第169話 魔力無しでの実力

「はあっ!」


闘装と魔装の攻撃的利用の実験が終わったので、今はさっき言われた通り魔力無しで姉弟子と模擬戦をしている。

そんな中、俺が振った大鎌を姉弟子は避けずに脇に食らう。しかし、それでは全くダメージにはなっていない。


「ふっ!」


「おっと!」


姉弟子からのカウンターを後ろに大きく下がって距離を開けることで避ける。


「やっぱどうしようと無いな…」


魔力無しではどうやっても姉弟子の水魔装を突破する方法が見つからない。


「動かないけど手は尽きた?」


「くそ…」


言葉には出していないし、本人にその気は無いと思うが、魔力を使ってという意思が表情に溢れている。


「あっ」


ここで1つ案を思いついた。水魔装を突破できないことには変わりないが、ダメージは与えられるかもしれない。


「はあっ!」


俺は姉弟子に駆け寄り、大鎌を振る。しかし、俺は姉弟子に当たる前に大鎌を手放す。これには既にカウンターを放っている姉弟子も目を大きく開く。俺はそのまま進み続け、姉弟子の拳を屈んで躱して姉弟子に身体がぶつかるくらい接近する。


「よっ!」


俺は姉弟子に背を向け、突き出された姉弟子の腕を掴むと、そのまま背負い投げて地面に叩き付けた。


「ちっ…!」


それでも姉弟子はダメージを受けた様子は無い。水魔装がクッション代わりとなったのだろう。


「このっ!」


しかし、このまま姉弟子の腕から手を離してしまえば俺は素手でそのまま姉弟子と戦わなければならない。俺は姉弟子をもう一度持ち上げて地面に叩き付けるように投げつける。


「僕と格闘で戦うなんて3年早いよ」


「え?」


姉弟子を叩き付けようとしたのに、姉弟子は地面に両足で着地したのだ。


「よっ」


「あっ…」


そして、姉弟子は逆に俺の腕を掴んで俺がやったように地面に叩きつけようとする。だが、俺は師匠と最初に戦った時に掴んだ腕を解かれたことで解き方は分かっている。俺は姉弟子の腕に手を巻き付けるようにして、弾くように解く。


「やべ」


そこで失敗したと悟った。中途半端な技術で余計なことをしなければよかった。姉弟子の手を解けたのはいいが、俺は空中で無防備となった。


「やあっ!」


「左!」


俺は山勘で姉弟子が俺に下からする攻撃を左拳と予想し、それだけに対処しようとする。俺の山勘は当たり、空中で姉弟子の手首を右手で掴んで自分の体を無理やり動かすことで姉弟子の拳から逃れた。


「うりゃあ……!」


「うっ…」


俺は姉弟子の後ろに着地すると、姉弟子の左肩を後ろから右手で掴み、持ったままの姉弟子の左腕を背中から姉弟子の体に巻き付けるように引っ張る。

姉弟子の水魔装は外からの攻撃には強いが、今みたいな身体を変に曲げることによる骨へのダメージには防御手段は無い。


「舐めるな…!」


俺が姉弟子の腕を後ろに引っ張れたのは一瞬で、すぐに引っ張り返される。【攻撃】の数値は姉弟子の方が高いので、このままだと力負けするだろう。だから姉弟子が全力で引っ張り返したのを確認したら俺は姉弟子の腕をパッと離す。

そして、俺は少しジャンプし、無防備な姉弟子に後ろから抱き着くように飛び付く。その時、首に左腕を巻き付け、自分の左手を右手で握り、思いっきり締め上げる。また、脚は姉弟子の腕ごと腹辺りに巻き付く。

俺は姉弟子の首を締めながら、両手の自由を封じることに成功する。


「流れ出ろ!ウォーターボール!」


「かぽっ…」


しかし、姉弟子はそこからの行動が早かった。水の球で俺の顔を覆うことで俺の呼吸を止めにきた。俺は姉弟子に抱き着いているのでもちろん動けないから水魔法をどうにもできない。

ここからは姉弟子の意識が落ちるのが先か、俺の呼吸が持たなくなるのが先かの持久戦だ。


「よっ」


「こぱっ…」


姉弟子は身体を少し捻ると、勢いよく背中にいる俺を床に叩き付ける。これには思わず息が少し漏れる。


(あっ)


その時に俺の少し力が抜けたのか、姉弟子の右腕が俺の脚の抑えから抜け出した。姉弟子はその右腕で俺の脇腹を何度も肘打ちしてくる。俺の闘装はすぐに割れるが、割れたらすぐ作り直す。



(もう限界だ…)


5分以上は経っただろう。先に限界が来たのは俺だった。俺の手の力が抜け、姉弟子の首から腕を離すと、姉弟子の首にも水魔装があるのが見えた。水魔装のせいで完全に首を締められなかったのか。だから姉弟子は意外と余裕そうなのか。

やはり、姉弟子に魔力無しでは勝てないな…と考えながら俺はそのまま倒れて意識を失った。

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