第162話 初めての突破

「え?雷じゃないの?」


俺が背負った大鎌を抜きながら変更した魔装について姉弟子はそう聞いてきた。俺が変更したのは闇魔装と闇身体強化で追加したのは無属性付与だ。まあ、無属性付与のモヤは闇魔装に隠れて見えていないから分からないと思うが。

また、姉弟子にしたら闇身体強化は分かるが、自分と戦うにおいては魔装は雷の方が相性的に良いのに何でそうしないのかと疑問なのだろう。もちろん、雷魔装の方が姉弟子に有利というのは俺もよく分かっている。


「今の俺の全力を見せるならこれで最適だ」


「そう」


先の通り姉弟子に勝つことが目的なら雷魔装以外に選択肢は無い。だが、今回の戦いの目的は勝つことではなく、全力を見せることだ。それなら闇魔装が最適解だ。やはり、俺は攻撃特化の方がステータス的にも性格的も性に合っている。

ちなみに、姉弟子は俺に素っ気ない言葉を返してきたが、その割には顔は嬉しさを隠しきれないかのようにニヤついている。


「今度はこっちから行くぞ!」


俺がそう言って姉弟子の方へ走っていくと、姉弟子は真面目な顔にすぐに戻ってその場で拳を構える。俺は走りながら両手に握った大鎌を振り被る。


「ふっ!」


「っ!」


そして、大鎌の範囲に姉弟子があと1、2歩というところで大鎌を勢いよく振る。姉弟子は前に見た闇斬撃を警戒して両腕を前に構えた。

だが、その構えは無駄に終わる。なぜなら俺は大鎌を大振りしただけで斬撃は放っていないからだ。まだ1度も食らったことの無い闇斬撃を姉弟子は1番警戒しているはずだと思っていたが、予想は当たった。


「らあっ!」


俺は大鎌を振った勢いを殺さず、そのまま一回転して今度は大鎌で姉弟子の左から斬り付ける。


「うっ…!」


姉弟子は大鎌が当たるタイミングで後ろへ飛び、衝撃を軽減させた。姉弟子は後ろに転がって体勢を崩したが、すぐに体勢を立て直す。


「水魔装を突破して斬られた感想は?」


「悔しい。それと痛い」


姉弟子の左腕付近の水魔装が少し赤く滲んでいる。その原因は俺に斬られたことによる出血だ。

今まで斬撃に強いという特性を持つ姉弟子の水魔装を斬ることはできなかった。姉弟子も水魔装の上から斬られたことは無いと自慢していた。模擬戦の時に魔法で水魔装を突破することは合ってもそこから斬ったりはできていなかったからな。大体残った水魔装を警戒して峰打ちをしていた。

それなのに闘装と魔装で俺の攻撃力が上がったわけでもなく急に斬れたのにはちゃんと理由がある。


「魔装の斬撃をそこで使うなんて」


「いいアイディアでしょ」


俺は姉弟子に大鎌が当たる数瞬前に闇の斬撃を放ったのだ。それで姉弟子の水魔装に斬れ込みを入れ、そこに大鎌を通すことで水魔装を突破したのだ。

ちなみに、俺は話している間に大鎌へ再び魔装を纏い、そのせいで少なくなった魔装を補充している。


「斬撃の威力も分かったからもう同じのは食らわないよ」


今のが完璧に決まったのは姉弟子が最初に斬撃を警戒して防御体勢を取ったことでカウンターができなかったからだ。闇斬撃を放つことで、普段ただ大鎌を振る時よりも大鎌が姉弟子に当たるのにタイムラグができる。そのため、姉弟子にカウンターを狙われていたら大鎌とカウンターのタイミングはほぼ同じかカウンターの方が早くなってしまう。そうなったら今回のように全力で斬り付けることはできないだろう。

最初は闇斬撃の威力が未知数だから警戒してくれたが、闇斬撃単体では水魔装を突破できないのはもうバレているからさっきほどの警戒はもうしてくれない。


「大丈夫。次は違う攻め方をするから」


さっきのは俺にとって実験の側面も大きかった。あんな至近距離で闇斬撃を放っても大鎌が闇斬撃に押されないか、そもそも任意のタイミングで闇斬撃を放てるかなど疑問点も多かったからな。


「次行くぞ」


「来い!」


俺が大鎌を構えてそう言うと、姉弟子は両拳を前に構える。さっき感覚的には二の腕を骨くらいまでは斬った気がするのだが、普通に動かしているな。

ん?そういえば水魔装に滲む血の赤色の量がさっきと比べて変化が無い。水魔装で止血しているのか?そうだとしたら後でやり方を教えてもらおう。


それはともかくとして、再び俺から姉弟子に向かって行った。

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