第167話 現状

「なあ、今の姉弟子なら大会で優勝できるのか?実際にどうなのかをはっきり聞かせてくれ」


俺は夕食が終わったタイミングで師匠と先生が居て、姉弟子が居ない時にそう聞いた。


「雷系の武器を使われなければ優勝できる。だが、相手は7年は優勝し続けておる上に雷系の武器を使ってくる。中々難しいとしか言えんな」


「優勝し続けて?そいつはタッグ出ないのか?」


それならもう3度の優勝はとっくに達成しているだろう。ならば、タッグで優勝したら師範になれる。


「タッグでも優勝しておる。だが、師範にならずにずっと門下生組の大会に出ておるのだ」


「は?」


意味が分からない。普通は師範を目指して大会に頑張るものでは無いのか?ずっと優勝していたらそれこそ他に師範になれる人が居なく…あっ。


「他の所に師範を新たに生まれさせないため…」


「そうだ」


ずっと優勝している者がいる道場は例の魔導具毒殺疑惑の真犯人と思われる道場らしい。その道場が優勝し続ければ新しく他の道場で師範になれる資格を手にするものは生まれない。


「ただ、自分の道場には師範を生まれさせるため、門下生組の優勝は時々変わる」


現に今の優勝者も2代目らしく、その前に代替わりはしていたそうだ。


「昔はこんなことをやろうにも上手くいきっこないからそれを阻止する決まりはないのだ」


道場の一強が起こらなければそれはできなくなる。だって新たに強い者が他の道場で生まれたら普通に優勝されるからだ。ただ、今の優秀な者のほとんどが1つの道場に集まるならそれは可能になる。


「今更規則を変えようにも文句を言われるからのう」


門下生組で何度以上優勝した者の出場を禁止するという規則を追加しようとする考えも出たそうだ。しかし、その一強道場が猛反対。何でうちだけが不利になるような条件を追加されなければならないのだ。他の道場の者が弱いのが悪い。私達は正々堂々戦っているだけなのに可哀想だ…とか色々言ってごねたそうだ。最終的にそんな規則を作るなら私達の道場からは大会に誰も参加させずに新たに自ら大会を作るとか言い出したらしい。流石に伝統的な大会を潰す可能性は作りたくなく、新たに規則は作れないそうだ。


「だから相手は師範クラスには強い。もちろん、儂などの師範の中でもトップクラスの者と比べるとまだまだだがな」


「そうか」


そもそも師範の者を師匠と先生しか知らないが、とにかく2人と同等くらいに強くなくてよかった。


「もし今の俺が魔力無しで大会に出たらどこまでいけると思う?」


「余程運が悪くない限り本戦には行けると思う」


大会に出る者の1/3以上が一強道場の者でさらにそこから本戦に出場するのは4/5以上が一強道場の者だそう。まだ大会に出る者の人数が多いのは分かるが、そこから4/5以上が本戦に出場するのは驚きだ。そんなに一強道場の者は強いのか?


「何でそんなに極端なんだ?」


「一強道場の者は必ず他の道場の者に攻撃をする」


「そこまでやられると寧ろ清々しいとすら思われるわ」


予選はバトルロイヤルのため、そんなことが可能だそうだ。だから本戦に行ける者は一強道場の者が多いらしい。まあ、純粋に強い者が多くいるというのもあるらしいが。

また、一強道場の者が姉弟子対策に雷装備を集めて使ってきているそうだ。今までは正々堂々でそんな道具に頼ったやり方はどの道場もしなかったらしい。だから師匠らも弱点の克服について上手く指導しきれないそう。



「本戦に行って勝ち進めたとしても今のお主…いや一月後のお主でも魔力無しでは連続優勝の師範クラスには勝てんだろう」


「……だよな」


魔力無しでも勝てるならそれが一番いいのだが、そう都合よくはいかないよな。そもそも魔力無しでは姉弟子の相手にすらなれないし…。ん?


「姉弟子の強さって師範クラスなの?」


最初の問で姉弟子は雷系の武器を使わなければ優勝できると断言した。つまり、連続優勝の師匠クラスには勝てるということだ。


「誰の孫で誰の娘だと思っておる。去年から師範クラスの強さはあったぞ。そして、今なら師範の大会に出ても善戦くらいはできるぞ」


「おいおい…」


師範の大会に出る者は自分の実力を試すためという者が多く、熟練なのもあるが普通にレベルも高いため勝つのは難しいそうだ。だが、良い試合と言われるくらいには善戦できる実力を姉弟子は持っているらしい。

つまり姉弟子は師範クラスではなく、熟練師範数歩手前の実力があるそうだ。



「聞きたいことはもう無いか?」


「もう大丈夫だ。また何かあったら聞きに来るかもしれないからよろしくね。今日はありがとう」


俺はそう言って2人と別れた。この話し合いでどうするか決めれたらと思っていたが、無理だった。

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