや技術もあると思うけど。
だが、その魔法を逸らした姉弟子は相手に迫りつつある。早くも勝負は決まったかと思ったが、そうもいかなかった。
「なっ?!」
しかし、そこで観客席にいる俺は驚いた。姉弟子が逸らしたはずの風魔法の大槍がくるっと方向転換して再び姉弟子に向かっていったのだ。
「ん?わっ!?」
だが、姉弟子の背に向かってくる魔法に何故か気付いた。姉弟子は魔法の正面を向いてその魔法を両腕で受け止める。
「轟け!」
それを見て相手は更に違う魔法の詠唱を始める。
「サンダーボム!」
「流れ出ろ!ウォーターウォール!!」
姉弟子は魔法の属性を悟ってか、向かってくる魔法を絶対に防ぐために地面から水の壁を出す。それはギリギリ間に合い、雷から姉弟子を守った。しかし、相殺されて姉弟子の魔法はすぐに消えた。
「しっ!」
新たな魔法を使ったことで風魔法の制御は疎かになって消えた。そのため、姉弟子は相手へと迫ろうとする。だが、その頃には相手は遠くまで逃げていた。
さっき姉弟子が魔法の詠唱をした瞬間に自分の魔法は当たらないと悟ったのか、仕切り直すために遠くまで逃げていた。姉弟子に魔攻が無いと分かっているとするならいい作戦ではある。
「近付けたら姉弟子の勝ちだが、このまま近付けなかったら…」
相手が生粋の魔法職である以上、近付けさえすれば姉弟子の勝つ確率はグンっと上がる。だが、このまま近付けなかったらどうなるか分からない。
「流れ出ろ、ウォーターウォール。
流れ出ろ、ウォーターウォール。
流れ出ろ、ウォーターウォール。
流れ出ろ、ウォーターウォール。
流れ出ろ、ウォーターウォール。」
「ん?」
姉弟子は遠くにいる相手までの舞台に間隔などは不規則にウォーターウォールを複数作る。確かに設置型かつ作ってから変形しないから複数作ることは難しくないが、それでも維持するのにはそれなりの集中力は奪われ続けるだろう。
この魔法は何のためかはすぐには分からなかったが、姉弟子の相手の男視点で考えたらすぐに分かった。
「しっ!」
「と、轟け!」
ウォーターウォールに隠れながら隙を伺って近寄ってくる姉弟子に当てようと相手は魔法の準備をする。
「さ、サンダー…」
しかし、詠唱がさっきまでと比べて格段に遅い。まあ、今の状態なら詠唱が終わったところでどうせ魔法を放てないもんな。だって、姉弟子はウォーターウォールに隠れながら近付いて来ているからな。
魔法は詠唱を必要とする以上、1度放ったら再び放つのには少し時間がかかる。さっきのように放ったあとで動かすこともできるが、この障害物を避けつつ動き回る姉弟子に当てるのは無理だ。だから今は障害物から出てきた姉弟子に当てようと集中しているせいで詠唱どころではないのだろう。
魔法を使うのに接近戦を挑みに来る相手とは戦ったことは無いから対処がかなり遅い。これはご愁傷さまだな。
「…ボール!!」
結局、相手は普通よりも何倍も大きなサンダーボールを放った。動き回る姉弟子を狙うのは諦めたようだ。別にこれは悪手では無い。妙手に近いとも言ってもいいのだが、如何せん決断が遅かった。もう姉弟子は近くまで来ているのだ。
「はあっ!」
「かはっ…」
相手の男はサンダーボールの陰から現れて突撃してきた姉弟子に腹を殴られた。姉弟子から離れようと舞台の端に居た男はその一撃で舞台から出てしまう。
『勝者!護守道場!ラウレーナ!』
さすがの姉弟子でももう余裕とまではいかなかったが、無事に勝利することができた。
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