第156話 姉弟子の上達

「うおっおお…!」


「残り半分といったところか」


修練開始25日目で闘装や魔装の取得までの圧縮が半分くらいまでできるようになった。この調子なら大会までに闘装と魔装を取得するだけでなく、その後に自分の戦闘スタイルに合わせるのも間に合いそうだ。


「この後はいつも通りラウレーナと戦ってもらうからな」


「雷は?」


「昨日は無しだったから今日は有りだな」


雷有りと聞いて俺は内心でガッツポーズをする。ここ最近は雷無しでは姉弟子に手も足も出なくなっていた。



「模擬戦始め!」


その合図で俺は身体強化と雷身体強化と雷付与を行い、姉弟子へと向かっていく。ちなみに、身体強化類のモヤは1/4ほど抑えられるようになっていた。


「流れ出ろ!」


向かってくる俺を見ながら姉弟子は詠唱を行う。最初急に行った時は動揺を誘うためのブラフかと思ったが、そうではなかった。


「ウォーターバインド!」


「ふっ!」


床から水のツタのようなものが現れ、俺を捕まえようとする。俺はそれを横に移動して避けるが、それを予想していたのか姉弟子は俺の前に来ている。


「「はあっ!」」


俺が大鎌を振り出したタイミングで姉弟子も俺に1歩踏み込み、拳を放ってくる。姉弟子のこのタイミングの攻撃はカウンターと言うよりも、相打ち覚悟の攻撃にしか思えない。ただ、それは姉弟子の魔装が無ければの話だ。

俺は途中で大鎌を振る向きを変え、姉弟子の拳に大鎌を当てる。あのまま姉弟子の体に大鎌を振ると、お互いの攻撃が当たる訳だが、その場合は俺が食らうダメージの方が遥かに大きい。…試したことがあるから分かる。


「轟け!サンダースピア!」


「流れ出ろ!ウォーターウォール!」


姉弟子の攻撃によって後ろに押し負けた俺は雷魔法を放つが、姉弟子は水魔法の壁で防ぐ。姉弟子は模擬戦中によく魔法を使うようになった。1度、姉弟子に手札が少ないと言っただけでこれを思いつくんだからな。確かに攻撃しない魔法だったら魔攻は関係ないから普通に使えるはずだ。

もう姉弟子の隙を作らないと魔法さえ当たらなくなった。そして、近距離では相打ち覚悟の攻撃がやってくる。最近の俺は攻めあぐねていた。


「轟け!」


「流れ出ろ!」


俺が相変わらず離れて詠唱を始めると、姉弟子も詠唱を始める。ただ、無駄なことを何回も続けてやる趣味は俺には無い。



「サンダーバーン!」


「ウォーターウォール!?」


俺から雷の広範囲魔法が放たれた。これを水の壁だけで防ぐことは不可能だ。

ただ、広範囲のため、壁や床も焦がしてしまう訳だが、それは師匠に許可を取った。というか、使っていいかを聞いたら二つ返事で了承してくれた。模擬戦で道場が汚れるのは当たり前のことらしい。



「ぐぐぐっ…」


魔法が終わって雷が消えると、その中から苦しそうに立つ姉弟子の姿が見えてきた。あれをまともに食らって立っていられるのか。


「轟け、サンダーアロー!」


俺は再び姉弟子の遠くから魔法を放つ。こうしてみると、俺は姉弟子の天敵のような存在だ。

姉弟子の弱点である雷を使い、そのくせ物理職のステータスを持つので、普通の魔法職と違って姉弟子のスピードでは追い付けない。そのため、姉弟子は遠くから一方的に雷魔法を放たれ続けることになる。ただ、師匠や先生曰く、弱点の克服には一方的に雷を使ってくる者と戦うのも良いそうなので、ルールで禁止されていなければ遠慮なく使っている。



「勝者、ヌルヴィス」


やはり、雷魔法有りでならまだ勝てるようだ。まあ、そのルールでまで負けたら俺は全く勝てないということになるんだけどさ。


「次は雷の詠唱魔法は無しでやるからな」


「「はい」」


そして、今の俺は詠唱して放つ雷無し、つまり雷付与や雷身体強化有りで姉弟子に負け越すくらいの実力だ。雷付与のおかげで接近戦でも多少は戦えるから一方的な戦いにはなっていない。

心做しか、俺を置いて姉弟子がぐんぐんと強くなっている。このまま俺が闘装と魔装を取得する前に雷を克服するのではと思うほどの勢いだ。




「おお!それだ!できておるぞ!」


しかし、そんなことはなく、姉弟子が雷を克服するよりも俺が闘装と魔装を取得する方が早かった。

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