第166話 得をした者ら

「2人共に個人戦では優勝しておったからのう。今回のタッグ戦も優勝確実と言われておった」


師範になるには個人戦とタッグ戦の両方での優勝経験と個人戦とタッグ戦の優勝が合計で4回ないといけないらしい。

その点、ラウレーナの両親は婚約する前からお互いがこの道場でライバルのような関係だったらしく、15歳から個人戦では優勝を争っていたそうだ。だが、ラウレーナの母の方が強く、ずっと個人戦の優勝はラウレーナの母でその回数は3回は超えていたそうだ。

だが、お互いタッグのペアになる者がおらず、タッグにはその時が初出場だったらしい。タッグ戦の出場が遅れたのには婚約したらすぐにお腹にラウレーナができたからというのもあるそうだ。子供がお腹にいる間はさすがに動けなかったので、師範になれるという自信ができるくらいまで勘を取り戻すのに4年かけ、タッグの大会に出場したのはラウレーナが4歳の時らしい。

ちなみに、後から師匠にこっそり聞いた話だが、元は夫よりも強かったのに出産してから勝てなくなったのが悔しく、再び勝てるようになるまでタッグはしなかったそうだ。

また、ラウレーナには両親が亡くなった時の記憶はあるそうだ。



「息子らに魔導具を使った道場は儂らに多額の賠償金を支払い、さらに道場は取り潰しとなってこの出来事は終わった」


ちなみに、その大会から持ち物チェックというのが始まり、魔導具の持ち込みは今までと比べて格段に難しくなったそうだ。



「さて、お主はこの出来事で1番得したのは誰だと思う?」


「え?」


急に質問を投げかけられてしまったが、冷静に質問の内容をよく考えてみる。

まず、師匠やラウレーナが得したことは全くない。そして、魔導具を使った者やその道場の者も特をしたとは言えないだろう。


「ヒントを出そう。その大会から個人戦、タッグ共に優勝者が出ている道場は変わっておらん。ついでに言うとその道場はこの街で1番大きく、人が多い」


「…その大会の優勝者とその者が属している道場が1番得をしているな」


ずっと個人で優勝者争いをしていた者が消え、タッグでも優勝確実と言われていた者らが消えた。つまり、今大会の優勝だけでなく、今後の大会はかなり有利となるわけだ。



「あれ?でもタッグで優勝したら道場を継ぐから出る大会が変わるよね?」


「その大会で優秀な成績を出したらその分良い指導者が居ると周りからは見える」


「ああ……」


良い指導者が居るとなればその分その道場に入ろうと思う者も増えるだろう。

これはもう黒だと言ってもいいほどその道場にとってその出来事は都合が良すぎる。


「だが、黒と断言できる証拠は見つからなかった。だから糾弾はできず、泣き寝入りするしか無かった」


少し怪しさはあったが、怪しさの段階から出すことはできずに真犯人だと言えるほどではなかったそう。


「さすがに悔しかったからのう。次の師範の大会とタッグの大会では優勝してやったがな」


「はは…」


現役復帰した瞬間に優勝できる師匠と先生もどうかと思うけど、さすがだな。


「でも、それなら何でこの道場には人は居ないんだ?」


師匠達が優勝したならこの道場には箔が付いただろう。そうなればこの道場に入る者も0では無いだろう。


「元々入るのに審査に厳しかったのもあるが、…毒殺された者がいる道場に入ろうと思う者もいないだろう」


「……」


確かにその評判はどうやっても覆すことはできないだろうな。


「それに…」


師匠がそう言うと、師匠と先生は目線を逸らして少し小さい声で続きを話す。


「息子らはやんちゃで元々あまりこの道場には人が居なかった」


「おいっ!」


ラウレーナの両親は人にとても厳しく、自分にはとことん厳しくのタイプだったそうで、その厳しさに耐えられる者は少なかったそうだ。

それでもその2人が師範となったらこの街の道場の中で覇権を握れると思うほど2人は強く、カリスマ性があったらしい。



「まあ、主流が防御ではなく、攻撃に移ったというのも大きいだろうがな」


そういえば、闘装や魔装を攻撃に使うというのはどういうことなんだろうか?今は聞ける雰囲気では無いからまた今度聞こう。


「話が逸れたが、ラウレーナは両親が果たせなかったタッグの大会での優勝、そして師範になることが夢なのだ」


師範になるには個人戦でいくら優勝しても仕方がない。もしかすると、師匠が弟子を探し回っていたのは姉弟子と一緒にタッグの大会に出て勝てるような人材を探していたのかもしれない。


「話はこれで終わりだが、ラウレーナは付け加えたいことはあるか?」


「全部言ってくれたからない。夢もその通りだよ。ただヌルヴィス、さっきは酷いこと言ってごめんね」


「俺は大丈夫だよ」


姉弟子は泣いて腫らした目で俺を見つめながら最後に謝ってきた。別に姉弟子に言われたことなんて、あの勇者らからされたことに比べたら髪の毛の先でつつかれた程度のダメージもない。勇者らには姉弟子の爪の垢を煎じて飲ませたいくらいだ。


「ヌルヴィスもダメージがまだ残っておるし、修練を続ける雰囲気でもないから今日は休暇としてこれで終わりだ。2人ともゆっくり身体を休めてくれ」


まだ昼前だが、今日の修練はこれで終わりになった。じっと話を聞いていたからか、普通に歩けるくらいには回復したから俺は歩いて部屋に戻った。



「…俺はどうすればいいんだ」


そして、部屋のベッドの上で休みながら、ぼーっとそれだけを考え続けた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る