第164話 言いたくないこと

「あー…いってっ!」


目が覚めたら道場で横になってた。起き上がろうと動いたが、模擬戦中よりはかなり軽いけど頭痛が襲ってきたのでその場で肘を付いて止まった。


「起きたようですね」


「あ!大丈夫?」


「大丈夫か?」


俺の傍には先生が居て、俺が起きたことを道場内に居た師匠や姉弟子に伝えてくれた。すると、師匠と水魔装をして座禅していた姉弟子は俺に近寄ってくる。


「3時間ぐらい眠っていましたよ。それで今はどんな調子だい?」


「軽い頭痛と目眩があるくらい」


動いた瞬間だけはそれなりに痛んだが、じっとしている分には頭痛と目眩はそれほど酷くは無い。


「姉弟子は大丈夫?」


「僕はもう回復してもらって平気だよ」


姉弟子はそう言って両腕を見せてくる。その両腕には穴が空いていた場所がもう分からないほど傷がなく綺麗になっていた。先生は優秀な回復魔法使いだな。


「もー、大会の途中でそんなことになったらせっかく勝っても次の試合は棄権することになるかもしれないんだから気をつけてね」


「分かったよ」


どんなに勝ち上がっても次の試合までは1日は空くらしいが、この調子なら次の日になっても完全には回復していなそうだしな。


「ちょっとステータスを見てみろ。何か増えてないか?」


「ん?ステータス」


姉弟子の注意が終わったところで、師匠からそんなことを言われた。看破で何か変化が出たのか?新しく取得したスキルは隠蔽で隠せていないしな。

俺は自分だけ見える状態でステータスを表示した。



【名前】  ヌルヴィス

【種族】  人族

【年齢】  16  (1UP)

【職業】  不遇魔法剣士

【レベル】 27 


【生命力】 422/425  

【闘力】  425/425  

【魔力】  425/425  


【物攻】  213  

【魔攻】  213  

【防御】  120  

【敏捷】  187  

【精神】  187  


【物理スキル】

・大鎌術Lv.6・身体強化Lv.5(1UP)・大刀術Lv.4

・無属性魔法Lv.3・体術Lv.3

・闘力操作Lv.3(1UP)・闘装Lv.1(New)


【魔法スキル】

・闇魔法Lv.6・雷魔法Lv.5(1UP)

・氷魔法Lv.5(1UP)・身体属性強化Lv.4(1UP)

・魔力操作Lv.3(1UP)・付与魔法Lv.2

・魔装Lv.1(New)


【他スキル】

・隠蔽Lv.6 ・危険感知Lv.1・気配感知Lv.1

・多重行使Lv.1(New)・解体Lv.1






「あれ?なんか増えてる」


魔物を殺してないからレベルは上がっていない。また、闘装と魔装が増えたのと、色々と修練でレベルが上がったのは理解していた。

だが、この模擬戦で1つ増えたスキルがある。


「その新しいスキルのおかげでさっきの魔法は成功したのだろう。そして、今後の戦闘は今よりももっとやりやすくなるだろう」


「なるほど」


このスキルは同時に複数のスキルを使いやすくする補助的な役割を持つスキルのようだ。元々同時に様々なスキルを使っている俺だが、今日のように自分の限界を超えて使おうとしたのは初めてだろう。そのおかげで一気に取得のための経験値が溜まったのだろう。



「話は終わった?反省会をしたいんだけど…大丈夫?」


「ああ、大丈夫」


師匠との話が終わったや否や姉弟子は反省会を始めようとしてきた。あまりにも急だったので俺は少し驚いてしまった。


「多分、ヌルヴィスは僕の重大な欠点に気付いたと思うんだ。それを教えて欲しい」


姉弟子はそれを早く聞きたくて反省会を始めたかったのか。姉弟子の勘は正しく、俺はその欠点について前から薄ら気付きつつあり、この模擬戦で確信した。ただ、それを今から指摘してもいいものかと思っていた。

だが、姉弟子から聞いてきた以上答えないわけにはいかない。本人が知りたがってるのに教えないというのは俺のエゴでしかない。



「姉弟子は防御力に自信があるんだと思う。勿論それはいいし、実際にその通りだと俺も思う。ただ、それが欠点にもなってる。雷という当たってはいけない決定的な弱点以外で姉弟子は回避というのをしようとすらしてない」


「………」


姉弟子はそう言われて顔を暗くし、師匠と先生も顔を険しくする。

3人のその反応の理由は分かる。恐らく、姉弟子が回避をしない理由に防御が高いのはもちろんあるが、根本的には敏捷が無いためにそもそも攻撃を避けれないからだと思う。

それを敏捷を含めて姉弟子が持っていないステータスを全て持っている俺が言ってしまっているのだ。3人…特に姉弟子の内心は複雑だろう。

だが、ここまででは言葉が少し足りない。欠点は指摘したが、俺が本当に言わなければいけないのはここからだ。


「俺は最後の魔法以外の攻撃は姉弟子に回避されない前提で戦ってた。だから同じ場所に連続して攻撃を当てて水魔装を突破できた。これまでの模擬戦で水魔装を雷抜きで突破したのも同じ方法だ。

だから避けきれなくても回避しようと動けば結果は変わるんだ」


「っ!」


何も俺は攻撃を完全に避けろと言いたいわけでは無い。姉弟子が避けようと動けば俺が連続して同じ場所に攻撃するのは困難になる。そうなったら姉の魔装は突破できなくなる。だって姉弟子の魔装を一撃で突破するのはそれこそあの魔法のような超強力なもの以外には無理だからだ。あれも準備が長いので姉弟子は避けようと思えば避けれたはずだ。


ただ、これからは攻撃を回避しようとすればいいで話は終わらない。攻撃を避けようとすると姉弟子の得意の攻撃を食らう前提の強力な速攻カウンターはできなくなる。今から急に回避を取り入れたら残り一月後の大会では回避も下手、カウンターもできなく、全てが中途半端に終わってしまう可能性がとても高い。それもあって俺はこれを言いたくなかったのだ。

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