第161話 今の全力

「さて、そろそろ闘装と魔装を用いて戦ってみても良いだろう」


「おっ!」


「やった!」


朝食の時に師匠から姉弟子との戦いで闘装と魔装を使う許可が出た。これは予選まで残り1ヶ月を切る少し前のことだ。

それにしても、何気に姉弟子が俺よりも喜んでいる気がする。


「それに伴って模擬戦の時間を増やすぞ」


いつもは1日何戦かだったのを、修練の約半分の時間を模擬戦に当てるそうだ。それもただ続けて戦い続けるのではなく、数回戦ったら姉弟子と反省会をし、反省点の修正と相手の対抗策を練る時間を取るらしい。その時に自分に足りない技術が見つかれば模擬戦は一旦終わりにし、その技術の習得を目指すそうだ。


「お主は特に闘装と魔装の強度をどうするかをよく考えろ」


「強度…」


闘装と魔装は闘力や魔力を込めれば込めるほど強固になる。ただ、込めれば込めるほど他に使える量が減ってしまう。そのバランスをどうするかを姉弟子と戦いながら掴めということだ。


「ちなみに、師匠はいつもどのくらいにしてるの?」


「儂は看破で見た相手の強さによって強度は変えておる」


参考にするために聞いたのに全く参考にならなかった。もちろん、看破で相手の強さを見破るのも無理だが、そもそもそんな細かい強度の変更を毎回行うのすら無理だ。


「お主は自分の闘力が温存できるラインを見つければ良い。そのラインを見つけるにはラウレーナは持ってこいだろう」


「分かった」


確かに姉弟子の防御を削るには全力の身体強化らだけでなく、魔法らも必要になる。さらに、姉弟子との戦いは俺がヒットアンドアウェイをしている関係で長期戦になることも多々ある。姉弟子との戦いは闘力や魔力の消耗度合いを考え、闘装と魔装に使える量を決めるにはちょうど良い。


「それと、早いうちにヌルヴィスとラウレーナにはお互いに全力で戦ってもらおうと思っておるのだが、今日いきなり最初にやるか、数日経ってからやるかどっちが良い?」


「「最初がいい」」


師匠の質問の応えを即答すると、タイミングが俺と姉弟子で被った。これでお互いに違うことを言っていなくてよかった。


「まず最初に俺の闘装と魔装がどのくらい姉弟子に通用するかを知りたい」


「僕はまず闘装と魔装を使ったヌルヴィスが前よりもどのくらい強くなったかを知りたい。それに早く知って、早めに対策を考えたい」


俺と姉弟子の目的は違うが、意見が一致しているから問題ない。

ただ、姉弟子は大会で戦うことを想定しているので、全力を見せない方が良いかもしれないと考えてしまう。だが、そんな考えは一瞬で一蹴する。横で一緒に闘装や魔装のトレーニングをしておいて、隠す物は何も無いだろ。隠す物が仮にあったとしてもこれまでのトレーニングに散々付き合ってくれたのだから見せてもいい。それに大会までは残り1ヶ月あるんだ。これはお互いにとって中間発表みたいなものだしな。




「準備はいいか?」


「ああ」


「うん」


軽く身体を動かして準備が整うと、道場で俺と姉弟子は迎え合っていた。さっき言った通りこれから本気で戦うのだ。万が一のために回復魔法を使える先生も近くで待機している。


「始め!」


師匠からその合図が出た瞬間に姉弟子は水魔装と水身体強化を行う。俺も同様に闘装と魔装と強化を行う。


「それでいいの?」


「とりあえずはね。まずは慣らしの準備運動くらいはさせてよ」


俺が行ったのは闘装と身体強化、氷魔装と氷身体強化だ。さすがにこれを本気というのは無理がある。


「準備運動をするのは勝手だけど、それで終わらないでよ!」


姉弟子はそう言いながら向かってくる。俺はそれを大鎌を背負ったまま拳を少し前に出して構えて待つ。それを見て姉弟子はキッと普段から鋭い目付きをさらに鋭くする。


「しっ!」


近付いた姉弟子はジャブのようなパンチを放ってくる。俺はそれを避ける。


「はあっ!」


俺はジャブのカウンターで全力で殴ろうとするが、姉弟子もそれのカウンターを放っている。

俺の拳が先に姉弟子に当たるが、やはりこの程度では効いてはないようだ。


「はっ!」


「うっ!」


そして、姉弟子の拳が俺の胸に叩き込まれた。腕などで何の防御もしていないので、前までだったらこれだけでノックアウト気味になっていた。


「さすがに痛い…けど!」


姉弟子の拳で胸の闘装と氷魔装は砕け、拳は俺の胸にも当たったため痛い。だが、痛いだけで、この程度ではノックアウトに程遠い。


「らあっ!」


「少しは耐えられるようになったねっ!」


俺は胸の闘装と魔装を作り直しながら再び姉弟子へ拳を放つ。姉弟子もそれを見てまた拳を放つ。1、2分の間は殴り合いが続いた。同じことを闘装と魔装無しでやったら30秒すら持たないからかなりの進歩である。

ただ、これで終わらせる気は無い。俺はもう十分だと思ったタイミングで姉弟子から距離を取った。


「準備運動は終わった?」


「もう十分だよ。ありがと」


姉弟子はわざと闘装と魔装を狙って攻撃してくれていた。直し途中のものには攻撃は避けてくれていた。そのおかげでとりあえず、それなりに痛い程度で姉弟子の攻撃を耐えられる闘装と魔装の強度は分かった。

だが、その優しさはここで終わりだろう。ここからは姉弟子も遠慮なく闘装と魔装に隙が合ったら狙ってくる。それを食らえば結局前と変わらない。だから何かは変えなければいけない。


「それならここからは…」


「正真正銘、今の俺の全力だ」


姉弟子の言葉に被せるように俺はそう言うと、魔装と身体属性強化を変更した。

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