第174話 オッズ
「手を出さないか心配したよ」
控え室への通路の途中で姉弟子からそんなことを言われてしまった。あいつのムカつく口調に手を出したいと思ったが、出そうとは思っていない。
「姉弟子の役割を俺が取っちゃダメだから我慢したよ。だからよろしくね?」
「ありがと、僕に任せてよ!」
対戦順的には俺ではなく、姉弟子の方があいつと準決勝で戦うことになる。
「決勝は楽しみにしてるよ。僕の両親も何度も決勝で戦ったらしいし」
「あー、でも勝敗は男女逆になるな」
姉弟子の両親では母の方が父よりも強く、母がずっと勝っていたそうだ。だが、姉弟子との決勝の勝敗では男女は逆にして俺が勝ってやる。
「口で言う分は好きにさせてあげるよ」
姉弟子は余裕そうにそう言う。魔力無しだからって舐めてるな?そんな調子なら痛い目に合わせてやるぞ。
「そもそもヌルヴィスは決勝まで上がれるの?」
「あれ?姉弟子がそれを言う?姉弟子の方こそ心配だよ?」
「なんだとー!」
こんな調子で俺達はからかい合いながら控え室に戻り、闘技場を後にした。
「早朝時点のオッズが出たけど見るか?」
「見る!」
「あ、見たい!」
開会式の次の日、現時点でのオッズが発表されたらしい。師匠がオッズ表を貰ってきて見せてもらった。
「げっ、あいつ1.02倍かよ。どんだけなんだ」
単勝での連続優勝者の倍率は1.02倍だった。堅実な者はこいつに賭けるそうだ。特に一強道場の者のほぼ全員はここに大金を賭けるそうだ。ちなみに、大会参加者の名義で賭けることは禁止されているそうだ。
他のメンツを見てみると、一強道場の者が30倍から40倍程度で一強道場以外は50倍から100倍だ。
ちなみに、年に数回のイベントということもあり、かなりの人数がかなりの金を賭けるそうだ。
「あ、でも姉弟子は28倍だ」
姉弟子のオッズは一強道場の面々よりも低くなっている。
「大穴にラウレーナを推すやつは毎回いるんだ。単純に応援として入れてる奴もいるだろうがな」
「頑張らないと」
姉弟子は俺が思っていたよりも期待されているみたいだな。さて、俺のオッズはと言うと…。
「…0.0倍って何?」
俺のオッズは0.0倍となっていた。これはどういうことなんだ?
「それは誰も賭けて無いってことだ」
「ここまでだと逆に清々しいな」
俺の戦い方も見ていた道場関係者から噂が広がったようで、ルール違反では無いが、狡をして予選を勝ち上がったとされているそうだ。そんな人族に大事な金を賭ける者は居ないよな。確かに狡い戦い方をしたのは否定しない。だが、あれが1番予選通過においては確実な方法だった。
「ちなみに、儂らはラウレーナに黒貨1枚賭けたぞ」
「うぇ!?マジかよ!」
黒貨は大金貨10相当で、豪華な家が1つ土地代含めて建てられるくらいの値段である。姉弟子のオッズが高い理由はそれが絶対あるだろ。というか、そんだけ賭けても24倍ということはあいつには合計でいくら賭けられてんだ?
「儂はヌルヴィスに賭けるつもりは無いが、自分に賭けてみるか?それともラウレーナに賭けるか?」
師匠らは俺には賭けるつもりは無いそうだ。身内贔屓だと思ったが、魔力を使うなら賭けるとボソッと言った。なるほど、師匠らも魔力無しで姉弟子に勝てないと思っているわけだな。
「俺の単勝に大金貨1賭けておいて」
俺は自分のマジックポーチから大金貨1枚を出して師匠に渡した。この程度なら俺の所持金の数分の1
だから負けても問題無い。
ちなみに、俺名義ではなく、師匠名義でなら俺が誰かに賭けることは許されている。こんなことができるなら八百長もできてしまう訳だが、かなりの箔が付いている連続優勝者を金のためにわざと負けさせることはしないだろう。この箔を付けるのに一強道場は前任者も含めて十年以上かけているのだから。
まあ、そもそも年に一度の大会優勝は金には変えられないものなのだ。
ちなみに、最終的にあいつのオッズはほぼ変わらず、姉弟子のオッズは35倍となり、俺のオッズは1267倍となった。
『これより!第1試合を行う!』
そんなオッズの変動はありつつも、3日経ち、試合が始まろうとしている。俺が勝てば大黒貨12枚とかになる訳だが、とりあえずはオッズのことは考えず、大会で勝ち上がることに集中しよう。
さて、初戦でいきなり姉弟子の試合が始まる。
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